第104話 魔女狩り(十一)モール街の魔女再び

 また、ショッピングモールで魔女騒動があった。

 昼のニュースは、希教道信者とかかわりがなかった十番街の喫茶店内部が発端だと報道している。

 内容は、「魔女がいる」と数人の若者が騒いだのが発端で、外にいた別のグループも加わり、路上に歩いていた人や室内の客たちに暴行を働き、負傷者を大勢出し話題になっている。

 『魔女教団の催眠術』の影響で、魔女の催眠に神経質になってしまっていると、コメンテーターの東西大学専門家がまともな意見を言う。

 応接室のTVの液晶画面に映る十番街モールを見ながら、四日前に雅治と椎名が言っていた魔女騒動を思い出した。


「外で好き勝手やってくれるわね」

「何が起こっているのかしら?」


 彩水、純子と続けて言った。

 これは今度の十番街騒動も、問題が大きくなる前に解決できないか、幹部を集めて会議中の発言である。


「昨日も裏のモール街で、魔女騒ぎがありました」


 それに向葵里が情報を付け足す、周りは騒がしくなり不安な声が上がる。


「昨日も?」

「増えてるんじゃ?」

「なぜ、魔女ばかり見るかな」


 俺がぼやいて言うと全員から突っ込まれた。


「お前が言うか」

「男の魔女っ子から流行った魔女でしょ?」

「自覚してください」

「そうだ、男の魔女っ子!」


 思い出したくないことを言われ、後ろ向きに座って頭を抱えたくなった。


「モール街騒動のとき、希教道信者と魔女がセットになったのよね」

「魔女が頭にあるから、だから些細なきっかけで、集団ヒステリー、集団幻覚を見ると魔女にかわっている。そうじゃない?」

「メディアの影響も大きいよな」


 彩水たちの会話の中、要が書斎机にほおづえをつきながら、顔を俺に向けて聞いてくる。


「前のモール街の魔女騒動では、原因がわからなかったのよね?」

「ああっ、そうなんだ。放置していたツケが回ってきている感じだな」


 前回調べたときは、まやかしイミテーション幻覚イリュージョンを起こしている人物の影は見あたらず、グループ・天誅メンバーが背後にいると思ったが、確認が取れなかった。

 だが、黒バッグの奪取ではG・天誅メンバーは現れたので、今回の騒動も被疑者として排除はできない。


「一番それらしいのは、TVで言ってた神経過敏で集団ヒステリーを起こしているってこと?」


 室内がしばらく静かになると、麻衣がそれらしいことを提示した。


「いや、たまたまならいいけど、こう頻繁にあると人為的な気がする」

「そうそれよ。私も誰かがうしろで糸を引いてると思うわ」


 俺が話し彩水が同調すると、鈴が空気を読まずに言った。


「希教道、犯人違うの?」


 場が一瞬沈黙した。


「ないわ。と言うか、勾玉は口をはさむな」


 彩水にばっさり言われると、彼女は顔をこわばらせる。


「勾玉だけど、違う。私、鈴」


 そう言う鈴に、彩水は肩をすくめる。


「外来の涼宮さんは、どっぷりマスコミの洗脳を受けているようだね」

「うん、そうだわ」


 純子が複雑な面持ちで言うと、麻衣も賛同した。


「私、彼女、悪さしないように指令受けた。ここに問題あるからと」

「そう、だったわね」


 鈴は前を見て言うと、前に座っていた要が無表情に言葉を返した。


「森永さんもそう」


 鈴がうしろへ振り向き言うと、終始黙って立っていた森永さんが口を開いた。


「私は希教道の監視、報告役です。意見や発言はしませんよ。ここでは、ただ傍聴者です」

「ふーん。じゃあ、私とは、違う? 私、間違っている?」

「そうよ」


 彩水がすぐ突っ込んだので、俺は頭をかきながらフォローする。


「いや、その、ここにいれば洗脳も解除されると思う。話してもかまわないが、希教道騒動や魔女騒動の本筋を理解してなければ無視されるから」

「ん? そう、なの? わかった」


 鈴は不思議そうな顔をして黙ると、要が話し出す。


「もう一度、場所を調査して見るしかなさそうね」

「それはいいが、もう私たち幹部だと面が割れているから、モール街は散歩するだけで目立つぞ」

「そうね、マスコミも突いて回られると厄介だし」

「この際だから、まやかしイミテーション変装でやってみる?」


 要の案で、彩水が速攻で怪しい笑顔のまま賛成した。




 情報収集に喫茶店へ調べに行くことになり、挙手した彩水と直人と今村が追随して裏のモール街へ。

 道場前のカフェショコラは俺と要、麻衣になり、別れて行くことになる。

 二人が一緒に来るのはいいが、反目しあって顔も合わせないのでやりづらい。

 いや、二人の反目は俺の甲斐性なしのせいだよな……うん反省。

 だが要には、当たり前ののように鈴がくっ付いてくる。


「私、行く。見失うのは、依頼失敗になる」


 要が明らかに渋い顔をしたので、俺は鈴に提案した。


「じゃあ、終始口をつぐんでいて何もしないことが、付属の条件だな」

「うん。付属の条件ね。やる。つぐんでる」

「話さないんだぞ」

「わかっている。つぐんでる。つぐむ。どう? つぐめているだろ」


 口を押えながら話すので「ふざけるなら却下」と言うと、鈴はショックを受けて静かになった。


「なんだ、やればできるじゃない」


 俺を見た鈴は、口を押えたままにらんできた。

 そのやり取りを聞いて要と麻衣が、顔を見合わせて笑っていた。

 おおっ、二人が笑っている。

 これは鈴が彼女たちにとって、よき緩和剤になるんじゃないかと少しだけ期待。

 変装は簡単、竜芽学園の無名学生としてまやかしイミテーションを周りにかけていくのだが、男一人混じるのは目立つので、四人全員女子になった。

 裏から回って大通りに出ると、強い日差しの中、まだマスコミやプロ市民団体のグループに野次馬も多く、そこへ集中してまやかしイミテーションをかけようと一人立ち止まってしまう。

