第2話 魔法書を見つけました…(第2話)
何度か覚醒と睡眠を繰り返すうちに前世へのあきらめもつき、これからどうするかという前向きな思考をすることができるようになった。
とりあえず今の私にできることは限られている。
ここがどのような国なのかも分からず、両親がどのような人なのかも分からない。
クレヤボヤンスで見た限り、裕福な様子だが、電気や水道は見たことがなく、明かりはランプ、水は井戸によって供給されているらしい。
とにかく情報が必要だ。
そのためには言葉を理解しないと一歩も進めないだろう。
そう考えた私は、胎教のために絵本を読んでくれている母親を先生に、文字と言葉を覚えることにした。
絵本というのは絵に合わせて文字が載っており、それを音読してくれている母の声と合わせると言葉を覚えるには最適の教材である。
何度か睡眠と覚醒を繰り返す中で、クレヤボヤンスで透視できる時間も延びてきて、母が絵本を読む時間に合わせて覚醒することもできるようになった。
視点を切り替えてみた母のおなかの大きさから、最初に意識を取り戻したときが8ヶ月くらいだったようである。
そしてそれからおよそ1ヶ月で、私は母の読んでくれる絵本の文字と言葉をおよそ理解できるようになった。
十月十日で生まれるとすれば、およそあと1ヶ月で私は産声を上げることになるだろう。
この一ヶ月で更にこの世界の知識が欲しい。
そのためにはせっかく覚えた言語を使ってもっと正確な情報の本が読みたい。
絵本は所詮幼児向けであり、物語の世界である。
現実をいち早く認識することが今世の充実につながる。
今度こそ豊かな老後を迎えるまで長生きしたいものである。
私は大人向けの本を探すことにした。
といっても母のおなかに固定されている胎児という現状では如何ともしがたいいくつもの障壁がある。
母が大人向けの本を読んでくれればのぞき見することもできるのだろうが、絶賛子育て中の母は、最近絵本以外読んでいないようなのだ。
となると、私の近くで他のおとなが本を読むのを待ってのぞき見か…。
そんな偶然は期待できない。
何とか本が見たいと考えるうちに一つの可能性に気がついた。
クレヤボヤンス(視点切り替え)である。
今までは自分が認識できている周囲にしか視点を動かしていないが、もう少し遠くに動かせないだろうか。
そう考えた私は視点を動かしドアの向こうを見てみることにした。
もくろみ通り、私の視点切り替えはかなり遠くまで視点を動かせるようである。
ドアや壁を通り抜ける際は、光がないため真っ暗になるが、明るい空間に出るとそこの様子が見える。
2階の寝室から階段を降り、食堂の反対側のドアを通り抜けると書斎があった。
どうやら父の書斎のようで棚には何冊か本が置いてある。
背表紙のタイトルを確認すると幸い知っている単語で理解できた。
書斎にあった本は全部で12冊。
この規模の邸宅にしては少ないような気がする。
本の大きさは前世の百科事典サイズとかなり大きい。
いずれも黒皮の表装に金文字でかかれた豪華版で、ハンドメイドのようだ。
そういえば絵本もハンドメイドの手書きで、印刷した文字は見たことがない。
もしかするとこの国には印刷技術が無いのかもしれない。
貴族風の両親の服装などから察するに、もしかして中世のフランスあたりに輪廻転生してしまったのだろうか。
そんなことを考えながら本のタイトルを確認していく。
1冊目『国内地図』、2冊目『世界地図』、3冊目『生き物図鑑』、4冊目『植物図鑑』、5冊目『魔法大全』………
魔法大全!
私は5冊目のタイトルで目が止まってしまった。
この国には魔法があるの!????
ここ、地球ですらないの?
いや私の前世であれば地球以外の星でも魔法があるとは思えない。
まさかの異世界!
私はびっくりし、いつもはトクトクトクと安定している心音がドクドクドクと激しく脈打つのを感じた。
しばし呆然と5冊目のタイトルを見つめた私だが少し冷静になる。
そういえば昔は前世の世界でも魔法があると信じられ、中世のヨーロッパでは魔女狩りや魔女の火あぶりまで行われたではないか。
もちろん怪しげな儀式はあっても魔法はなく、処刑された人は全くの濡れ衣や政治的な謀略だったという話だ。
もしかすると今世の自宅は魔法を信じて弾劾されるようなお家なのではなかろうか。
しかし、今私が使っているのはクレヤボヤンスという超能力。
これも前世では、あるとは断定されていなかった能力のはずだ。
化学系理系女子であった前世では、科学的思考が脳みそにインストールされており、超能力の知識はほとんど無いが、それでも自分自身がこのような不思議な透視能力を発揮している。
ならばこの世界には本当に魔法はあるのか?
どちらにせよ本の中身が見たい。
私は5冊めの本『魔法大全』の中を透視した。
結果は失敗。
壁やドアの中を視点移動させたときに真っ暗になったのと同様に、魔法大全の中は光が射さないため真っ暗だった。
悔しい。
何とか中が見たい。
けど見えない。
中が見たい。
けど見えない。
中が見たい。
思考が何度も往復する中で、本を見たい欲求はどんどん高まっていく。
心臓のドキドキは最高潮だ。
このままでは本見たさに狂い死ぬのではないかと思うほど本に集中したとき、なぜか魔法大全は棚から落ちて床にバサリと広がった。
やった!
これで開いているページだけでも見られる。
喜んだのもつかの間、視界がブラックアウトし始めた。
えっなんで?
いつも眠くなる時の半分も時間は経っていないはず?
混乱する私の頭にチャイムと声が響く。
『ピンポンパンポン クレヤボヤンス(遠見)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネキス(念動)を習得しました』
サイコキネシス(念動)。
そうか。
本が棚から落ちたのはサイコキネシス(念動)という能力だったのか。
使ったことがない能力を使ったから早く眠くなったのかな?
そこまで考えるのが限界で、私は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます