第101話 魔女狩り(八)敗北

 車を運転していた佐々木は、繁栄街の一角にある駐車場にゆっくり入れて止めた。

 場所は柳都十番街の七番地付近で、前に麻衣と一緒に来たことがある。

 助手席に置いてあった黒のバッグを取り出して外に出た。

 しばらく歩くと、建築防音シーツで覆われた工事中のビルがあり、路地を挟んでシャッターが下りた『柳都ベーカリー金本』の店前に止まり、脇の入り口ドアから入っていく。


「パン屋に入ったけど、みんなはわかった?」


 俺は彩水たちが来ているのかわからず、目の前の三人に聞くと、隣の結菜ちゃんが、「はいなーっ」と最初に声を上げた。


「視ているわ」

「はい」

「集中しているから、声をかけるな。ちっ、またのぞくのに時間がかかる」


 もう、しっかりしたSランク者たちだ、聞くまでもなかった。

 店の奥は明かりが点いているパン生地製造室で、そこへ入ると、テーブルの椅子にプロ市民の押見代表が座っていて驚く。

 その向かいに腕を組んで立っているのは、白いポロシャツのくぼみ目男だ。


「こいつだわ。私の頭に包帯まかせた不貞の輩。逃がさない」

「彩水様に石を投げつけたのが、このミイラ男。どう始末つけよう」

「ゆるさない」


 前の三人が燃え始めて不安になる。


「ここパン屋さん?」

「うん、そうだよ」


 結菜ちゃんの質問で、ここの主がくぼみ目男と気づく。

 たしかベーカリー金本って名の店だった。


『おうっ、首尾よく持って来れたぜ』


 佐々木は仕込みのテーブルに、例の黒のバッグを置いた。


「中身は?」

『間違いねえ。依頼のものだ』


 押見が黒のバッグを開けて中を確認すると、体に引き寄せて首を縦に振った。


「たしかに」


 そう言うとスラックスのポケットから、厚い封筒を取り出し佐々木の前に置いた。


「残りだ受け取れ」

『へへっ』


 どこぞのTVドラマを地でやっているので、視ていて白けてきた。

 ここは高田さんと組み、黒のバッグを取り戻す好機と見て、遠隔視オブザーバーを切り替える。


 変わった映像は、先ほどの柳都ベーカリー店の周りを調べていたようで、工事中のビル側面にある薄暗い裏路地をのぞいているところだった。

 俺自身のまやかしイミテーションを高田さんの前に現出させて、中の状況を説明する。


『では、裏口がありますから、そこで待機してます。バッグを持ち出した一人を、上手くあぶり出してください』

 

 了解して俺は応接室に意識を戻し、彩水たちに佐々木たち三人を、表、裏と分離させて外へ追い立てる作戦制作を進言した。


「簡単。表から例のブラック団のまやかしイミテーションを見せて、バッグ持ちの押見だけ裏へ逃がす、いいわね」

「では、俺が押見を追い立てて高田さんに渡す」

「僕たちが、他の二人を足止めすることでいいのかな」


 彩水の案に俺が乗り、今村が了承した。

 大人数で圧倒したいから、それぞれが黒の目だし帽フェイスマスクを装着したストリートギャングを二人ずつ送り出した。


「じゃあ、私から順番に現出させていくわよ」

「OK」


 パン生地製造室へ、突然の黒尽くめの侵入者が二人、少し間を置いて二人が鉄パイプを持って乱入。

 あれ? 