 近くの記者に遠隔視オブザーバー目線を通すと、夏服の少女が元気に明るく歩いているのを確認できた。

 その目線主に向けて、じっと凝視している少女が視え思わずときめくが、よく視ると男の娘の俺だった。

 思わず腰砕けになり、よろめいてしまう。

 すぐ目線を自己に戻して、先へ進んだ三人へ走って追いつくと、カフェショコラへもまやかしイミテーションをかけて中へ入った。


「いらっしゃいませ」


 久しぶりの夢香さんの声が耳に入り、声をかけようとしたが、もう別人と認識されているから止めた。

 四人空いてる席がなく、二人席とカウンターに分かれる。

 要には鈴なので、俺は麻衣を伴ってカウンターに座った。


「夢香ーさっくぐっ」


 麻衣が声をかけたので、俺は焦ってすぐ彼女の口を手で塞いだ。


「俺たち竜芽学園の無名学生」


 小声で彼女に話して思い出させた。


「ごめん、そうでした。つい、いつものクセで……あははっ」


 麻衣のおでこを指で軽く突いたあと、要たちへ目を向けると二人は無言で座り続けていた。

 大丈夫だろうかと心配になるが、彼女たちの席隣にプロ市民代表の押見が座っていて目を見張る。 

 向かいには毎朝新聞の森本記者が座って話していたが、こちらに意に返さないので変装が効いてると安堵した。

 ただ、喫煙席に座った彼女たちに、森本記者の吐いたタバコの煙がかかって鈴がむせている。

 連中が何かネタでも話してないか、遠隔視オブザーバーで聞き耳を立てるが普通の何気ない会話ですぐ飽きた。

 こんな場所で、危ない話などしないか。

 メイドスタイルの夢香さんがお冷を持ってきて注文を聞いたので、アイスコーヒーとアイスティーを頼んだ。

 俺と麻衣をはじめての客として、注文を受けて戻っていったのが何とも言えない寂しさを感じたが仕方がない。

 カウンターから見える厨房では、店長と一緒に谷崎さんが働いていた。

 麻衣がひじで俺の腕を叩くので、隣に視線を向けると、テーブルにメニューブックを開いて一つの単語文字に指を差していた。


「これって知っている?」


 ジャムサンド、前に谷崎さんから聞いた新商品だったはず。


「夢香さんの文字書きとして、ここのおじ様に人気だって聞いてた」

「えっ? ジャム文字なんかサービス始めてたの。それにおじ様って……」


 周りを見てから、額に手を置いて理解した麻衣。


「あっ、そう言うことね」


 前回、夢香さんと何人かの女学生が一斉に魔女がいると騒いでいた。

 あのときは不審者は見つけられなかった……と言うか人物でないとしたらどうだろう?

 カフェショコラや他の喫茶店で、集団幻覚を見させる何かを売っていた?


「なあ、幻覚ってどうして見るかな?」

「うん? それは零翔ぜろかけでないものなら、麻薬ぐらいでしょ」


 麻衣がメニューブックを閉じながら話す。


「そうだな、そんなの吸ったり、飲んだり、あるいは注射とかじゃないと駄目だよな……」

「麻薬なんかを喫茶店に売ってたら、違法摘発されるじゃない」


 そこへ注文の冷えた飲み物が届いたので、飲みながら周りを観察する。

 今までと変わった様子は見えないが、要たちが座った喫煙席の空間はタバコの煙で淀んでいる。

 要を見ると煙を不快そうに片手を振って追い払いながら、アイスティーをストローの細い管で吸い上げていた。

 注文品は先に二人のところへ運ばれており、鈴も静かに飲んでいるのを横目で……って、はやっ、あっという間にアイスティーを飲み干して、テーブルに置いたら、彼女は突然立ち上がる。


「えっ?」


 鈴は長い黒髪をなびかせて振り向くと、うしろの二人に食ってかかった。


「希教道、何かよくないの、あるかもしれない、でも、言い過ぎ、謝って!」


 毎朝記者の森本とプロ市民の押見に口論を吹っかけたので、要が口につけたストローを噴出しそうになって固まっている。


「何だって?」

「おい。譲ちゃんは、希教道の信者だったのか?」

「違う。でも、関係者。だから、殺人鬼魔女だの、自殺幇助道だの、死神教団とか、人でなし集団とか、言わないで欲しい」


 げっ、そんなこと言ってたのか?

