第123話 カウントダウン(二)修正計画

「小型の太陽? それも二つ同時に?」

「双子の太陽ってこと?」

「人為的に感じる。どこかの国の実験ミスじゃないのか」


 希教道の白咲当主、竹宮女医、三田村教授がそろって話し出した。


「地球の自転を考慮に入れて、上下二つ現れたことだ。まるで人の手によるかのようじゃないか?」

「アメリカの陰謀だろ?」

「EU、または中国かロシアの陰謀だ。金融戦争を含めて、大国同士が裏で戦ってたんじゃないのか?」

「自ら住む地球を焼き潰しなどを誰が企てるのか?」

「では、どこかの国が何か大きなミスをしたとか?」

「不出用になった大量の核燃料を宇宙に廃棄した国があるんじゃないか? それがデブリ化して何かしらの影響を受けて『ミニ太陽化』しているのでは?」


 大人たちが騒ぎ立てるが、俺の勾玉能力説は鼻にもかけてないようだ。


「だが、人知をこえている」


 霧島教授の一言で、場は静かになる。


「観測されるがまだ不明なエネルギーのファントムエネルギーの膨張説がある。今一番の説だ、これは地球のビッグリップ引き裂き、終焉のエネルギーといってもいい。逆に言えば、未知数で、知られてないエネルギーだから、かもしれないと納得できてしまう」

「ファントムエネルギー、なに?」


 鈴が小声で俺に聞いてきたが、俺もよくわからないので思い付くことを返した。


「ダークエネルギーのことじゃないか?」


 霧島教授が言葉を続ける。


「それに、二つの同時に変化する質量の光球こうきゅうは、非局所的な行動に他ならない」

「非局所性? では、もともと一つのモノを我々は、二つで見ていると?」

「そうだが、一つの有力説に過ぎない」


 また鈴が俺を見てきたが、言っている意味が分からず肩をすくめるだけだった。

 竹宮女医が立ち上がって霧島教授に聞いた。 


「では、ほかにも説が?」


 白髪の黒メガネ教授は、進行役の野末支部長にあごで話せとゼスチャーした。


「まず、質量が少ないと重力が足りずに水素ガスが密集しても高熱など起きないはずなのですが、星としての光を出しています。それも二つ同時に同じ熱量でです」

「じゃあ、なんで?」


 女医が腕を組んで首を傾けた。


「考察としては、われわれが観測している上空の光球は、別の空間と繋がって時間軸がねじれたという仮設が浮上してきます」

「それはブラックホール!?」

「ワームホールが近いな。その大きさは観測できず不明だが、光球を眼前に見せている以上のモノだ」


 宇宙開発本部長の霧島教授が白髪を書きながら補足した。


「上空のワームホール空間内は、我々の世界時間で言うと、数百倍速の時間が過ぎ去っていると仮定ができます」


 俺と鈴はよくわからず首をかしげて聞いていたが、三田村教授がまとめて話してくれた。


「つまり観測している光球空間は、ワームホールと言う別空間への開いた360度の窓。わかりやすく言えば、別空間の裂け目ができたことで時間のゆがみが起き、空間先の出来事である太陽の誕生から成長の展開が倍速で進んでいる。その変化を我々が体感していると?」


 教授の続きを竹宮女医が続けた。


「……そのワームホールは、一つの現象を私たちの空間に結び付けて、非局所的に二個所同時に同じ高速光球を存在させ、熱影響を与えている。そういうことですね」


 ありえないのだが、理解できる説だったので、周りは静まり返った。


「ばかげている」


 谷崎会長が一言言った。


「仮説とは、大いに馬鹿げているものです」


 霧島教授が黒メガネを人差し指で上げてから応えた。


「まあ、一つの仮説に過ぎないが、突然の太陽降臨を把握するには、そうならざるおえないでしょうな」


 ご隠居がまとめると、野末支部長が話を再開させた。


「残念ですが、熱量は観測され続けています。さきほど言った通りに地上まで降り注ぎだしています。夜に注意してみると、肉眼でも見えるようになってきているそうです」


 全員が見ているモニターに、地上から映した光球のアップが映し出され、まるで太陽を見ているかのような錯覚を起こすぐらい、見事に燃える球体が迫り、真っ赤に燃えだぎる映像は恐怖心をかき立ててきた。