 四人って……応接室に目をやると、今村と直人がしきりに唸っている。

 彩水も気付いたようだ。

 どうやら遠隔視オブザーバーを使い、のぞきながらまやかしイミテーションを現すのに、まだ練習が足りてなかったらしい。


「まっ、まて、今出す。出すからな……」


 侵入者が四人で、相対することとなった。

 それでも驚いてくれて、立ち上がる押見代表に佐々木たち。


「きさまら、何しに来た」

『上前をはねた分け前に、決まってるじゃん』


 彩水が扱ったブラック団の男が、前に出て話だす。


「なんのことだ? 大体ここをどうして知った?」

「佐々木さんが、そいつら連れてきたと違うのか? ……まさか」


 押見代表が一人下がって、佐々木と金本を見ながら疑心に駆られて言った。


「何抜かすか」


 佐々木は、ブラック団に顔を向けたまま、押見代表に言葉を吐き捨てた。

 押見代表はしきりに後ろのドアを見だす。

 いい雰囲気になったので、俺の手持ちの二人を動かして、押見代表のバッグを取りに行かせる。


「何をするか」


 手を伸ばした一人を押見代表は突き飛ばそうとするので、避けながら鉄パイプを向けさせる。

 佐々木と金本の間に上手く入りこめた。

 そこへやっとブラック団二人が新手として入り口から入ってきて加わる。


「ちっ」


 押見代表は、相手が増えたと見たら、猛然と裏のドアに走り出した。

 俺は持ち手の二人で追わせると、それを皮切りに佐々木と金本がブラック団に殴りかかる。

 だが、侵入者四人は相手にせず、拳を避けながら玄関へ後退した。




 俺は佐々木目線から高田さん目線に入り、状況を視に行く。

 そこには、裏口ドアから勢いよく出た押見代表の驚愕の顔があった。


「うぐっ」


 暗い裏路地に人が倒れ落ちる音とともに、目の前にあの黒いバッグが目に入った。

 押見代表を一撃で沈黙させた高田さんは、すぐ黒いバッグの中にファイルやDVDが入っているのを確認して持ち上げる。

 静かに、でも早く歩を進め、八番街モールの人が散在している照明の点いた歩道へ出た。

 少し先に飲食店ビルから派手な照明があり、喫茶店のスタンド看板が立っているのがのぞける。

 そこに張り紙がしてあり、遠くからでも『朗読会の時間』と大きな文字が見えた。

 入り口から人が次々に出てきていて、時間的に終わったとこなのだろう。

 その中に見知った顔を見た気がした。


「で、私はこのまま戻るが、いいかな?」


 高田さんが、俺の存在を自覚しているのか、語りかけてきたので、自己のまやかしイミテーションを現出させる。


「ありがとうございます。そうしてください」

「んっ、これは広瀬君か?」


 高田さん目線の歩道が、歪んでいき、ダンジョンを思い起こす薄暗い洞窟が周りをゆっくり覆い始めた。

 幻覚か。


「いえ、違います。これはまるで……」


 まさか彩水が? いや、そんなはずはない。 

 これは第三者の幻覚!?

 洞窟と言えば、天羽陽菜が前に使っていたが……ロイ・ダルトンの関係で、彼女がバッグを取り返そうと動いてきた?


「たぶん、敵です。何か襲ってくる可能性があります」


 忠告した先から、バイクほどのドーベルマン型魔獣が加わり、こちらに突進してきた。

 俺はすぐ高田さんへ、魔獣と薄暗い洞窟を続けて消去するイメージを送った。

 高田さんは突っ込んできた魔獣を、注意しながら軽く避けて逃れると相手は消えた。

 

 零翔ぜろかけで幻覚を仕掛けてきたってことは、なら、こちらからも行ける!?

 すぐ天羽陽菜をイメージして目線取得を念ずるが、繋がっても画像に光が被さりが乱れてのぞくことが困難。

 今までと同じ症状だが、頭痛がしなくなっていた。

 幻覚の洞窟も消去され、現実の世界へ映像が戻りかけてるが、上書き幻覚があるかもしれないので注意する。

 だが、これが彼女でなければ、もう一人、美濃正の可能性は?

 すぐ同じように、美濃正へイメージの目線取得をしようとしたら……また魔獣が現れた。

 上書き消去を繰り返すと、魔獣は高田さんが避ける前に消失。

 だが、高田さんのこもった声。

 それが耳に届くと、元に戻ったばかりの歩道が暗闇に落ちていった。


 これは?


 目線が途絶えて、突然状況が把握できなくなる。

 何が起きたかわからず呆けてしまうと、物を引きずる音と物が当たる音が耳に入ってきた。

 ヤバイ、高田さん本人に何かあったんだ。

 聴覚はリンクした状態だが、やはり音だけではわからない。

 別視点に見るには、誰かを探さないと、そう思いながら焦っているうちに、静かになると車のドアが閉まり走り去る音が聞こえていた。

 高田さんの他に、近くに敵がいたんだ。

 彩水たちに話して応援に来てもらうか? だが、目線が閉じているのでは混乱するだけか。

 もう少し情報はないかと集中して音を聞くと、歩道先の朗読会会場の表からざわめき音が戻ってきた。

 一瞬だったが、先ほど見た顔は知り合いらしかった。

 試してみる?

