第15話 破滅エンド回避のために… (15話)
あれから2年、私は7歳を迎えた。
王族教育や貴族としてのマナー講座は、前世の記憶とクレヤボヤンスによる読書の成果で恐ろしく順調である。
私の物覚えの良さに家庭教師の先生はあきれ、両親は驚喜している。
しかしながら、破滅回避の方法についてはかなり行き詰まりを感じている。
真っ先に思いついたのは、月の裏コロニー移住計画である。
断罪されたらすぐに月へ逃げる。
テラフォーミングした月の裏には、夜な夜なテレポーテーションで持ち込んだ動植物を繁殖させ、今では和風、洋風、中華風の都市エリア3つ、森林エリア、草原エリア、湖沼エリアまである。
疑似東京都の謎ビル最上階には、前世の私の部屋を再現した部屋を最高階に作った。
森林エリアや草原エリアは表層土ごとテレポートさせて直径10m程度の植物付き土壌をいくつか持ち込み、そこから繁茂させた。
惑星からの持ち出しがばれないように、人跡未踏の森林や秘境と呼ばれる地域から少しずつテレポートさせた。
湖沼エリアは水漏れしないように土壌を固い岩盤に改変後、水や泥、動植物を持ち込んだ。
動物は魔獣以外なんでも移住させてみた。
重力が5分の1しかない月の裏側で、大型の動物の繁殖が難しいことが分かった。
低重力のため骨などが弱くなるらしいのだ。
しかしコロニーエリアの空間の歪みを調整することで物質の重力が操作できることを突き止め、現在では動物を放した地区や居住エリア内の重力を母星と同じにすることに成功している。
この能力の発動には、空間の歪みを維持するために、膨大な魔力を定期的に供給する必要があるのだが、どうせ余っている魔力なので湯水のごとく魔力を注ぎ込んでいる。
惑星と衛星では昼と夜の長さが違うので、成分抽出や化学結合操作を駆使して仕掛けを施した。
昼間を暗くするためにクリスタルガラスのドームの内側に銀を付着させ、夜の時間に合わせて銀箔としてクリスタルガラスに貼り付ける。
こうすることでクリスタルガラスは巨大な鏡となり、太陽光がほぼ反射されてドーム内は夜となる。
夜を明るくするためには、大量の白熱電球をと鉛蓄電池バッテリーを準備した。
蛍光灯やLEDの作成も試したが、蛍光物質や半導体の組成が分からず、試行錯誤の段階である。
その点白熱電球はタングステンフィラメントを真空にしたガラスに配置して閉栓するだけだったので簡単だった。
鉛蓄電池の充電は、サイコキネシスで電子を移動させることによって可能となった。
鉛板と酸化鉛板が劣化すれば化学結合を操作して新品同様にリサイクルしている。
昼夜の切り替えだけでも相当な量の魔力を消費しているが、これも余っている魔力を惜しげもなく使うことで対処でき、全く問題ない。
最悪の場合ここで生きながらえることはできそうだが、この計画には致命的な欠点が2つあった。
1つは他に誰もいないので私が寂しいのだ。
人は一人では生きられない…
かの有名な国民的アニメでも、主人公が最終回で「僕にはまだ帰る場所があるんだ…」と言っている。
私も帰れるところが欲しい…
無人の月面にたたずむとその言葉がひしひしと胸にしみる。
そしてもう一つの理由は、我が侯爵家の没落を回避できないことである。
主人公がメインルートを進んだ場合、婚約者候補の3貴族はもれなく爵位没収で平民落ちである。
両親や兄弟に多大な迷惑がかかるのだ。
今の私はヒロインをいじめるつもりはないが、ゲームの強制力という謎の力が働かないとは限らない。
万一を考えてテラフォーミングは継続中なのだが、家族には幸せになってもらいたい。
尚、この一連のテラフォーミングでエリアテレポートと重力制御魔法が私の魔法レパートリーに加わった。
次に思いついた方法は私が死んだことにするという計画である。
学園入学前に死んで別人となって生きながらえる。
この方法なら私はヒロインと巡り会うことさえない。
もちろん家族には迷惑がかからないが、私自身が現在の家族と会えなくなってしまう。
私は今の両親が好きだ。
兄や弟も大切だ。
この人たちに会えなくなると思うととてもつらい。
しかし、破滅回避にはこれしかないような気がする。
2年間悩み続けたが、7歳になった私は断腸の思いで死んだふり計画を実践することにした。
7歳まで待ったのには意味がある。
この7歳という年齢は、この世界で冒険者登録が可能となる年齢であるためだ。
といっても7歳はまだ子供なので、見習い冒険者という肩書きで、大半の見習い冒険者は町中で商店や民家のお手伝いをしたり、都市の近くで薬草などの採集を行ったりするだけだ。
希に罠を仕掛けてウサギや鳥などの小動物を捕らえ、生活できている見習い冒険者もいるが、魔獣との戦闘で生活している人は聞いたことがない。
正式な冒険者には学園卒業の年齢である15歳までなれない決まりなのだ。
これは学園に通う通わない関係なく、この世界の共通認識だ。
しかしながら、規約上、見習い冒険者が魔獣と戦闘してはいけないという条文はないし、素材の買いとりや討伐に成功したときの報酬も普通に支払われる。
実際に、たまたま落石の下敷きになったマッドウルフを見習い冒険者がギルドに持ち込んで、たまたま出ていたマッドウルフの討伐依頼の報酬を受け取ったという話も聞いたことがある。
つまり、自然災害などで死んだことにすれば、疑われることなく魔物を討伐できるということだ。
後は、どうやって私が死んだことにするかと、私の家族への未練だけが問題なのである。
そのようなことを考えていたら、チャンスは突然やってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます