第11話 3歳になりました… (11話)
それからの3年間は何も分からない赤ん坊のふりをしながら、こっそりと本や実際の世界を見ながら、魔力量の調整練習をして過ごした。
私の住んでいる街はもちろん、他国の街なども積極的に透視していく。
体を自由に動かせるようになってからは柔軟と走り込みも始めたが、いかんせん3歳女児の体力ではすぐにへばる。
めげずに中庭で筋トレをしていると、2つ上の兄が剣術の練習をしていた。
この世界は魔法と剣のファンタジー世界で自分がヘイゼンベルグ侯爵家の第2子であることも把握した。
両親からもらった名前はアイネリア・フォン・ヘイゼンベルグ。
何か引っかかるものがあるような気もするが、前世の名前が藍音(あいね)なので少し嬉しい。
胎児期に読破した魔法書は私の曾祖父が書いたものだったようだ。
ヘイゼンベルグ家は特に水魔法の使い手を輩出しやすい家系で、曾祖父はアリタリア王国宮廷魔術師長を務めた大魔術師だった。
水魔法を得意としたがその他の属性もそれなりに使えたらしく隣国アセット国との諍いの際には大活躍したそうだ。
そのときの功績で子爵から一気に侯爵を拝命し、今にいたっている。
私が腹筋をしながら考え事をしていると、木剣で素振りをしていた兄のロイドが予備の木剣を持って私に近づいてきた。
「アイネ、よかったら僕の練習相手になってくれないか」
私と同じ青髪碧眼で将来はイケメン確定のロイド兄様が満面の笑顔を浮かべながら近づいてきた。
「こちらこそお願いしますロイ兄様!」
前世から体を鍛えることに余念が無い私は、二つ返事で木剣を受け取る。
「それじゃあかかっておいで」
兄様は3歳の頃から剣術を学んでおり、余裕の表情だ。
私は前世でも今世でも剣は習っていない。
古武術柔術の知識はあるが勝手が違う。
とりあえず上段に剣を構えるとすり足で徐々に接近を試みた。
私の足さばきを見た兄様は不思議そうに尋ねた。
「アイネ、不思議な足さばきだね?
それに隙が無い。
誰かに剣を習ったことがあるの?」
「いいえ、何となくですわ」
まずい、前世の知識が出てしまった。
私は仕方なく、そのまま兄様にいなされるのを覚悟で飛び込み上段から木剣を振り下ろす。
ロイ兄様は最初私の攻撃を受け止めたが、体重を乗せた振り下ろしにやや驚いた顔をして、剣の勢いを斜め下へと受け流す。
そこから私は逆袈裟を狙って剣を振り上げたが、兄様の剣は下から私の剣を跳ね上げ、はね飛ばした。
剣を手放した私はとっさに徒手空拳で兄様の剣を握っている両手をつかむと体を回転させながらひねり、投げをうってしまいそうになる。
前世の練習のたまものか、輪廻転生を経ても体が覚えていたのだ。
まずい、兄の手を突かんで体を反転させかけたところで正気に戻り兄様の手を離して距離を取る。
「ロイ兄様、参りました」
降参する私に、兄様は不思議そうな顔をして、
「いや、こっちこそ驚いたよ。
剣を奪われても素手でつかみかかってくるとは思わなかった。
そこから先が攻め手をかいたみたいだけど、こんな戦い方もあるんだね。
それじゃあもう少し続けようか?」といった。
それから1時間ほど、私は古武術柔術の癖がこれ以上でないように注意しながら兄様の剣術を吸収することに努めた。
兄様は筋がよいらしく、剣術道場では7歳の2つ年上の子たちと練習しているらしい。
私との訓練が終わってお茶しているときに私は聞いてみた。
「ロイ兄様、私も剣術の道場に通えませんか?」
「僕が剣術を始めたのも3歳の時だったから、通えるんじゃないかな。
一緒にお父様にたのんでみようか」
「ありがとう兄様。
今日の夕食の時にたのんでみるね」
前世から格闘大好きだった私は、今世でも何かやりたかったのだ。
この世界では猛獣や魔獣が少し人里から離れると跋扈しており、人々は剣と魔法で対抗している。
私としては魔法(超能力)で対処できるが、魔法が使えることを家族にも隠している身としては、いざというときに魔法以外の迎撃手段が欲しいのである。
前世で極めかけた古武術柔術でも可能かも知れないが、古武術柔術をどこで習得したのか説明するのは不可能だ。
そういった意味で剣術を学ぶのは都合がよかった。
夕食時に帰宅した父にお願いした。
「お父様。アイネも今年で3歳になりました。
ロイド兄様も3歳で剣術を始めたと言います。
私も兄様と一緒に剣術道場に通わせてください」
眼をうるうるさせながらお願いすれば娘に激アマのお父様はたいていのことは聞いてくれる。
私は持てる女(?)の武器を総動員して説得した。
最初は女の子が剣を学ぶことを渋っていたお父様も渋々認めてくれた。
「仕方が無いねぇ。
そんなにやりたいのならやってみてもかまわないが、危険がないように気をつけるんだよ。
まあロイと一緒なら大丈夫とは思うが、ロイもしっかりとアイネの面倒を見てやってくれ」
「やったぁ!ありがとうお父様」
私は礼を言うとお父様に抱きついてほっぺにチュウをし、あざとくかわいらしさをアピールし自室へと引き上げた。
寝室へたどり着くと早速魔力調整の練習である。
かなり上手くなってきたと思うが、毎度毎度後一歩のところで失敗し、結果として翌日には魔力の総量が更に増えると言うことを繰り返している。
今や私の魔力総量は憶の桁を飛び越え10兆ほどになっている。
使い切るのも大変だ。
青い月の裏側は、魔力消費のために私が作った家やビルが建ち並び、整然と並んでいるが人っ子一人いない。
完全なゴーストタウン状態である。
まあ、空気がないのだから当然と言えば当然だ。
今日は東京スカイツリーも真っ青の高さ750メートル級高層ビルにチャレンジ中である。
一階分を3メートル75センチにし地上200階立てだ。
地震の無い月の世界でも、これだけの高さになるとしっかりと地ならしした上で杭を地中深くまで打ち込み、絶対に倒れないように建てないといけない。
地ならし作業でもかなりの魔力を消費する。
もちろん私のサイコキネキスで動く高速エレベータも完備した。
地上1階から最上階の展望室までわずか15秒でたどり着くことも可能なびっくり設計である。
あまりの完成度の高さにいつかは行ってみたいものだと思うが、たとえテレポートで行くことができても空気がないから窒息死は免れないだろう。
そのとき私の頭に一つのアイデアがひらめいた。
無いなら作ればいいんじゃなかろうか?
酸素なら岩石から取り出せる。
酸化物さえあれば地魔法で成分抽出するだけなのだ。
重力が弱いのでせっかく空気を作っても宇宙に逃げ出すのだが、それは町全体を地魔法で作った機密性の高いガラスで覆えばいいのだ。
水も岩から水素と酸素を取り出せばできるだろう。
おもしろそうだ。
私は早速ガラスを大量生産し、街を囲う密閉空間を作り始めた。
あまり夢中で作業したので、魔力調整の練習をするのを忘れていた。
気がついたときは魔力0で強烈な眠気に襲われた。
すると、しばらく聞いていなかったあの音が聞こえた。
『ピンポンパンポン サイコキネシス テラフォーミングLv1(地球化Lv1)を習得しました』
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