第13話 恐怖のステータス測定です… (13話)

 私は移動中にステータスの回復を阻むため、当然朝食も抜きだ。

 身体測定で体重計を恐れた女子高校生時代以来の過激な運動プラス朝夕抜きで私の精神はごりごりと削られている。


 早く測定済ませてご飯が食べたい。


 馬車に座ってステータスを何気なく確認すると、こんなにぼろぼろにもかかわらず、私のステータスは回復しつつあった。


 体36 

 魔力1015 

 力15 

 素早さ12


 まずい。


 体力は兄の測定値を上回り、魔力にいたっては宮廷魔術師真っ青な数値まで回復している。


 やむなく私は、揺れる馬車の中で空気いすを実行し、クレヤボヤンスとサイコキネキスを駆使して馬車の上を飛び回っていた鳥型の大型生物を強制移動させて魔力を消費し、ステータスを調整する。


『大空をのどかに遊覧飛行していた何の罪もない大きな鳥さん、サイコキネシスで意地悪してゴメンナサイ』


 心の中で鳥にわびた私だが、後からこの鳥?は馬車の馬を補食することもある危険な鳥(というより鳥に似た何か)だと判明することになる。

 何事も結果オーライだ。


 徹夜と食事抜きで意識が飛びそうだがぐっと我慢する。


 何とかステータスを朝の状態まで戻したところで、馬車は王宮に到着した。




 この国のステータス測定は、ステータスを計る人が自分のステータスを確認している状態で、国宝ステータスの石版に触れると、その人が見ているそのときのステータスが石版に表示されるというものだ。

 お父様の話では、ステータスの石版は宮廷魔術師が何年もかけて魔力を込めて作った傑作である。

 ここで少しでも高い数値が出れば、その特長を伸ばして将来は有利な職に就ける可能性が高くなるので、みんな体調管理して最高値を出そうとする。

 私のように”実験動物コース直行”になりそうな人間離れしたステータスを隠すために低い数値を出そうとした測定者は過去誰もいなかったようだ。



 王宮には国中の貴族の5歳児が集まっていた。

 何か100人くらいいるみたいだ。

 こんなんに貴族って多いんだと感心していると、測定の順番が告げられた。


 どうやら公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家、の順のようだ。

 うちは侯爵家の3番目で、公爵家が3人いるから、6番目というところか。


 測定の間に案内されると巨大な石版とその周りに国の重鎮が多数待ち構えていた。

 どうやらあの石版にステータスが表示され、それを国のお偉いさんが確認し、人材の発掘に努めるようだ。


 一番目のスネイル公爵家の男の子が宰相閣下に呼ばれて石版に触れた。


 体19 

 魔力10 

 力12 

 素早さ11 


 なかなかよく鍛えているようだねと宰相閣下に褒められながら男の子は両親の元へ行き退室する。


 後、5番目だ。


 待っている子供はいすに座って待っているのだが、私は当然空気いすでステータス回復を阻む。

 次の測定者が終わりあと3番目となったとき、折り重なる疲労と一瞬の気の緩みから、ほんのわずかの間、私は意識を飛ばしてしまった。


 時間にして約2秒。

 まずい。

 自分のステータスを確認する。


 体38 

 魔力3015 

 力27 

 素早さ26


 わずか2秒の睡眠が私のステータスを大きく回復させる。

 魔力なんて宮廷魔術師三人前だ…


 どうする。

 あと3人。


 1人1分としてあと3分。

 私に何ができる。


 いよいよ追い詰められ、実験動物にされるくらいなら、もはや逐電して冒険者にでもなるかと覚悟を決めたとき、私の後ろの女の子がおそるおそる手を上げた。

「あの、すいません。おトイレ貸してください」


 これだ。


 私も素早く手を上げ申し訳なさそうな表情と声を作る。

「すいません。私もおトイレ貸してください」


 トイレの個室に駆け込んだ私は、手早く目立たない空き地にテレポートすると、そこにあった大岩を担いでスクワットし、ステータスを調整してテレポートでトイレに帰った。



 体19 魔力23 力16 素早さ14


 やった。



 測定室となっている大広間で、トイレから帰ってきた私のステータスが表示される。

 若干魔力が高いが30を超えた数値はない。

 これなら大丈夫と胸をなで下ろしていると、周囲のおとなたちからどよめきが起こった。


「すばらしい。

 体力と力も高いが魔力が特に高い。

 これなら将来魔法剣士も夢ではない」

宰相のリシュ様が驚きの声を上げた。


 どうやらこれでも5歳児としては高すぎたようだ。




 帰りの馬車ではお父様とお母様が上機嫌で私の将来について語り合っていた。

「やはりあの魔力は魔術師でしょう。

 おじいさまが水魔法の名手で宮廷魔術師長も務めたのですからその血が濃いのですわ」

「いやいや、アイネは毎日のように剣を振り回しているじゃないか。

 きっと剣術が性に合っているのだ。

 将来は騎士団の女性部隊で師団長として活躍するのも夢ではないぞ。

 しかしそうすると嫁のもらい手が厳しくなるか。

 まあそのときは一生独身で我が家にいてもらっても一向にかまわんのだが。ハッハッハ」


 いや、オトウ様、それはあんまりです。

 ついでに言うと剣より古武術による格闘の方が得意です。


 疲れ切った私は楽しそうな両親の会話を聞きながら馬車の中で眠りこけてしまった。



 家に着くと夕食を鱈腹いただき、お風呂も早々にベッドに入った。

 とにかく疲れた。

 昨日から徹夜で痛めつけた体は既に限界を超えている。私は早々に意識を手放し眠りに就いた。




 翌朝起きると、わずか一日で私のステータスはまたまた伸びていた。


 体711 

 魔力9999+ 

 力502 

 素早さ430


 あの過酷な一日がここまでステータスを引き上げたのだ。

 もう二度とステータス測定はゴメンだ.。

 かたく誓う私に朝食会場でのお父様の一言がとどめを刺した。


「次のステータス測定は、学園入学の12歳だから、あと7年後だなぁ。

 どこまで伸びているか楽しみだ!

 アイネがんばるんだぞ」


 父よ。

 この苦行をまた行えというのか…。


 絶望的な気分でそこから後の朝食は味がしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る