第8話 水魔法?を覚えました…(8話)
それにしてもナトリウム爆発や塩素毒ガス攻撃は魔法なのだろうか?
ただの化学反応のような気がするが、この世界では違うのだろうか。
翌朝普通に目を覚ました私は魔法大全の残りのページに目を通す。
風魔法の1つ前は水魔法のページだった。
水魔法のページの最初を見る。
水魔法の1
水魔法は水をあやつる魔法です。
水の形を変えたり、氷にしたりできます。
熟練すれば空中に小さな水の塊を出現させることも可能です。
操作したい水に気持ちを集中させ、水の量、形を明確に意識します。
後はその水に魔力を込めてイメージを保ちながら呪文を唱え念じ続けます。
1度の呪文で発動しない場合は、魔法が発動するまで何度でも呪文を繰り返しましょう。
なお、水魔法は水がないところで水を作ることは一部の例外を除いてできません。
例外として、空中に小さな水の塊を発生させる魔法がありますが、天候や術者の体調によっては魔法が発言しません。
曇りや雨の日は比較的成功しやすいので、チャレンジするときは天候にも気をつけましょう。
達人級の魔術師は意識を集中するだけで呪文を唱えなくても魔法を発動させることができます。
この本が書かれた現在、水魔法を無詠唱で発動できるのはこの本の著者である私ことエリットマン・フォン・ヘイゼンブルグだけとなっています。
いにしえの大魔法使いは戦争で敵の指揮官の頭上に巨大なつららを発生させて敵軍を打ち破ったと言いますが、人間を押しつぶすような量の水を空中に発生させる巨大な魔力を持った魔術師は現在確認されていません。
なお、集中力が切れれば何度呪文を唱えても魔法は発動しません。
10分続けても水滴ができないときは一旦中断し、休憩を取って再チャレンジしてください。
魔力切れに注意しましょう。
【呪文】
『真理の探究者たる我が名をもって命ずる。
万物の真理より水を取り出し、我が前方5メートルの位置にある水槽の水を槍の形に変形させたまえ。
我が名はエリットマン。
ヘイゼンブルグ侯爵家が5代目なり。
水よ槍となれ!』
なるほど、水魔法はこの本の著者が得意とした魔法のようだ。
水魔法の10では空中に水や氷を発生させる方法も書かれている。
この世界の科学水準では水蒸気や湿度の概念が明確ではないので、空中に水を発生させることが無から有を生じさせるようにとらえられているらしい。
私は早速庭の花壇の上に水蒸気を集めて水滴で植物に水やりをしようとした。
しかしこれが予想以上に難航する。
今日の天気は快晴。
湿度は5%未満。
集めるための水蒸気がとても少ないのだ。
私は水蒸気収拾の範囲を館の周囲1kmほどに拡大し、集めた水を中庭のチューリップもどき畑に落とした。
瞬間、バッチャンという音と軽い地震のような揺れが屋敷を襲う。
日照りでしおれかけていたチューリップは落ちてきた水でほとんどが花壇に横たわり、あふれた水は中庭の他の花壇まで水没させたが、からからに干上がっている花壇の土がすぐに水を吸収してくれた。
日照りでよかった。
しかし、我が家の庭でこれかくらい乾いているのなら、領地の畑はまずいことになっているのではないだろうか。
作物がとれないと農家の人が困るし、税収も落ち込んで我が家も困る。
私は謎ビルを埋め立てた砂浜の沖の海上に意識を集中し、集めた水蒸気を領内の畑に水滴としてばらまいた。
この日ヘイゼンブルグ侯爵領では、雲一つない快晴の中、スコールのような大雨が降った。
訳の分からない異常気象であったが、枯れかけた作物に頭を痛めていた領民にとっては恵みの雨となったのである。
『ピンポンパンポン サイコキネキス アクアドロップもどき(水魔法・水滴生成もどき)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス スコールもどき(水魔法・豪雨もどき)を習得しました』
いいことをしたという久々の充実感を胸に、私は眠りに落ちた。
もちろん、ぐちゃぐちゃになった中庭花壇の修復に家中が大迷惑したことなど知るよしもない。
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