 俺は同級生のホームズオタクの顔をイメージした。


 目線はすぐ、暗闇から明るい歩道と若い男女が多い映像が浮かび上がった。

 おおっ、別視点の映像、当たりだったか。

 その真正面に麻衣の友人の椎名瞳が立っていてこちらを見ている。

 淡いブルーのシャツワンピースにリボンベルトを着け、ブラウンのショルダーバッグを掛けている彼女が、この目線男、佐野雅治と連れ立っているのは解せん。

 だが、今は猶予がない、ここにいることを感謝。

 俺自身のまやかしイミテーションを彼らの前に走ってくるように現した。


「あれ? 広瀬じゃん」

「えっ?」


 雅治がすぐ俺を認識して、椎名も気付いたようだ。


「二人とも、おひさっ。朗読会行ってたのか?」

「あっ、ああ、そう、知り合いが朗読するってことで、聞きに来たわけ」

「椎名も?」

「悪くないかなって……実際に足を運んで良かったわ」

「ほっ、お誘いした甲斐があったな」


 椎名が両手を組み、首を傾げて聞いてきた。


「それで、広瀬は何でここに?」

「それなんだが、ちょっ、ちょっといいかな」


 顔を見合す二人。






 会場から少しはなれたところで見つけた。

 歩道に固定式で設置している長椅子に横になって高田さんが酔っ払いのように寝ている。

 手にしているはずの、黒のバッグは……やはり無くなっていた。

 遅すぎたか……。

 くそっ、幻覚を意識し過ぎて大失態をした。

 幻覚はおとりで現実の人間を油断させるための、巧妙な罠だったってことか。


「これは」

「ええっ」


 俺に伴われて雅治と椎名が近づき、高田さんについて小声で話しているが、どう説明しよう。 


「広瀬、その人誰?」

「えっ、ええっと、知り合い。さっき倒れてしまって……俺が声をかけても起きないんだ」

「それ、ヤバイじゃん」


 椎名が高田さんの肩を少し叩いて、意識があるか顔に手を当てて呼吸を確認する。


「お酒じゃないみたいね。傷も見当たらないし、失神かしら?」

「救急車呼んだ方がよくないか?」

「俺、携帯無くて、じゃなくて、いや、それは悪手で厄介事になる」


 また「希教道ガー」とバッシングに使われてしまう。


「どういうこと?」

「これって、一連の希教道騒動と関係あり?」


 椎名が本筋をついてきた。


「知っているなら話は早いかな」

「ううっ……」


 俺たちの話で高田さんが、気づいたようで、体を揺らすと、瞬時に上半身が起き上がった。

 その素早さに椎名が硬直して、雅治目線も高田さんに釘付けになる。

 俺は一安心して、高田さんにまやかしイミテーションを送って話しかける。


「気が付いたようですね。よかった。どこか怪我は?」

「ない」


 高田さんは首筋を抑えたあと即答。俺を見たあと、立ち上がり周りを見渡す。


「えっと、彼らは俺の同級生で、ちょうどこの場に居合わせたんです」

「そうか」


 二人を見たあと、歩道と交差した暗い路地へ目をやると腕を組んだ。


「あのっ、黒のバッグは持ち去られたようです。すみません、バックアップできなくて……」

「そうか。気配を感じたんだが、対処できなかった。だからこれは私の責任でもある」


 そう言うと高田さんは路上を見続けて何か考え込んだ。

 その様子を見ていた雅治は、どう説明しようかと悩むように口を挟む。


「もしかして、何か盗まれた?」

「あっ、うん」


 俺が濁して言うと、雅治は椎名と顔を見合わせたあと言う。


「その寝てた人は、さきほど近くにいた黒服外人と一緒でなかったの?」

「私は一人だ」


 高田さんは思考から覚めて、雅治に顔を向ける。


「そのベンチに寝かせつけていた巨漢の外人がいたんだが、その人とは知り合いではなかった?」

「違うよ。どんな人?」

「アメリカのシークレットサービスにいそうな人だったよ」


 今度は椎名が話した。


「車に乗って行ったみたいだけど、金髪で黒いサングラスをしていたわね」


 バードだ。

 未だに日本から出て行ってないのか、それともロイ・ダルトンのボディーガードで来てたのか。

 何にせよ、奴にバッグを回収されたのなら追跡が困難になった。


「私は、思い当たるところを探ってみる」


 高田さんはそう言って暗がりに消えていった。

 同級生の二人からは、高田さんとの関係、俺や麻衣の今の状況、希教道の説明を求められて大雑把だが納得いけるように答えた。

 もちろん危険な部分は話さず、またはぼかして言った。


「やっぱり、大変なんだな」

「だから、もうしばらく、俺たちから距離を取っていて欲しい」

「そうだな、希教道の魔女なんか、あちらこちらで問題になっているから、しかたないか」

「あちらこちらで問題って?」


 俺は希教道の前とモール街騒動だけの認識だったので、不審に思った。


「知らないか? ここ数日、希教道騒動にあわせて、この十番街で何件も希教道の魔女がいるって騒ぎになっているらしい」

「えっ?」

「私たちも今日の夕方に見かけたのよ。魔女騒動の現場」

「この先の喫茶店で、希教道の魔女がいるって騒ぎ立てた女性が、隣の席から出て驚いたぞ」

「一人が言い出したら、周りからヒステリックに騒ぎ始める子が出て、悲鳴上げたり、何もないところに指を差してたり、テーブルの下に隠れたりで、喫茶店の中は空気が凍ったみたいになって、誰も動けなかった。……恐ろしかったわ」


