第100話 魔女狩り(七)奪還

 俺たちが零翔ぜろかけで起こした事件は、希教道騒動として、


『魔女教団の催眠術』

『希教道の奇跡』


 の二種類に使い分けて言われた。

 カメラのファインダー越しの映像は現実世界なのに、異様な行動を取る千人近くの市民たちが映し出されて見る者を釘付けにさせた。

 希教道前で騒いでいたプロ市民団体と野次馬たちが、次々に混乱して逃げ惑い、失神したり、土下座で謝ったりしている。

 呆然自失で立ち尽くしてたり、泣き出している者、また小石を投てきしていたり、理解に苦しむ状況。

 この驚愕の状況は、昼のTVニュースを通して全国に流され、見るものに衝撃を与え問題を投げかけた。

 連鎖自殺は殺人事件で、犯人が逮捕された衝撃以上に受け止められた。

 インタビューでは、全ての人々が共通した目撃談なのだが、リアルな熊だの、炎、果ては草原に雲、巫女天使の光臨で、放送は一部のみでカットされてしまう。


 東西大学の提灯学者が、集団ヒステリーと位置づけて『魔女教団の催眠術』と言うが、あまりの人の多さと突然の同時行動には信憑性が薄く、別の学者はLSDの症状に酷似していると分析、薬物か何かしらを摂取していたのでは、と警察の介入を呼びかけた。

 希教道の道場内に薬物製造が行われているとか、薬物の空中散布とか、超音波催眠術とか、はては教団の自演で金で雇われた大量動員のエキストラ行動だったなどの意見も出る。


 別のニュース番組のコメンテーターは、その場に居た人びとを「彼ら自身のやり方で神を経験する」と称して、人びとを導いた「大覚醒」を持ち出し、過去にも宗教再生運動のさなか、数百から数千人の住民が痙攣、失神、幻覚を体験したことを今回の『希教道の奇跡』と対比させた。


 新聞報道では『希教道の奇跡』の霊的思想解説は、すぐオカルトに分類されてほぼ無視、『魔女教団の催眠術』の真意はともかくとして、科学的解説を支流にしていた。


 ネットでは希教道の噂の異能力を信じて擁護する書き込みも多くなるが、今回の『希教道の奇跡』は馬鹿発見機と揶揄するのも多い。


 能力肯定派が出てきたので、決して失敗でなかったと思いたい。

 希教道騒動のニュースの他に、国会では中山代議士の証人喚問がおこなわれていて、その一場面が希教道と関連づけられて放送されていた。


「朝野法務大臣つながりで、希教道を支持したのが中山代議士、貴方ではないのですか?」

「知りません。希教道など関係ありません。朝野大臣もまったく関係はありません」


 中山代議士は、栞と希教道の関係に蓋をしたようだ。

 応接室の液晶モニターを見ていた要は、大口の顧客を失ったと言葉を漏らすが、表情は晴れ晴れとし笑みもこぼし、大臣との関係性が面倒臭かったことを顔に出していた。


 夕方になって事情聴取から解放された要は、竹宮女医と一緒に東警察署から道場へ帰ってきている。

 希教道幻覚騒動のおかげで野次馬はかなり減り、要たちがタクシーで帰って下りても小石を投げつけることはなかった。

 要はクリニック室で女医から軽い検査を受けたあと、幹部がそろっている応接室へやって来た。


「深夜まで取調べ室にて誘導質問の攻め苦でした。早朝からまた続きが始まって監禁状態で座りっぱなしは参りましたね。知らないものは知らない、と突っぱね通したら終わりました。催眠実行犯としての証拠がなかったからでしょうか」


 書斎机の前で彼女は両手を上げ肩をすくめると、俺が当たり前だと応えた。


「ええっ、でもまた捏造されるかもしれませんけど」

「それは注意が必要だね」

「はい。それにしても、道場の方は大変だったようで……その、手伝えなくてすみません」


 要は室内にいる信者の一部と、幹部に向けて頭を下げた。


「いいや、謝ることじゃないよ」


 一人掛けソファに座っていた俺が手で制すると、近くに立っていた向葵里も言う。


「そうですよ。私だって何もできなかったし」

「そうそう、私たちもね」


 入り口付近に立っていた順子たち女性スタッフも同調した。


「ただ、異能力騒動をTV中継されて、まずいことしたなとは反省している」


 俺が、頭に包帯を巻いた彩水の付き人二人を見ながら言うと、要が応える。


「モール街やカフェショコラの魔女幻覚といい、プロ市民といい、希教道を煽る一派がいくつもありました。遅かれ早かれ、ばれる運命だったんです。……でも大丈夫ですよ。近代科学が終焉したわけじゃありませんし。科学解釈で解明している限り、恐れられず、異能力と言っても鼻で笑われるのは健在でしょう。なら私たちの日常は、バッシングに屈しない限り変わりないです」


