第7話 地(土)魔法?を覚えました…(7話)
翌朝目を覚ますと、母は朝の食事中のようだ。
簡単なパンとサラダの朝食にイノシシ肉の焼き豚が付け合わされている。
前世で肉食系女子(食物的意味で)だった私は、まだ味わうことができないイノシシ焼き豚の味を想像し、切に早く食べてみたいと願う。
こうしていても仕方が無いので視線を書斎に移し、昨日とばした地属性の魔法を習得することにした。
地(土)魔法の1
地魔法は土や岩を操る魔法です。
畑を耕したり土壁を作ったりできます。
土壁の場合、操作したい場所に気持ちを集中させ、壁の高さ、厚み、長さ、強さ、形を明確に意識します。
後はその場所に魔力を込めてイメージを保ちながら呪文を唱え念じ続けます。
1度の呪文で発動しない場合は、魔法が発動するまで何度でも呪文を繰り返しましょう。
なお、地魔法は土や岩がないと発動しません。
何もない空間に岩を出現させるなどはできませんので注意してください。
大きな壁を出現させればそれだけ魔力も消費します。
呪文は個人によって多少変わりますが典型的な呪文を紹介しておきます。
他の属性魔法と同じように、達人級の魔術師は意識を集中するだけで呪文を唱えなくても魔法を発動させることができるそうです。
この本が書かれた現在、地魔法を無詠唱で発動できるのはノームランド共和国の国立魔法研究所長だけとなっています。
いにしえの大魔法使いは戦争で一夜にして岩の砦を出現さえたといわれていますが、そのような巨大な建造物を魔法だけで建築できるような巨大な魔力を持った魔術師は現在確認されていません。
なお、集中力が切れれば何度呪文を唱えても魔法は発動しません。
10分続けても土壁ができないときは一旦中断し、休憩を取って再チャレンジしてください。
魔力切れに注意しましょう。
【呪文】
『真理の探究者たる我が名をもって命ずる。
万物の真理より土壁を取り出し、我が前方5メートルの地面を高さ1メートル幅3メートル厚み30センチの土壁となしたまえ。
我が名はエリットマン。ヘイゼンブルグ侯爵家が5代目なり。土壁よ出でよ!』
最近は新しい魔法を習得しない限り簡単には睡魔に襲われなくなりつつある。
私は一気に地魔法の10まで読破した。
地魔法は極めるとより精密な土石の操作ができるようになり、地魔法の8では岩石を変形させて武器としたり、地魔法の10では岩石の成分を取り出したりできるようだ。
私は早速試したくなり、視線を遙か彼方の砂浜に飛ばした。
まずは砂の操作である。
最初はサイコキネキスを発動させ砂で壁を作ってみる。
案外簡単に砂の壁ができた。
そのままだともろいので、砂の中のケイ酸塩を操作し結合させて強度を上げる。
岩とまでは行かないがコンクリートのような丈夫な壁ができた。
気をよくした私は壁で周囲を囲った砂のビルを建てる。
窓の部分には砂から二酸化ケイ素が多いケイ砂や石英だけを集めて透明感を出す。
はめ殺しの窓の完成だ。
バスルーム、トイレ、クローゼットなどこりにこって砂を成形する。
いつの間にかあたりは夕方だった。
3階建てのコンクリートもどきのビルを完成させたとき、入り口と階段を付け忘れたことに気がついた。
まあ、どうせ誰が使うわけでもないからいいかと開き直ったところで眠気が来た。
まずい、たぶん誰も来ないとは思うが、こんな謎ビル、万一誰かに見られたら大騒ぎになりかねない。
しかし私は睡魔に負けた。
『ピンポンパンポン サイコキネキス ケミカルボンドマニュピュレイション(化学結合操作)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス マテリアルマニュピュレイション(物質操作)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス コンポーネントイクストラクション(成分抽出)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス サンドウォールもどき(地魔法・砂壁もどき)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス ロックウォールもどき(地魔法・岩壁もどき)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス マッドウォールもどき(地魔法・土壁もどき)を習得しました』
3時間後に意識を取り戻すと、あたりは完全な夜だった。
とりあえず謎ビルを解体しないといけない。
視線を高速で移動させ、謎ビルを作った海岸を探す。
しかし真っ暗な上悪天候で暗視を使っても見えにくい。
星明かりすらないのだ。
どうやら暴風雨のようだ。
時折光る稲妻の明かりから、海岸は高波で荒れ狂っており、吹き付ける横殴りの雨しか分からない。
謎ビルの位置が把握できない。
私は早々にあきらめた。
まあこの嵐では誰も海岸には来ないだろう。
翌朝再び海岸を確認すると、嵐にも負けずに謎ビルは建っていた。
しかし基礎工事をせずに砂上に建てたため、昨夜の嵐で液状化現象でも起こったのであろう。
地上三階建てだったビルは、地上1階、地下2階の建物へと変貌を遂げていた。
もう、いっそこのまま砂に埋めてしまおう。
そう思ってサイコキネキスで無理矢理ビル下の砂を移動させ、謎ビルの屋上を地面の高さまですると、屋上にたまった海水が蒸発して、塩ができていることに気がついた。
海水の成分が地球と同じなら、主成分は塩化ナトリウムのはずだ。
この中からナトリウムだけを取り出せないだろうか。
意識を塩に集中しナトリウムを取り出そうと思念波を込める。
すると塩から黄緑色のガスがモクモクと立ち上り、後に銀色をした丸い金属の塊が残った。
上空を飛んでいたカモのような鳥がぽとりと落ちてくる。
どうやら副産物としてできた塩素ガスにやられたようだ。
金属の塊はみるみる光沢を失っていく。
無事にナトリウムを取り出せた。
取り出したはいいが、できたナトリウムをどうしたものか。
前世では高温で駆動する装置の冷却剤などに使われていたが、今世では用途がない。
興味本位で作っただけで処分に困る。
私はサイコキネキスでナトリウムの塊を海へと投げ捨てた。
なんだか眠くなってきたなあ、などと考えながらぼーっと海を眺めていると、ナトリウムを捨てたあたりから水柱が立ち上り、少し遅れてドーンという爆発音が衝撃波を伴い海岸を襲ったようだ。
クレヤボヤンスでは音は聞こえないが、衝撃波で海岸の砂が巻き上がる。
忘れていた。
金属のナトリウムは水と反応して水素を発生させ爆発する。
唖然とする中、例の音が頭に響く。
『ピンポンパンポン サイコキネキス ソディウムイクスプロージョン(ナトリウム爆発)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス クロラインポイズンガスアタック(塩素毒ガス攻撃)を習得しました』
爆発に巻き込まれたお魚と塩素ガスで落ちてきた鳥さんの冥福を祈りつつ、私は眠りに落ちた。
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