 モール街の魔女とパターンが同じか?

 同種の幻覚だろうか?


「二人は、魔女は見た?」

「いや、俺はよくわからなかったな……入ったばかりってのもあったけど」

「私は、あの恐ろしい空気で、何かいるような嫌な気分にさせられたわね」

「そうか」

「それって、広瀬や麻衣が関わっているってことないよね?」

「喫茶店の魔女は関係ないし、この十番街の騒動は初耳だよ」


 希教道騒動で、周りが不安になって変な流れになっている。

 そこに誰かが、幻覚を見せて煽っている?

 俺の否定で安心した二人は、帰りのバス時間の数が少ないから、と言って大通りに向かう。

 別れ際に椎名から、「麻衣をしっかり守りなさいよ」と釘を刺されてしまった。

 



 希教道の応接室に意識を戻すと、隣に麻衣がうちわで俺の顔を扇いでいた。


「あっ、起きた。長かったけど、どうだった?」

「うっ、うん、失敗した」

「えっ」


 近くに立っていた幹部たちも声を上げる。

 向かいの彩水たちは、まだ目を閉じて遠隔視オブザーバーの行使中で顔に焦りの色が濃い。


「他の連中は戻ってないのか?」

「忍が先に目覚めたわよ。一緒じゃなかったの?」

「途中から分かれた」


 俺派彩水の前で手を振っても、軽く声をかけても返事はなく、完全に目線先に意識が集中している状態だ。

 両隣の男二人も、隣の一人掛けソファの結菜ちゃんも目をつぶっている。


「これは四人とも、行ったきり?」

「そうだけど、失敗って、忍は体とか何も悪くないの?」

「それはない。ただ罠にかかって、バードにバッグを持っていかれた」

「バードって、東京出張のとき拳銃で撃ってきた外人?」

「そうだったな」

「怖いわ」


 不安顔になった麻衣の背中に腕を回し体を引き寄せ、「大丈夫」とささやいて安心させる。

 しかし、彩水が戻ってないってどうしてだ?

 佐々木たちを沈黙させる予定が長引いてるのか?


「俺も彩水たちの方へ言ってみる」

「うん」


 彩水らの状況を知るために、俺は佐々木目線のイメージを再開する。




 目線に画像が現れると、先ほどのベーカリー店の室内かと思いきや、砂漠であった。

 佐々木目線から、平屋の家が何件も見えるがその奥は砂丘地帯。

 人影は前に見覚えのある黒の目だし帽フェイスマスクを装着した男たちが散在して銃を持って……撃っていた。

 当たり前だが、相手は佐々木と金本で、自動小銃を持って家の壁に隠れてやはり撃っている。


「なんだこれは?」


 近くでバーニングが炸裂すると、佐々木たちに自動で盾が現れて二人を保護した。

 彩水たちが幻覚を構築したと思えないし、佐々木たちを守ってやる意味もない。

 これは、高田さんのところへ来た異能者か?

 俺はすぐ念話で、彩水にコンタクトを取る。


 ――これはどういう状況なんだ?

『あっ、忍ちん。もう少し佐々木の守りレベル落としてよ。でないと、やっつけられないでしょ』

 ――いや、あの、それって?

『忍ちんの守りの鉄壁さはわかったからさ、ここは本当に佐々木を完膚無きに叩くところなんだから』

 ――んっ……俺?