 要の足元には、例の柴犬がいて、彼女に背中を撫でられるとシッポを振って喜んでいる。


「それで道場主とは会えたの?」


 俺の前に据わっている彩水が聞いた。

 彼女は二人掛けソファに座っていて、頭の傷には包帯がぐるぐる巻きにされている。

 ちなみに彼女の両隣には、お付の二人の男がうちわで教祖をやさしく扇いでいた。

 この部屋はエアコンは効いてはいるのだが。


「いえ、逮捕に至った叔父さんには会えなかったけど、女医が希教道の弁護士を伴って面会に行ったら、ふてくされてたけど元気だと聞いてます」


 その道場主は、これから希教道弁護士の坂上さんと相談して、冤罪、釈放の方向で行動するらしい。

 要は疲労困ぱいで眠いと言って、夕方のニュースを見たあと、食事もせずに部屋に引っ込んでしまう。

 ただ、昨日盗まれたファイルとDVDが入ったバッグは、ブラック団の一人から証拠品として没収、東警察署の保管室に置かれたことを、事情聴取中に突き止めていて、念話を通して俺に見張りを頼んでいった。

 高田さんにも、公安の佐々木を見張ってもらう手伝いをお願いしたそうで、奪回を模索しているらしい。

 これが研究者の岡島や金融のロイのような相手に渡るとよくないと言う。

 それは要の時間軸世界に変わっていくだろうと、彼女の予想であろう。

 現代科学思想が一気に崩れて、世の中が異能力思想に変わりだし、能力殺人者たちが野放しになり、法律改正が暗礁に乗り上げ、行政も止まり、能力のない一般市民が妬みや恨みで殺人が横行、異能力狩りが頻繁に起こるという。

 彩水たちみたいに瞑想訓練でレベルをゆっくり上げるのでなく、俺や栞、要のように数日で使えるようになる異能力者が、大量に現れることを意味するので重要な案件である。

 



 要が柴犬と連れ立って寝室に戻ってから、静かだった竹宮女医は、頭を抑えて意見を述べた。


「幹部がそろっているから、今日の能力発動のことで私から言わせてもらうわ。起きたことはしかたないけど、今回のやり方は敵を増やすだけだから止めなさい。とくに脅しや恐怖、危害を与えることは絶対しては駄目。異能力は新しいマジックか、スポーツの一環として危害のないもので認知されるように、一般の人に地道に語っていくしかないの。それが能力保持者がこの国に住める落としどころなのよ」


