第105話 魔女狩り(十二)モール街の魔女決着

 道場で麻衣の自己遮断メデューサの練習を指導していると、彩水たち三人か戻ってきた。

 応接室に幹部が集まって、モール街の魔女に対しての情報の刷り合わせを始める。

 森永さんや高田さんも参加していた。

 彩水たちは、黒バッグを出し抜かれた夜の三人に変装して、裏のモール街の喫茶店へ出向いたとのこと。

 手がかりが寄ってくると思っての変装だったが、金本本人が奥で店長らと話してて、速攻でその他の人物に変えたらしい。

 金本ベーカリーから大幅に安く仕入れできるらしく、店長が助かるとかで喜んでいたのを遠隔視オブザーバーでのぞいてたとか。

 その金本を注意して観察すると、食パンの入った番重ばんじゅうコンテナやジャムのビンを、業者として置いていったそうだ。

 食パンやジャムの単語で、俺と麻衣が顔を見合わせる。


「ん? 何かあるのか」


 それを見て彩水が聞いた。


「魔女幻覚を見たカフェショコラの人たちは、モーニングランチを食べてたらしい」

「最近、カフェショコラの新メニューに、ジャムサンドが加わっていて人気なのよ」


 俺と麻衣が問題定義すると、要が書斎机に両手を置いて聞いてくる。


「食料素材か食材に、幻覚剤みたいな成分が含まれているって考えかしら」

「異能者でなければ、それが疑われる一つの理由になると思う」


 確信は持てないが、彼女へ答えた。


「裏のモール街や、十番街の騒動も喫茶店で起こっているね」

「食材を摂取した客が、集団幻想に入っているってわけか」

「本当だったら問題になるんじゃね」

「これはうまく立ち回らないと、また冤罪にさせられるな」 


 幹部たちが騒ぎ、それぞれ意見を言った。


「気になるのは、カフェショコラで利用しているマスコミ連中から、幻覚を見たって話は出てないんだよな」


 俺は自ら否定的の考えも言ってみた。


「そういえば、女子が多く、大人が少ないね」

「それでも、食材での幻覚はありえそう」

「そうですよ。見たり見なかったりと人によるのかも知れませんし」


 純子や篠ノ井も同意する。


「じゃあ、カフェショコラへの食品納入も金本ベーカリーだよな」


 彩水の決め付け発言で、俺はしまったと頭をかいた。


「悪い、納入元まで聞いてなかった」

「忍ちん、使えねえ」

「うっ、うるせえ。忘れただけだ。次に聞く」

「それじゃ遅い。また魔女が出てくるわよ」


 彩水が難しい顔をして言うと、要が即決の意見を出した。


「それじゃ、金本を直接調べればいいです」

「そりゃ、そうだ。よし、じゃ、交代で奴を見張るのよ。何かボロを出せば証拠が転がってくる」


 彩水の号令でこれからの行動が決まった。


「こんなとき一番手っ取り早いのは、残留思念抽出サルベージなんだけどな」


 俺が愚痴ると彩水がすぐ反応して、行動思考で言った。


「そうね。金本はパネルバンの運転してたから、誰か行ってドアノブから抽出とか。今村やれない?」

「夜でもなければ、難しいですね」

「ああっ、昼は何かとヤバいかもな」

「では、私が何か持ち物を拝借してきましょうか?」


 高田さんが挙手して言うと、森永さんが待ったをかけた。


「盗みはいけませんよ」

「借りてくるだけです」

 高田さんが笑みをこぼして言った。

「森永さん、意見言った。傍聴者から、外れる」

 要のうしろにいた鈴が、生真面目に指摘した。

「ははっ、そうでした。失礼、失言でした。でも報告はさせてもらいます」 

「けっこう」


 高田さんと森永さんが、微笑しあって対立する。

 要はかまわず高田さんにお願いすると、彼は了解してその場からすぐ出て行った。

 続けて彩水が遠隔視オブザーバーを使える幹部で、時間ごとに金本を監視することを決める。

 金本追跡にSランクメンバーが入り、食材から幻覚剤になりそうなものをネットや本から調べるのが、女性スタッフに分担して情報を集めにかかった。

