第12話 5歳になりました… (12話)

 あれから2年、昼間はお勉強と剣術の稽古やトレーニング、夜は魔力調整練習を兼ねた月面コロニー製作という日々を送り、本日私は5歳を迎えた。


 この世界の5歳は一つの節目の年であり、貴族の子女は一度王都に行き、初めてステータスの測定を行うのである。


 私のステータス測定旅行は1ヶ月後。

 魔力の調整も完璧である。

 おまけに今日は、昨日完了した月面コロニーのテラフォーミング確認のため、テレポーテーションで夜中にこっそり月まで行こうと計画している。


 そのため魔力は温存している。


 ステータスに集中して私の魔力を確認すると約6020垓(がい)だった。6.02×10の23乗である。

 前世で理系女子の私にとってはなかなか感慨深い数字だ。これだけあれば一番遠い月でも軽くテレポートできるだろう。


 お誕生日のお祝いの豪華な夕食を前に夜中の楽しい脱走計画を思いぼーっとしていると、心配したお父様とお母様が声をかけてきた。


「アイネ、どうしたんだい」

「どこか体調が悪いのかしら?」

「わりぃのかいら?」


 最後の舌足らずな言葉は、3歳になったばかりの弟、ジークである。

 最近やたらと何でもまねしたがるかまってちゃんだ。


 我に返った私はとっさに言い訳した。

「いえ、何でもありません。

 ちょっと1ヶ月後のステータス測定のことを考えていただけです。

 ジークも心配してくれてありがとう」

「そんなに気にしなくてもいいよ。

 アイネはしっかり体を鍛えているから、5歳の平均値よりかなり高く出るはずだよ」


 朗らかにお父様が言うとお母様も同調した。


「そうよアイネ、ロイドもからだを鍛えていたから体力は35、力も25もあったのよ。

 もっとも魔力と素早さは平均より少し高いだけだったけどね」

「いや、マリア、あの揺れが激しい馬車のせいで疲れていたんだよ。

 体調が万全ならロイドは素早さももっとあったはずだ」


 お父様がお兄様の素早さが低かった件をフォローした。

 しかしここで私は猛烈な違和感を感じ自分のステータスを確認する。


 体力502 魔力9999+ 力351 素早さ293


 まずい。鍛えすぎた。

 というか魔力のことしか頭になかった。

 これじゃあ魔力を調整してステータス測定しても他の数値が高すぎる。


 それにしても今世の体は何故か鍛えれば鍛えるほど成長していく。

 おもしろくてトレーニングに気合いが入りすぎたのが原因か、それとも転生者の特質なのだろうか?


 私はお父様におそるおそる聞いた。

「あの、お父様、5歳の平均ってどれくらいなんですか?」

「普通に育っていればどれも10くらいのはずだ。

 成人の平均はどれも100くらいだ。

 ロイの体力は普通の5歳の子の3倍以上あったということさ。

 アイネは女の子だからそこまではないだろうけどね」


 お父様の答えに私の額はびっしょりと冷や汗にぬれ、お母様譲りの青い前髪がぺったりと額に張り付いた。


 まずい。3倍どころじゃない。


 私の体力は普通の5歳の50倍、成人の5倍もある。

 一番低い素早さでも成人の3倍近い。

 やはり通常のトレーニングや剣術の時に地魔法で作った鉛を仕込んだアンクレットやサポーターがいけなかったのだろうか。

 負荷は前世と同じく両手足に10キログラムずつ、胴体に25キログラム、背中に25キログラム、靴底に5キログラムずつで合わせて100キログラムしか使ってなかったのだけど、考えてみれば普通の5歳児はおもりつけてトレーニングとかはしないよね。


 このとき私は、前世でも5歳の時は10キログラム程度しか重りをつけていなかったことを完全に失念していた。

 前世が終わる直前の感覚で重りの負荷を全身にかけていたのだ。


 どうしてこうなった……。


 それにしても恐るべきは今世の私の体の頑丈さと成長速度だ。


 様子のおかしい私を体調不良と勘違いした両親は、早々に部屋で休むように私に命じた。




 その日の夜中、楽しいはずの月面コロニーは全く音のない殺伐とした場所にしか感じなかった。

「むなしい」


 誰もいない町に私のつぶやきがこだました。




 次の日、私は新たな決意に燃えていた。


 そう、魔力の調整だけではダメなのだ。

 ステータス測定の時はぼろぼろに疲れて、体力や力や素早さも普通の5歳児並みに減らさなければならない。

 そのためにはどのくらい疲れればいいのか把握するしかない。


 私は鉛のおもりを2倍に増やして走り込み、自分のステータス低下がどれくらいおこるのかを調査し、疲労によって5歳児並のステータスに調整できる負荷を探った。

 ランニングした私の足跡が、異常なほど地面にめり込んでいたのは公然の秘密である。


 結果一ヶ月後、ステース調整のための特訓が裏目に出て、満タン時の私のステータスはまた伸びてしまった。


 体655 魔力9999+ 力451 素早さ397


 明日の測定に備えて今日はぼろぼろに疲れ、回復させないために貫徹である。

 悲壮な決意で重りを背負って屋敷の周りをかけずり回る私を、両親はそんなに鍛えていいステータスを出したいのかと温かい目で見守っていた。


 いやむしろ逆です。

 高すぎるステータスがばれて実験動物になりたくないだけです。

 心の中で悲鳴を上げつつ、私はおもり付きダッシュを繰り返した。



 努力の結果、その日の夕方にステータスは上手いこと調整された。


 体力15 

 魔力9999+ 

 力10 

 素早さ10 


 やった、後はこの数値を維持したまま月面コロニー拡張で魔力を削るだけだ。


 当然今日は夕食抜きの貫徹だ。

 食事や睡眠でステータスを回復させるわけには行かない。


 心配する両親を後に、ほとんど夕食にも口をつけず私は部屋に引きこもった。



 翌朝、テラフォーミングと真夜中のテレポート旅行で適度に魔力を消費し、私のステータスは完璧に調整された。


 体15 

 魔力15 

 力10 

 素早さ10


 あとは馬車で3時間移動し、王都の国主催ステータス測定会に参加するだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る