 麻衣も聞いてショックを受けたようで、俺の手を握ってきた。


「信者だからって、上層部のことぐらい知っているだろ?」 


 プロ市民の押見が腕を組んで対峙する。


「だから、信者、違う、鈴」


 相変わらずズレた返答をする子だが、記者の森本がくわえタバコの煙を鈴に吹きかけて笑う。


「ふへへっ、本当のこと言われて怒っているってわけか、幼いね」

「信者の譲ちゃんだと、信用されなくて教えてもらえないのか? あの殺し請負を、幹部がやっているってことを」

「はははっ」


 鈴が返事を返さないと、プロ市民と記者は大笑いを始める。


「かっ!!」


 突然、鈴が一括すると、目をむいた二人は愕然とした。

 森本のタバコがいきなり燃え上がり、灰になってひざに落ちていき、「アツッ」と声を上げ勢いよく立ち上がった。

 押見が持っていた、カップの中のコーヒーが湯気を立てて熱湯になり、「熱い」と言って取り落として割ってしまう。


「催眠幻覚、飛ばしたな!」

「まっ、魔女だ!!」


 周りのお客がその声に反応した。


「何?」

「いるのか魔女? どこだよ」


 カップの割れた音を聞きつけて、夢香さんがほうきとちりとりを手に駆け寄ってきた。


「あーっ、大丈夫ですか? お客様」


 呆然としていた森本が、彼女を手で制して胸にぶら下げていた携帯電話を取り出す。

 その場に落としたカップと、燃えカスのタバコのフィルターを動画で撮影して、要と鈴をも撮りながら会話を入れていく。


「たった今、問題の催眠術なるものがこの喫茶店で起きました。目の前の少女が我々を翻弄してます……ってあれ?」


 目の前にいたはずの少女と、座っていた少女の友人が消えていて、本人ばかりか周りの客も何人も立って驚きを表していた。

 実際は要が俺たちに目配せしてから、鈴を引っ張って急いで外へ出て行った。

 帰りがけに、要は自分たちを見えない風に、まやかしイミテーションで消去した技を披露していく。


「むっ、無銭飲食ーっ」


 夢香さんが夢から覚めたように口走ったので、俺は急いで立ち上がり彼女の肩を叩いた。


「俺た……私たちが払いますよ。オーダー伝票回してください。おほほ」

「そっ、そうでした、あは」


 振り返った夢香さんは安堵して、割れたカップを片付けだした。

 



 その間、森本は液晶画面の中で録画した内容を再生して見ていて、何かが違うことに気付いた。

 本人が見ていたはずの竜芽学園の女子生徒は映ってなく、液晶画面には本当の要と鈴が映っていて、戸惑っているようだ。

 これは次にこちらに質問が降りかかってくると見ていいだろう。


「俺たちも出ようか」


 隣の麻衣に話しかけるとのんきに返してきた。


「えっ? もう行くの。まだ半分もアイスティー飲んでないよ。忍もほとんど飲んでないし、もったいない」

「うーく、仕方ないな」


 俺たちも姿を消してから、ゆっくり出て行くか……あっ、夢香さんたちには消さないで見せておかないと。

 ここで一つ聞きたかったことがあったから、今聞いてみるか。


「あいつらも逃げたぞ」

「おっ、いつの間に、素早い連中だ」


 記者の森本にプロ市民の押見が、俺たちが座っているカウンターに指を差してるので、消去成功に安心した。

 麻衣のアイスティーをチューチュー吸う姿を見ながら、俺は谷崎さんに零感応エアコネクトをかけて念話してみた。


 ――あの……俺だけど、今、ちょっといいですか?