 俺は要の催促で追跡メンバーから外れ、2Sツーエスランクのまやかしイミテーションを使った三箇所同時中継をまかされた。

 知恵袋の竹宮女医と三田村教授に来てもらう算段で、要と打ち合わせをしていると、笑い声が聞こえて目を細める。


「ほほっ、皆さん、こんにちは」


 城野内が唐突に俺と要の間に現出する。


「わっ、びっくり」

「ロイ・ダルトンの経過報告をしに来ましたわよ。ほっほっ」


 それを視た要が、速攻で城野内に近づき小声で言った。


「鈴をお返しします」


 目を見開く城野内だが、口に手を当てて微笑んだ。


「私に権限はありませんことよ」

「何でですか」

「まあ、言いたいことはわかりますわ。でも頑張って置いてやってください。色々とたらい回しされて、可哀想ではあるんですよ」


 そう言って城野内は、壁沿いにいた鈴と森永さんに近づき挨拶をする。


「私に挨拶は最後なの?」


 今村や直人と話していた彩水が、ソファから立ち上がって不満そうに言った。


「何か幹部の方と忙しそうに話していましたから、気を利かせましたのよ、教祖さん。改めて、こんにちは」

「ふん。それで、何か情報でもあるのかな?」

「また騒がしくなってきたから、定期報告を兼ねて視に来ましたわよ」


 彼女の話は、谷崎製薬の視察を終えた筆頭株主ロイ・ダルトンは東京に戻り、何人かの役人と懇意に食事をしているとのこと。


「視られていることを知っているのか、希教道関係のボロは出さないですわね。まあ、食事会自体、今後の布石でしょうけれど」


 城野内の話に女性スタッフも聞いて話し出す。


「東京に戻ったなら、少しは安心だわ」

「そのロイって人は、何で希教道を目の敵にしてるんでしょうね」


 純子と向葵里が言うと、城野内が答えた。


「簡単ですよ。彼の引き抜きを拒否しましたから、金にならない能力者のライバルは潰す。企業も競争相手を潰しにかかるでしょ? 同じ思想でしょう。そのための方策が今の状況で、マスコミを使ってすぐ料理できると踏んでたようですわね」


 そこから要が引き継いで話した。


「でもしぶとい上に、希教道の奇跡と言う派手なパフォーマンスをやったので、慌てて蓋をしに役人を使った感じでしょう」

「破防法の話だね。一気に潰そうとしたんだ」


 俺が具体名を言うと、向葵里がまた聞いてきた。


「大っぴらにパフォーマンスをしたら、慌てたのはどうしてですか?」

「競争相手の宣伝になった? ってところね」

「予想以上の能力だったから、別の金融屋と戦争屋が興味を示しましたよ」


 森永さんが話しに参加してきた。


「それは中国メジャーですね?」


 要が聞くと森永さんはうなずいた。


「戦争屋ってぶっそうね」

「まあ異能の力を使う先は、そうなるよな」

「売り込んだつもりでないのに」


 幹部が口々に言った。


「異能力者、もうアラブ。活躍してる」


 鈴も情報を隠していて、俺や城野内、彩水が絶句すると、それを受けて森永さんが続けた。


「幻覚で相手を惑わして殲滅。戦争の形態が変わってしまったと情報が入ってきてます」

「そのメンバー、日本人が関わっている。それで老師、なげいていた。だから、私、アラブに行く。連れ戻す宣言したら、なぜか、ここに派遣」


 鈴の話で、日本人メンバーが天羽やグループ・天誅と直感した。

 





 それから一時間ほどして、高田さんが要の欲していた物を持って戻ってきた。


「金本の持ち物ですか?」

「はい、ちょっと拝借してきました」


 白の手袋からテーブルに置かれた黄色い生地は、木綿のふきんで仕事に使っていた物らしい。

 高田さんと森永さんが、また見つめあって微笑んで対立している。

 ソファに座って一番近くにいた彩水が、私がやると挙手して触った。

 顔の前で手を一回叩くと目を伏せて、しばらくして開けると、ドヤ顔のツインテールにかわった。

  