「この事態は克服はできるのですか?」


 竹宮女医が不安顔で、イケメン野末支部長に聞いた。


「現在は状況を観測する段階で、原因究明で結論まで行ってないです」

「核ミサイルを撃ち込むとか、技術改良したレーザー光で光球照射など案がでてきているがな」


 霧島教授の発言で、幾人かが驚く。


「それで、光球が消滅するとでも?」

「一部の科学者たちが、エネルギー量の計算が正しければできると唱えている」


 三田村教授の質問に、黒メガネ教授が答えた。


「未知の加速しているエネルギーに、なんて物騒な」

「核の破裂は、光球内の核融合に飲み込まれて加速させるだけでは?」

「まったくだ。地球の上空で大規模な爆発現象フレアでも発生させる気か、ってことだな」

「天空でフレア紅炎……磁力シールドも大気も吹き飛ばした千℃の高熱の衝撃波が、地上に降り注ぐことになれば、人類瞬殺ですね」

「そもそも光球を観測して膨張を確認した段階で、破壊消滅の段階は過ぎているとわしは見ている」


 谷崎会長と谷崎知美さんが話し込んでいたが、その知美さんが聞いてきた。


「今のままだと、地球への影響はどうなっていくんですか?」

「今後の予想ですね?」


 野末支部長は、持っていたタブレット画面をフリックして話し出す。




「二つの小型太陽からくる熱風で、衛星が全て停止、その関係の航空や行政、諸々のサービスシステムが破綻、観測もできなくなります」

「衛星関係の電波障害が生活にも波及すれば、マスコミが騒ぎ出すんじゃ?」


 谷崎会長のうしろに立っていた知美さんが挙手して聞くと、霧島教授が話を加える。


「一部でもう騒がしくなっているな」

「それは新通貨の発表を持ってきて、話を逸らすことになってます」

「ああっ、だから緊急会議か」

「本当に通貨、変わるのか」


 また、座が騒がしくなる。

 左の袖を引っ張られたので顔を向けると、麻衣が中腰で隣に来ていた。


「座っていい?」

「ああっ、いいけど、家族から離れて大丈夫か?」

「もう大丈夫だと思う。お父さん、忍の能力見てから、かなり気が抜けてたから」


 俺が鈴の横に移動すると、麻衣がソファに座った。


「そうか……ま、麻衣はどうなんだ?」

「私? 忍の能力ならいつものことよ。毎回凄くなって驚かされるけど、もう、怯まないから」

「おっ、おう。素直に……嬉しい……かな」


 瞳が合うと彼女の手が俺の手に乗り、軽く握ってきた。


「私は、忍ってもう決めてんだから」

「んっ……俺も」

「クホン、ゴホン」


 隣の鈴が咳ばらいしながら腕を小突いてきて、迎えのご隠居が笑顔で俺たちを見ていたのに気づいて焦る。

 麻衣も気づき、二人して正反対に顔を背けながら赤面した。


「……あっ、今さらだけど、退院おめでとう」


 俺は顔を戻して小声で、今日彼女に言いたかったことを口にした。


「んっ、ありがとう。ああっ、そうそう……それでね、問題その三あたりから、さっぱりわからなくなってきてたから、いろいろ注釈が聞きたかったのよ。突拍子過ぎて実感がわかないのよね。危機が来ているのは感じるんだけど……」

「うん? 俺も難しいと思っていたんで、たいして説明できないな」

「そうなの? じゃあ鈴は?」


 振られた鈴は、自分に指さして呆けている。


「私も、理解、してない。ただ、新しい太陽ができる? やばい、それくらい」

「もうーっ、私と同じじゃない」

「ふふっ、仲間」

「そこ、誇れるとこじゃない」


 俺が突っ込みを入れると、鈴はアヒル顔になる。


「あとで、竹宮女医に素人でもわかる解説をお願いしましょう」

「ああっ」


 周りが落ち着くと、野末支部長が話を再開する。


「小型太陽からのプラズマ大気層コロナがこちらに影響を及ぼすと、太陽風で巨大オーロラが各地で観測、気温の上昇、肌が焼けて放射線障害、地表も焼かれ始め生態系の異常が始まるといわれてます」