『あら、広瀬君? 久しぶり。いいわよ。また道場から?』

 ――今、カウンターに来てます。

『嘘?』

 谷崎さんが顔をこちらへ向けると、首をひねる。

『……女の子だけで、いないけど、どこ?』 

 ――すいません、忘れてた。


 俺は谷崎さんに、竜芽学園の女子生徒のイメージを消して元に戻した。


『見えた。はあ、幻覚だったのね? 込んだことするわね。まあ、この時期は仕方ないのか』

 ――今日来たのは、前にあった魔女騒動の調査です。

『私としてはあれよ、希教道の奇跡を聞きたいわね』

 ――それは今度ゆっくり話しますよ。今は魔女騒動を解決したいんです。


 谷崎さんは店長に、ちょっと休みますと言って、俺のいるカウンターへ来ると麻衣に挨拶した。


「一緒だったのね。こんにちは」

「はっ、えっ? ども。……ばれてる?」 


 谷崎さんにイメージ消去したことを彼女に教えると、「早く教えなさいよ」と小声で怒られた。


「希教道の奇跡の犯人は、やはり彼女かな?」

「えっと、教祖と……その信者たちかな?」


 俺は目を泳がせながら、うやむやに答えた。


「そうなの? 当てが外れたわ」


 首に手を当てて驚く谷崎さんだが、ここは先に進ませねば。


「魔女騒動のときの夢香さんや、若い女子客が食べていた物は覚えてますか?」

「うーん、ごめん、ちょっと覚えてないかな。……あのときは九時頃だったわよね。まだモーニングランチ食べている人が多かったと思うけど」


 若い女子客は、たぶんモーニングランチってことか。


「知美、その子たちと知り合いだったの?」

「わっ、夢香さん」

「何? 夢香、眠り王子君だよ」


 まだそのネーミングでいいますか、と言うか、夢香さんには俺は少女のままになっていた。

 ちょうどいい、彼女からも聞くのがいいと思い、女子生徒のイメージを消去した。


「どう言うこと知美? んっ、えっ?」


 夢香さんも、俺と麻衣に気付いて目を見開いている。

 俺は口に人差し指を当てて言った。


「すみません。周りに気付かれない風に会話をお願いします」

「し、しのびっ、忍君。ええっ? さっきの子達は……あれ? 見間違え? 忍君達だったんだ。……あっ、じゃあ、お忍びってことね」


 大きくなりかけた声に、手で口を押さえて小声で聞いてきた。


「そんなものです」

「はい」

「もーっ、いろいろ聞きたいこと山ほどあるんですけど」


 夢香さんが両手を腰に当てて、胸の大きな膨らみを上下に揺らしながら言った。


「ごめんなさい。それは今度、落ち着いたとき詳しく話します。今日は、急ぎの聞き込みがありまして」

「ふんふん、私に何かしら?」


 夢香さんは俺に向かって両手を前に組んで用件に構えたが、カウンター越しの谷崎さんから質問を受け取った。


「この前、魔女を見たって騒動になったときあったでしょ? あのときの食事はなんだったかってさ。そうでしょ、忍君」

「あっ、はい。そのとおりで。で、夢香さんは朝は何食べました?」