「見つけた」

「早!」


 彩水も記憶の検索方法を取得してたのか。


「何言っているの忍ちん。私は高速残留思念抽出サルベージの教祖彩水だよ」 

「何だ、そのネーミングは? お前が言ってるだけだろ」

「いや、俺が言った。高速彩水様、素晴らしいと」

「僕も言ったことある。残留思念抽出サルベージの教祖って」

「俺も驚いて、さすが教祖彩水様だって言ったな」


 今村が話したら直人、曽我部が、増徴させた犯人として名乗りを上げた。


「どんなことをしていたのかな」


 要が催促すると彩水が言う。


「幻覚剤で検索かけたらパン生地製造シーンで止まった。謎はここにあるんでしょ?」


 誰もが言ってることがわからず首を傾ける。


「そうね。……記憶映像を同時中継できないかしら?」


 要が俺に向いて言ってきたので、幻覚の再構築を試してみることにした。


「難しくはないと思う。やってみるか。彩水、ちょっと触るぞ」

「えっ? 何」


 俺は彩水の肩に触って、残留思念抽出サルベージした記憶映像を幻覚イリュージョン変換して全員に一斉に見せた。

 幹部たちを残して応接室が、暗がりの柳都ベーカリー金本のパン生地製造室に変わる。


「わわっ」

「えーっ」

「これ、凄い」

「ほーっ」


 全員が驚く中、パンを収める空のラックカートから金本がタンボール箱を持って登場。

 その箱を中央のステンレスの作業台に置き、中から何本もある小型の袋を取り出した。

 ステンレスボウルにパン生地材料の小麦粉が入っており、そこに持ち上げた袋から中の粉を撒いている。


「パンの仕込みじゃない?」

「発酵剤か何か?」

「膨らし粉、イースト菌とかじゃないでしょうか?」


 城野内が言った。


「普通のパン屋の製造過程?」


 ステンレスボウルを大型ミキサー機に取り付けてこね回した。


「金本が持ってきた袋に紙が張ってあったけど、見れないかしら」

「そうよね」


 要が言って、彩水も同調してソファから立ち上がると、見えなくなったテーブルに足をぶつけた。


「いたっ」

「幻覚中は狭い部屋で動くと危ないから」


 そう言って、俺は彩水に動くのを止めさせた。

 では、どうしようかと少し考えてから、パン生地製造室を3Dゲームのように視点移動で、それぞれが見れるようにゆっくり回転させた。


「これはまた」

「面白い」

「あ、見れた」


 それぞれが、作業台にある袋の様子を立ち止まったまま見る。


「英語表記だわ」

「俺パス」

「Attention Mycotoxinと書いてあるわね」

「アテンションって注意て意味ですわよ。でもマイコトキシンはわかりませんね」


 城野内が意訳を断念、他のメンバーも首を横にする。


「……トキシンは、毒ですね」


 高田さんがあごに手を当てて話す。


「毒?」

「マイコは菌とかの意味では?」


 今度は森永さんが言った。


「ええっ、じゃあ、毒の菌、注意ってこと?」


 城野内や純子が驚き、黙っていた要が話した。


「聞いたような気がしてたけど、それ、昔調べたことがあったわ」

「えっ、どう言うこと?」


 俺が驚いて聞くと要は答える。


「マイコトキシン、カビの毒素よ。小さいとき自白剤を用いられたことがあって、その成分だったわ。持ち主はあの岡島」

「岡島って、TCJコーポレーションの主任だな?」

「そうよ。あの火事現場……嫌なことを思い出したわ」


 途中から小声になった要は、椅子の背もたれに体を預けた。