「えっ、放射線?」

「肌の放射線障害!」


 立っていた彩水と緋奈が声を上げた。 


「太陽からの放射線を守る地球の地場が、近すぎる小型太陽で効力を発揮できなくなるからだな」

「はあ……」


 黒メガネ教授の解説が入ると、彼女たちは静かになる。


「世界中の穀物も駄目になり、食料危機が始まるでしょう。また、二つの小型太陽は、重力も壊し地球や月の軌道もづらすことになり、重力異常で、地球に津波の発生。台風の発生が次々に報告され、そのあとは人類史上ない大きさの台風を目の当たりになるとシュミレーションされてます」


 三台のモニターにパニック映画さながらの3Dとの合成映像がシュミレーションとして流れ出して、周りはそれに釘付けになる。


「北半球が冬でも夏になってきて、大陸の氷山が溶け出します。同じく南極の陸地部分の氷が解けて、世界の海抜が上がることになります」 

「日本やばいじゃん」


 また教祖彩水が声を上げた。


「その頃になると、夜が来なくなり、気象など予測不能で激変し、過去に例がない未曾有の事態が、大量に起こっていると予想されます」


 モニター映像が途切れると、騒がしくなり、竹宮女医が挙手した。


「これは、長く続くのですか?」

「長期的? それはわからないね」


 霧島教授が応えた。


「じゃあ、しばらくして収拾に向かう公算があると?」 

「今の状況もありえないのに。……収拾を神に願うだけだね。これは神の領域だから」


 周りからため息が漏れ聞こえる。


「打開策の一環で、先進国中心のスペースフロンティア計画が持ち上がり、宇宙船で火星へ退避する案が現実的か調査中で前向きにとらえられています」


 野末支部長が明るい話を切り出すと、俺を含めて周りが活気づいた。


「凄ーい、宇宙船に乗って助かるの?」

「人類が火星に移住。素晴らしい」

「ただ、問題は運べるのが少数になり、代表を選ぶこととなるでしょう」


 一斉にがっかりした声が部屋の空間を響かせた。


「ほっ、他にもあります。国単位で地中を掘って地下でやり過ごすアンダーグランドエスケープ計画です。どちらもプロジェクトを組んでる最中で、急ピッチで始めないと時間が足りない状態になります」


 ここで、御隠居が手を叩いて注目を集めた。


「事態の打開に、わしも総理に呼び出されて、この危機に城野内研究所の力が欲しいと言われましたのじゃ。それで我々研究所は、カレクシャン・プロジェクト修正計画を立ち上げてみたのじゃよ」




 静まった人達を見渡したあと、また話しを始める。


「今日この場に足を運んでもらった方々は、カレクシャン・プロジェクト修正計画への協力参加をして欲しいメンバーとその一部の家族じゃ」

「ああっ」

「なるほど」


 それぞれが顔を見合わせて納得している。


「ここのメンバーで、わかると思うが、カレクシャン・プロジェクトは能力者で構成される」

「ふん。しかし、よくそんなプロジェクトを要請しましたな。いや、官邸がよく認めたと言ってよいか」


 霧島教授が不満そうに言った。


「アメリカの陸軍も、スターゲイト計画をやっておりましたよ」

「まあ、FBIも能力者に頼ったり、ソビエトが異能力研究していたのも事実ですし」


 三田村教授が言うと、竹宮女医が付け足して、ご隠居が続けた。


「関係者のほとんどが、城野内研究所の研究内容に否定的だったが、止める者はいなかったよ。なんせ、官邸に天空光球の一報を上げたのが我々だからだろう。四の五の言わず何でもいいから頼るってやつかもしれん」