 メイド姿の彼女は腕を顔に手を当てて考え込んだ。


「あの日は、自室で朝食サラダを一杯食べたんだけど……他に何か食べたかな?」


 えっ、朝それだけ? まあ、朝食抜く人もいるからいいのか。


「思い出した。あれじゃない。ジャム文字の失敗した食パン」


 逆に谷崎さんが記憶を引き出してフォローする。


「あーっ、そうだった。おじ様客にお尻さわられて、サービスで書いていた食パンジャム文字をしくじったのよ。まったく。調理室に持って帰って、自ら食したんだよね」

「セクハラおやじが出たの? 酷い」


 麻衣が肩を上げて怒り出すが、夢香さんは両手を前に出して抑えてポーズを見せる。


「すぐ店長が出てきて、注意してくれたのよ。その客は周りの目も手伝って、コソコソと帰ってその後は来てないよ」


 カフェショコラ店長ナイス。


「じゃあ、夢香さんが食べたのは、ジャム文字の入った食パン」

「ええっ、そうね」


 俺は、すぐ女性客のモーニングランチを想定する。


「モーニングランチって食パン付きますよね。じゃあ、ジャムのサンドってありますか?」

「ええっ、好みで選べるから、女子に人気かな」

「なるほどね」

「忍、食パンに何かあると思うの? 私もここで何度か食べているけど、幻覚を見たことはなかったわよ」

「そうなんだよな」

「お勘定」


 立ち上がった客に、夢香さんが「今行きます」と答えてレジに駆け出す。

 それを見て俺は麻衣に目線を合わせると、一緒に立ち上がる。

 谷崎さんに「もう行くの?」と呼び止められるが、「先に飛び出た二人が待っていますので」と断って俺たちは喫茶店を出た。






 道場に戻って応接室にはいると、書斎机の椅子に要が腕を組んで座り、向かいの床に鈴が正座していた。


「何しているんだ?」


 俺が聞くと鈴が喜んでひざを崩した。


「いたた」

「先ほどの不始末の懲罰をさせてました。忍君たちが来るまでの限定ですけど」

「なるほど。でも鈴は、希教道として怒ってくれたと思ったが?」

「それは嬉しいことですが、喫茶店を出てからも、勾玉使ってやってくれましたから」

「あ、ははっ、そっ、そうなのか」

「私、悪くない。道場に石投げた奴、悪い。だから石の入った袋、熱した。誉められて当然のはず」

「何も言わない、何もしないが条件で参加させたのに破ったからでしょ。もう少し正座続けたい?」

「それは、嫌」


 足を伸ばしてひざを摩る鈴を見ていた要は、書斎机に突っ伏してしまった。

 これは同じ勾玉使いとして老師から鈴を、要は押し付けられたのかも知れない。

 要の足元に寝そべっていた柴犬が、鈴に近寄り顔をしきりに舐めだすと、彼女は嫌がってその場を逃げ出す。

 その様子を見ながら顔を上げて、要は俺に聞いてきた。


「忍君たちは、何か収穫はありましたか?」


 俺も麻衣も肩をすくめた。


「あの日の食べたものを聞いたぐらいだよ。彩水たちの情報に期待かな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る