 何か、根本的なところで勘違いしている。俺もバッグを奪われて言える立場じゃないが、彩水も……大概だな。

 だが、これは、明らかに攻撃……それも遊ばれている。

 でも今なら相手を特定できるかもしれない。

 十中八九グループ・天誅のメンバーが考えられる。

 先ほど天羽陽菜で探ったが、光が入りのぞけなかった。

 今度は美濃正で、イメージしてアクセスをした……が、天羽と同じで視ることはできない。

 他の天誅メンバーに視野を広げると、女子が一人いたが記憶が薄い。あと中三の男子が二人だが、どうだろう。

 西浦と一緒だった二人の記憶はある。

 一人はたしか芝って子だと、かすかに思い起こされたので、それを伝ってイメージを広げてみた。




 暗がりから、目の前が開けた。

 映像に光が入ることはない。

 広く白い室内の目線で、前に見たTCJコーポレーションの研究室みたいだ。

 前面に二台の大きなモニターが壁に掛けられていて、一人の白衣男が携帯電話を耳に当てながら映像を見ている。

 一台目のディスプレイに流れているのは、何処かの会場でパーティをやっている映像。

 二台目のディスプレイには、今しがた見ていた佐々木目線の幻覚映像であった。

 携帯電話を持った男が、こちらに向いて「そろそろお開きにしろ」と言ってきたのは、痩せた顔立ちで黒メガネの岡島主任である。

 芝が片手を上げると、モニターに映っていた砂漠が消えて暗いビルの工事現場内部に変わった。

 砂漠の幻覚は、この目線主の芝の能力で間違いなさそうだな。

 ディスプレイでは、巨大なバーニングが空間に広がると大きく炸裂して、すぐ画面がブラックアウトに変わる。

 芝の前に短くカットされた茶髪女子が固い動作で来て、頭の方へ手を回し作業を始めたが、この子がたしか村山って子だ。


『希教道の異能者は劣等人種、ふっへへ』

「そう? 何でもいいけど、マトリックス外して。私、寝る」

『ふっ、また寝る? 早朝は能力冴えて熱狂できるってのに、ふへへっ』


 前に天羽が持っていたヘルメットを村山が持ち上げて脇に置いたが、ここは岡島主任のラボか?

 その岡島が近くの大きな精密機械の操作レバーを、両手で下から上に上げる。

 それを見ていたら、芝目線映像に光が入って何がなにやらわからなくなった。

 天羽や美濃と同じ映像状態に変わり、やっと光でのぞけない理由を理解した。

 



 俺が応接室へ意識を戻すと、彩水たちも復活していた。


「おうっ、忍ちん、やっと佐々木たちに一発ぶち込んでやれたわ」


 少しめまいがしたが、他を見ると今村たちに結菜ちゃんも疲れた感じでソファに深く沈んでいる。

 純子たち女性スタッフから「お疲れさん」と言われ、うちわで顔を仰いでもらっていた。


「忍ちん、直人たちもいるんだから、練習はもう少しレベル下げなさいよ」

「俺じゃない」

「はあ? 何言ってんの。まあ、私ならあの難易度はOKだけどね」

「俺じゃない。第三者だ」

「あっ、やっぱり違うのか」


 隣で呆けていた今村が口を挟む。


「んっ、んっ? 忍ちんと違うの?」

「第三者ってなんですか?」


 彩水と直人が混乱して聞いてきた。


グループ・天誅だ。遊ばれてたようだ」

「えーーっ」


 彩水が今更ながら吠えた。


「押見代表が逃げたら幻覚の役割は終了、すぐ消して戻って来ればよかったんだ」

「むむむ。でも、いや、やっぱり、佐々木はうやむやに出来ないわよ。希教道を陥れて恨みがあるんだから、一発は決めたかったの。……そしたら、佐々木たち防具や武器が装備されて抵抗してきたわけで」

「武器が装備って……そこで気付かなかったのか?」

「俺は広瀬先輩が余裕かまして、悪ふざけを始めたと思ってましたよ。途中から変だとは思いましたが」


 今村が疲れた調子で話した。


「わっ、私だって忍ちんの仕業かと思って燃えて対処してたんだけど、場所が変わってからおかしいと思ったのよ。でもバーニングまで防御され、こちらが押されだしてきたら……」

「むきになったってことか」


 相手の芝もゲームマニアなのだろう。

 受けて立って、佐々木たちを強化するとか物好きだろ。


「でも負けるなんて許されないじゃない。本当に叩きのめしたかったんだから」


 誰も負けるなとか言ってねえ。と言うか、危ういと気付けよ。


「要するに、途中からマジになって、佐々木と金本を使ったネット対戦をしてたわけだ」


 結菜ちゃんを取り込んだ四人で、押されていたって、どれだけ対戦情弱なんだ。


「あっ、相手だって、複数だったと思うわよ」

グループ・天誅は芝一人だったぞ」

「えっ……」

「まあ、なんだ。俺もたぶん、その芝たちの策謀にやられて、黒のバッグを奪われてしまったんだが」

「えーーーっ」


 彩水たち三人は大声を上げた。

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