「ほう、光球の一報は初耳だったわ」

「勾玉能力や異能なとも、この危機に使えないかと一部の官僚が動いたことですな」


 黒メガネの教授が正田官房長官に振り向く。


「私は、ここではオブザーバーで、しいて言えばプロジェクトの算出経理を任されています」

「政府からの予算はたっぷり下りるのかな?」

「新通貨で混乱が予想されると思うので、期待はしないで欲しい」

「ふん、なんだ。頼りないな」


 鼻を鳴らした霧島教授が、ソファに深くかけた。


「しかし、教授も否定ばかり言いますが、不参加や退出することもしないのは、参加に行程とみていいのですかな」

「代案がなくてな。腹いせに文句ばかり言わせてもらっている。まあ、今回のありえない事態には、同じありえないものを対峙させるのも一興かと思っている。……いや、ワラをもつかむ、って気分を味わっているのが正直な感想だ」

「うむ、科学的な協力や助言を頼む」


 ご隠居は霧島教授に頭を下げたあと、俺に振り向いてきて目が重なった。

 瞬間、緊張と不安で、背中に冷たいものが走る。


「広瀬君の勾玉能力は素晴らしい」



 ご隠居は優しくゆっくりと話しだした。

「君の協力なくして成立せぬプロジェクトだ。強制ではないが、ぜひ、グループの一員になって光球に対峙して欲しい」  


 指南役が、今度は俺に頭を下げてきたので、動揺し、あわてながら答えた。


「あっ、あの……俺のせいの可能性もあるので……こちらから参加させてもらいます」


 世界の危機、人類の危機を作ったのか、本当かどうかわからないままだが……グレーなら、参加は必然だ。


「んっ、感謝する。だが、広瀬君の呪いの台詞で可視光を放出する光球を発現させたとは、誰も信じんだろうな。勾玉能力を信じてい者でもほとんど懐疑的だ。……肩を張らず、そう気に病むこともない。その代わり、勾玉能力で問題の光球に対峙して欲しい。それがわしからの願いだ」 

「共通点は多いが、ただ偶然が重なっただけだ。あるいは、ただの意味づけとも言えるのも事実」


 霧島教授が白髪を上げながら、俺に忠告してくれた。


「はっ、はい」


 ご隠居と霧島教授の話で気が楽になった。

 隣の麻衣も、良かったねと笑顔のジェスチャーを俺に送り、緊張した気持ちをほぐしてくれる。

 続いて俺の心中に、『応援する』と言葉が広がり、要も語り掛けてくれて心が温かくなった。


「でも、俺は何をしたら……どんなことが出来ますか?」

「勾玉能力を自在に操れるように、訓練して欲しい」

「それは……」


 隣の鈴が、自由に腕の炎を動かしていたことを思い出して、彼女に目をやると笑いを浮かて見返された。

 誠に嫌な笑いで、俺は苦虫を噛みしめてしまう。


「そして、天空の光球と対峙して欲しい……最終的には、人類に影響を及ぼす小型の太陽になる前に、消せることを想定してだ」

「対峙……ですか?」

「この一年が勝負だろう。……人類の滅亡がかかっているから、必ずだ」

「……はい」

「同時に城野内研究所は、希教道の信者を集めるのに協力を始めたいと思う」

「ほう」


 道場主と教祖の彩水が同時に反応した。


「面白いわ」

「それはありがたい申し出だ。謹んで受けたまわります」

「うむ。広瀬君のように、勾玉能力者が出る可能性が強いからな。出なくとも、何かしら期待に応えてくれる者が出てこよう」


 そう言い終えたご隠居は、ソファに座って一息ついた。

 他の参加者たちも大筋で参加を決めて、ここラグジュアリーホテルの柳都会合で、カレクシャン・プロジェクト修正計画が発足した。

 メンバーは以下の通りになる。


 プロジェクトリーダー 城野内老師 

 プロジェクト委員会  城野内研究所/希教道/谷崎製薬

 官邸オブザーバー   正田官房長官

 物理科学サポート   宇宙開発本部長霧島物理学教授 東京M大学教授超心理研究所三田村部長

 脳科学サポート    大脳生理学センター支部長野末助教授 認知神経学者竹宮女性医師

 専用薬の製造     谷崎製薬会長(谷崎研究所+城野内研究所)

 能力者メンバー    広瀬忍、涼宮鈴、教祖阿賀彩水、城野内緋奈、谷崎知美、他希教道ランクA信者

 スタッフ       希教道女子幹部 浅間麻衣、他希教道一同

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