 わかっていることだが、難しいことでもあり、それでも女医や道場主、要、栞の創設者たちが希教道を持って行きたい方向性だ。

 最近は何かと騒動があって、状況がわからなくなっているが、IIM2は販売を続け、潜在的な能力保持者は増えているはず。

 要の目指した能力保持者避難所の希教道。

 その未来が女医たちの理想になって欲しいのは、俺も同意ではある。


「わかっているかしら? ソファに座っている、お歴々方」


 俺や今村たち、そして彩水に矛先が向いた。


「そうですね、はい」

「炎はまずかったと思います」

「教祖様が危なかったもので、つい」

「私は使ってなかったのよ。派手にバーニングしたかったけど」

「だから、派手にしちゃ駄目っていってるでしょ」


 意に返さない彩水に、注意を促す女医。


「わーっ」 


 突然、応接室の入り口に立っていた麻衣と純子たちが声を上げた。


「むふっ、集まってますわね」

「はあっ、また来た」


 声の元凶を見て、彩水が嫌そうに言う。

 麻衣たちの前に、ミディアムヘアーの女性が立っていた。


「どう言うこと。ねえ、どう言うことよ」


 周りの幹部たちに騒ぎ立てる城野内緋奈は、また東京の自宅から能力増幅携帯電磁波デバイスを使い、遠隔視オブザーバーまやかしイミテーションの複合でやってきた。

 彼女には自己遮断メデューサを解除しているのですぐ理解した。


「逮捕とか、事情聴取とか、希教道騒動とか、本当、何やってたのかしら?」

「うるさい。頭に響くわ」


 ソファの中で体をよじる彩水。


「心配して来てあげたのに、ここの教祖は何て物言いかしら……その包帯も酷いものですわ」

「こっ、これは……名誉の負傷よ。ふん」

「城野内は、またからかいにきたのか?」


 俺が物言いすると、彼女は立っていた女性スタッフ陣の影で見えなかった存在に気づいた。


「あっ、広瀬さんいたんですね。もーっ、貴方と白咲でしょう、派手な魔法でファンタジー草原を現したのは!? 何やってるんですか」


 彩水が違うと手を振ると城野内が首を傾げる。


「あれは忍ちんの悪ふざけ」

「広範囲幻覚は広瀬さんだけですよ」


 彩水、今村が無感動に言った。


「えっ? じゃあ、一人でやりのけたわけですか?」


「えっと、あれは、勢いってものだ」


 城野内が呆れて溜息をした。


「忍っちの行いは、まあ、悪くなかった。外の連中はすっかり大人しくなったからな」

「俺だけじゃないだろ。彩水が一番目立ったことをしてたはず」

「それはお前だ!!」


 周りから一斉に突っ込まれた。

 いやいや、目立ったのは彩水だと思うが……。


「で、私には、言葉はないのかしら?」

「あっ」


 一番奥にいた竹宮女医に、城野内は最後に気づいてヤバイと思ったのか、速攻で頭を下げた。


「これは竹宮先生。気が付くのが遅れて申し訳ありません。このたび、陣中見舞いで降り立った次第です。もし話をしていらっしゃったのであれば、私にかまわず続けてください。はい」


 彼女も女医が苦手のようだ。初めてのオフ会のお遊びのとき、こってりしぼられていたからな。

 頭を押さえていた女医は、「もう済んだわ」と片手を上げるだけなので、俺が説明を加えた。


「能力を派手に使うなって話だったんだ。そうならないようにするには、どうするかだけど」

「ふん。今回のことは、興奮した人を動員させたのが問題でしょ? それは洗脳媒体のマスコミじゃないですの」


 城野内が、簡単なことのように言った。


「それじゃあ、マスコミバッシングを止めさせるにはどうするのさ?」


 彩水が意地悪く言うと、城野内が否定的シナリオを言い出した。


「それはもう止まるでしょ? 道場主が逮捕されましたのよ。でも、汚名を着せられたまま追撃バッシングで、希教道が潰されるかしら。その後は能力保持者特定といじめが始まりますね。その後は……」

「わっ、もう聞きたくないわーっ」


 純子が両手で両耳を覆って話しを止めさせた。


「そうなったら、全面戦争よ」


 城野内のシナリオに彩水が過激発言。


「全面戦争って、何と戦うんだ?」


 周りは冷めた目になり、俺が冗談だろっと笑いながら聞く。


「それは、異能を信じさせない源流思想の権威科学、騙したワル警官と悪を蔓延らせている制度ね。マスコミとそれを動かす広告代理店、IIM2を販売した谷崎製薬に金を流して自己の利益を得る筆頭株主とその金融がそうよ」