「TCJコーポレーションって、ロイ・ダルトンですわね」

「マスコミからのパッシングと一緒に、仕掛けられていたと見ていいわ」


 城野内と彩水の言葉で、みんなは納得した。



 ***



「マイコトキシンで、今回の幻覚の症例を考えると麦角菌ぱっかくきんが犯人だわね」


 風の症状、熱っぽい、若い子が幻覚症状にかかっていたことで、竹宮女医が断定した。


「LSDの元の成分に麦角菌ってのがあって、それがマイコトキシンっていうカビの毒素なのよ」


 先ほど要と話していた三箇所同時中継を実現して、リハビリセンターの竹宮女医と東京の三田村教授に参加してもらっていた。

 道場主も高田さんのあとに戻ってきていて、腕を組んで鈴の横に立って参加している。


「麦角菌を混ぜた原料のパン生地を、流通していたとはね、うーん」


 教授も希教道攻撃の一環と自覚したら、思いのほかショックを受けた。


「カビの毒素で幻覚を見るなんて……」


 他の麻衣たちスタッフは、毒物からの幻覚が信じられない面持ちだったので、女医が麦角菌騒動をいくつか話して聞かせた。

 このモール街の魔女と似た事例がアメリカにあり、『アメリカのセイラム妖術事件』を引き合いに出すと全員引き込まれる。

 十代の女子から魔女を見た、魔女が出たと騒ぎだし始まった騒動は、魔女狩りに発展して村人約二百人が魔女告発され、二十六人もの死者を出した事件。

 その発端がライ麦から作られたパンを主食にしていたことで、麦角菌を摂取して視覚や聴覚などの異常感覚、精神的な錯乱などを引き起こして魔女を見たんじゃないかとされる説。

 中世のヨーロッパで、ライ麦の栽培、主食にしていた地区に魔女裁判や狼男伝説が多く見られていたことから、麦角菌とする説がある。

 フランス革命のときに起きた農村動乱の『大恐怖』も、麦角菌のなせる業だったと話してくれた。

 



 それを聞いた幹部たちが、麦角菌怖いと口々に言うと、今はライ麦から製粉段階で取り除いているから安心とも女医は語る。


「それなのに、また麦角菌を戻してたなんて、最悪ーっ」

「格安にして希教道の周りに売ってたんだ。思いのほか騒ぎになって味をしめて十番街にも広めた。そんな感じね」

「ジャムも販売してたから、そっちにも混入させてたかも知れないわ」

「これはアウトですわね」

「食品衛生法違反だ」

「もう犯罪だわ。逮捕よ逮捕」


 幹部やスタッフたちがいきり立った。


「なんて最低な人たちなの」


 隣の麻衣も怒りモード炸裂である。


「警察に食中毒として、食品の鑑定をしてもらうのがよろしいのでは? すぐにわかりますわ」

「食中毒で死亡者が出ないと警察は動かない」


 高田さんがにべもなく言った。


「まあ、面倒な」

「今回の魔女と騒いだ未成年者たちは、警察介入の現状は補導か解散させたぐらいだよ。それから集団食中毒の症状がでてないので、保健所の食監も派遣されてないです。今の希教道騒動で集団ヒステリーと報じられているから、仮に保健所の食監に話しても、信じて動くかは不明ですね」


 森永さんが軽く現状を言った。


「わあっ、微妙なところ突かれている?」

「そう、証拠。 さっき、トリップ映像、あの話だけで保健所、動かない」


 鈴がいたってまともなことを言った。


「私たちが通報しても、動いてくれますか?」


 純子が森永さんに言うが首を振られた。


「今はまだ無理かな。私が進言しても県警は動かないでしょう。しっかりした証拠がない限りは。保健所も食中毒患者がでてないから、難しい。でも、まずは連絡を入れてみます」


