第10話 ついに誕生… (10話)
それにしても魔力残量の調整がなかなか上手く行かない。
50の魔力を使って20以下にするのなら簡単だろうが、憶を超える魔力から20だけ残すというのは困難を極める。
何度も失敗し、魔力残量を0にしてしまった反動で、最大魔力量は増える一方だ。
一眠りして最大値まで回復した魔力量を再び消費して20以下にしようとするが、失敗した分最大魔力量は増え、魔力20だけ残すという作業はますます困難を極める。
失敗する→魔力切れを起こす→最大値が増える→少しだけ魔力を残すための難易度が上がる→また失敗する。
間違いなく負のスパイラルに突入している気がする。
人これを悪循環という。
人生とはなかなか上手く行かないものである。
生まれる前から悟りが開けそうだ。
その一方で月の裏の建造物群はますます増え続け、地上10階を超える鉄筋コンクリートのビルも作れるほどになった。
もちろん耐震構造で震度6強の揺れにもたえられるように考えて作ってある。
内部装飾も彫刻風の飾り彫りを施したりしてなかなか凝った作りにできた。
土壌から石英(二酸化ケイ素)を取り出し、作ったクリスタルグラスの板で窓ガラスも製造した。
真空の月面に近代日本風のビルや欧風の家々がどんどん増えていく。
魔力残量の制御にはさんざん手こずっているが、魔法(超能力)による物質制御は完璧に近いレベルだと自負している。
そんな調子で何度も魔力残量の調整に失敗する中、ついに私は誕生の瞬間を迎えた。
母が産気づいたのである。
しかし、なかなか出られない。
私はどういうわけか母のお腹から出ていけないでいる。
私は体をできるだけ小さくし、出産に協力しようとするのだが、どうも頭がつっかえているようだ。
そのとき私は気がついた。
胎児のくせに頭を使いすぎて脳が発達したのではなかろうか。
普通の胎児は生まれてから様々な情報を取り入れ急速に脳が発達する。
しかし私はクレヤボヤンスで外を見たり本で魔法書を読んだりしただけでなく、前世の記憶まで持っている。
脳が発達して頭が大きくなっても何ら不思議ではないのかも知れない。
頭がでかくなりすぎたのだ。
文字通り頭でっかちな胎児だ。
頭がつっかえて出られないのも当然である。
母は苦しそうにうめき声を上げている。
そりゃそうだ。
こんな想定外のサイズの頭の持ち主(私のことだが)が出ようとしているのだ。
陣痛が大変なのは想像に難くない。
「奥様、ガンバってください。頭のてっぺんは見えていますよ!」
お産を補助しているメイドの励ます声が聞こえる。しかし、私が通れる気配はない。
私の頭のサイズも知らないくせに、無責任な励ましを続けているメイドにちょっといらっとしたが、八つ当たりだと気づき何とか母の胎内からでようをもがく。
頭が痛い。
というか物理的に産道を通れない。
このままでは母子ともに危険である。
私はもてる魔力と意志の力を最大限発揮し、外に出たいと願う。
全身に魔力が行き渡り、体に独特の浮遊感が感じられた。
次の瞬間、私は外にいた。
何がどうなっているのか分からないが私はぽんと外に出たのである。
とりあえず肺に力を入れて自発呼吸する。
のどに力を入れて声を出そうとする。
「あぎゃーーー」
これが私の産声であった。
「元気なお嬢様ですよ、奥様」
産婆の役目を務めたメイドらしき女性が私を抱き上げ母へと渡した。
母は急にお産の痛みがなくなりしばし呆然としていたが、私を抱き上げると「初めまして、私がママよ」と優しく語りかけた。
もちろん私が理解していることなどは予想だにしていないだろうが…
もう少し周囲を確認しようとしたが、ここで眠気が来た。
出産直前までビル建設を行ってはいたが、まだ魔力量は十分にあったはずだが…、と思いステータスを確認すると魔力0だった。
魔力を何に使ったのか心当たりはない。
そのとき、もはや聞き慣れた音が頭に響いた。
『ピンポンパンポン テレポーテーション(瞬間移動)を習得しました』
ああ、なるほど。
これが答えだったんっだ。
私はあの瞬間自らテレポーテーションして外に出たようである。
テレポートした場所がよかったのか、一瞬のことだったのでばれなかったのか、とりあえず私のテレポートについていぶかしんでいる声は聞こえない。
母の苦しそうな様子に意識を奪われていた周囲の人は私がテレポートして生まれたことに気がつかなかったと言うことだろうか。
ここまで考えたところで私は眠りに就いた。
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