 森永さんは携帯電話を取り出して、柳都の保健所に連絡を入れるが、麦角菌と言うとせせら笑われ、愉快犯として警察に突き出すと言われた。

 続いて県警の知り合いに連絡を入れるが、監視員が洗脳されるとは情けないと言われ、精神科クリニックへ直行せよと弾劾される。


「面目ない」


 周りに頭を下げる森永さんに、全員が暖かいまなざしを向ける。


「まっ、現代科学思想で暮らす人たちの普通な反応だよね」

「異能を持ってない人の現実認識はこんなものですわ」


 純子と城野内が興ざめした感じで述べた。


「こうなれば、奴を現行犯で捕まえればいいわよ」


 彩水が言うと、森永さんがたしなめた。


「それ警察の仕事ですから」

「その警察が動かないんじゃ、やるしかないですよ」

「それより問題のマイコトキシン袋を奪うってのは?」

「そんなの奪っても、警察に提出したら俺たちが疑われる」

「証拠ーっ」


 また、幹部たちがいきり立ってきたところで、今まで黙っていた三田村教授が発言する。


「記憶映像から証拠を作り出すってのは? 少なくともインパクトと信憑性を与える写真にはなる」 


 記憶映像から写真? と誰もが頭に疑問符を浮かべた。

 俺は天羽陽菜と対決したときに見た、映像をモニタリングするTCJコーポレーションの出来事を思い返した。

 そこへ城野内が鼻を高らかに知ってます宣言をする。


「忘れましたのですか? テンペストアタックをパソコンへ映像化した装置のことを」


 それでやっと全員が思い当たった。


「でもあれ、しょぼかったぞ」


 彩水がシビアな意見を言った。


「しっ、試作品を譲ってもらったものですから、仕方ありませんわ」

「テンペストアタックの記憶映像って、進んでいるんですか?」


 俺が聞くと、東京からの三田村教授立体映像は顔を微笑ませる。


「いいものがあるよ」


 全員が教授に集中する。


「内の研究施設で最近研究を始めた物でね。見ている画像を脳の血流測定からコンピューターにパターン学習させ、画像を取り出す方法なんだ。最近アメリカからシステムデーターを取り寄せてやっていてね、かなりリアルに映像が出来上がる」

「脳の血流測定から映像ですか……凄い世界だ」

「前はインターネットの画像を使用してたけど、今は膨大な3Dデーターから、映像を作り上げていて細部までハッキリするようになった。重要な人物は、写真や動画情報をインプットしておけば大丈夫」


 3Dデーターと聞いて、映像がコンピューターグラフィックだとわかり、幹部が回りの顔を見合う。


「まあ、ないよりあったら良いぐらいに思ってた方がよさそうね」


 彩水が肩をすくめて言った。


「TCCのCGだが、照明とテクスチャーで写真と見分けがつかないんだ。ハリウッドのCG映画のように、実写とCGの区別は見分けづらいんだ」


 少しむきになる教授に竹宮女医が微笑むが、俺は会社名を聞いて困惑した。


「もしかして、TCコーポレーション関係ですか?」

「おっ、広瀬君よく知っているね。前に少し話題になっていたからだね」


 敵のシステムかよ……でも、この際仕方ない。

 要も気付いて微妙な顔になる。


「今はまた進化しているらしく、音声攻撃を妨害し、思考盗聴も妨害できる可能性のある装置も開発したと聞いているな」


 それを聞いて俺と要が顔を向け目が合った。

 グループ・天誅メンバーが見えなかったのはこれか!


「ただ、映像を見ている残留思念抽出サルベージの被験者が必要になるので東京へ来ないといけない」


 彩水が速攻で挙手した。


「よし、私行く」

「今東京に移動は、まずくない?」

「逆に宣伝になるわ」

「彩水だと面倒になりかねないから、面が割れてない今村か直人がいいぞ」

「なっ、私が行かないと始まらないわよ」

「何がだよ? 行くより教祖としてドンと道場にゆったりと構えていればいい」

「んっ、それもそうね」


 やはりここはチョロ教祖だった。




 周りの幹部は動き出すが、俺と要は三田村教授に捕まって話を聞くことに。

 教授の話は続いて、栞の勾玉使い能力で新たなアイデアを思いついたと、興味を引く話題を振ってきた。


「栞君の意識で無からエネルギーを創り上げる能力は、財産になる。人類のだ」

「無から掘り出すエネルギーなら上限もないのでは? そう、使われている源が、確認されてない高次元エーテルを取り出しているのなら、一番解釈に納得がいく。だから、ものの数分で爆弾低気圧を発生させることもできた。それなら十分強力なエネルギーも作れるんじゃないか? たとえば、小型の太陽を作るのでさえ可能では? と最近思うのだよ」 


 話が大きくなって困惑する俺たち。


「とにかく無からのエネルギーだとすれば、タダではないか。減ることもないフリーエネルギーだ。それができればエネルギー戦争がなくなる。人類平和共存の世界が君たちの力で構築できることになる」


 壮大な話で、俺と要は目を合わせてますます困惑していく。


「だがしかし、気をつけなければいけないのは、負の気持ちを芽生えさせないように。人類を滅亡にも征服することにもできるのだから」


 さすがに人類滅亡はありえないと俺はたかをくくるのだが、要は考えながら自分の手を見つめていた。

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