 彼女は真剣にまとも過ぎる発言をして、俺の笑いは引っ込んだ。


「もう目標を定めているのよ」


 彩水一人の暴走に、女医が彼女の肩を叩いた。


「こらっ。注意した先から問題発言」


 不満そうに周りを見渡す彩水だが、直人ぐらいが賛成で、他からは色好い返事がもらえないと感じて肩をすくめた。

 それを見た女医は、顔を渋くしながら話す。


「教祖はゆったり落ち着いて構えていなさい。道場主が言ってるでしょ、徳を持ちなさいと。それと城野内さん。あなたも肯定的に物を見ましょうね」


 女医は矛先を変えて城野内をにらむと、震え上がった彼女は「はい」と返事をして麻衣の横へ隠れる。

 時計を見た竹宮女医は、机に置いてあったバッグを持って周りを見渡した。


「私は仕事でリハビリセンターに戻るけど、何かあったら連絡よこして」


 女医は歩き出して、俺のところで留まり一言言った。


「要にも何かあったら連絡するのよ」

「ええっ、もちろん」


 俺が返事をするとそのまま、せわしなく出て行った。

 女医がいなくなると静寂が応接室をおおい、点いたままのTVからコマーシャル音が流れる。

 俺はちょうどいいと思って、彼女に聞きたかったことを質問した。


「で、城野内は来た目的は、陣中見舞いだけじゃないだろ?」

「んっ、ええ、そうよ。白咲に懇願されたから、受けた案件についてね」

「懇願?」


 城野内のハッタリか? 俺だけじゃなく彩水もうんざりした風に言う。


「嘘くせーっ」

「あら、本当よ。それは……」


 また、脱線しそうなので先に進ませる。


「で、何を頼まれてたんだ?」

「うん。ロイ・ダルトンの張り込みですわ。東京に来てたでしょ? それが、ついさっき動きがありましたの。それを伝えに来たのに、白咲ったら応答がないんですのよ」

「だからここへ視に来たのか」

「要は疲れて寝たばかりだから、起こすのに忍びない」


 警察署での事情聴取で、眠れてなかったことを話すと彼女は納得する。


「そうなのですか。仕方ないですね。では、ここであなたたちに話しておきましょうか」

「大事なことなら、起こしてくるぞ」


 俺が要を起こそう発言は、すぐ彩水が止めた。


「まず聞いてからだ」

「そう、教祖様の要望なら、話しますよ。……ロイ社長は、希教道騒動を聞いての行動だと思いますが、成田空港に移動して、柳都行き飛行機に乗り込みました」

「何、こっちへ向かっているのか?」

「そうですね。目的までは知りませんが、あと三十分ほどでそちら……こちらへ着きますわよ」


 俺はすぐ、昨日盗まれた一品を思い出した。


「栞の父親の形見だ。きっと取りに来たんだ」

「形見って、あの取り替えられたファイルか? いまはどこにあるんだ?」

「東警察署の一室に置かれている。保管室だと思う」

「公安の佐々木が持ち出す可能性があって、高田さんが見張っているらしい」


 城野内もある程度は栞か、要から話を受けてたようで、最近のわからないことだけ聞いてきて情報を共有すると宣言した。


「私たちで奪回しましょう」

「気が合うな、私も賛成だ」


 おおい、うしろ見ろ、話し進め過ぎで今村や直人が呆けているぞ。

 麻衣や純子たちなど、付いて行けてないのがわかるほど不安顔である。


「わっ、私たちも何か行動するの?」


 純子が挙手して彩水に聞いた。


「ん? いや、これはSランクの仕事だ。それに道場から出はしないと思う」

「ああっ、そうなの」


 純子、篠ノ井が、顔色を緩め安心しているのもわかる。

 ここ最近、連続して問題が続いているから、心労が絶えないのだろう。


「その代わり、仕事中のSランク能力者は、無防備だから見てて欲しいかな」

「ええっ、それはもちろん」


 俺が要望を言うと麻衣が返事をして、他も首を縦に振った。


「作戦は簡単。高田さんをあの佐々木に変身させて、取ってきてもらう」

「さすが教祖ね、完璧な案だわ」


 こんな普通なことを完璧とか……ほんと馬鹿可愛いって思ったが、執事でないのでもういわない。


「忍ちんはどうよ。何か意見ある?」

「多分、要もそのつもりだったと思う。場所を確認できたから、高田さんに佐々木を張らせて、動向を見ていたかったと思う」

「決まりね」

「張り切ってるな」


 俺が素直な感想を漏らすと、彩水は目を細めて言う。


「希教道に捏造を仕掛けてプライドを引き裂いた佐々木に、目に物見せないと駄目だよ! それに異能に関係ある実験資料が盗まれたんでしょ? 取り返さないわけにいかないじゃない。書類を取り返すのはプライドを取り戻すようなものだわ。……うん。我ながら良いこと言った」


 あの彩水が珍しく良いこと言った、と関心したら最後に落としてきた。


「では、私は佐々木の現在地、忍ちんは高田さんへのアプローチ、警察署の内部情報を今村と直人が女医から電話で聞く。いいかな」


 全員無言でうなずく。


「私はロイの追跡を引き続きしますわ」


 最後に城野内が言うと、自己のまやかしイミテーションを消失させた。

 麻衣が、俺の座っているソファまで来て、肩を叩き励ましてくる。


「相手をギャフンと言わせて、取り返してきて」

「もちろん」


 点けっぱなしのTVの液晶画面には、ゴールデンタイムの番組が流れていたのだが、そこから希教道の単語が耳に入ってきた。

 近くにいた向葵里が気付いて目を向ける。


「これ、何か面白そう」


 それは能力保持者らしい芸能人を集めてのトークらしく、異能力を検査していての発言らしい。

 向葵里グループの永田や陣内も見入った。


「異能力を証明だって」

「新しい特番らしいな」


 最近の俺たちの関係番組は、一方的なバッシングと捏造ばかりで嫌気が差していたが、能力証明と聞いてTVの前に集まりだす。


「この和服の人、守護霊見える人だ」

「あっ、このおばさん、元祖残留思念抽出サルベージの人ね」

「ご御大も出てる」

「吉元の水晶の寺男もいる」

「スピリチアルの芸能人を集めての座談会か?」

「懐疑論者が出てないって凄いな」

「最近の風潮に疑問を持って、アンチテーゼ番組を持ってきたのか?」 


 放送局は、毎朝TV局でない庶民派日本自由TV局で少し納得。

 録画映像を見ていると、希教道の内容が語られていた。 

 なぜ信者が能力保持者と言われて、そのものたちが入信しているか。

 自称能力者がなぜ増えているのか。 

 薬の問題を示唆、某事件を引き合いに出した。

 製薬会社の元会長が、内偵者から暗殺されかけた事件の裏話。

 希教道の教祖が、狙われて撃たれていた内容だ。

 隠蔽されたIIM2の謎と教祖の暗殺未遂。

 今進んでいる事態は、全てシンメトリーとして逆転して見ると謎が解けるとご御大が言った。


「撃たれたって? 私これ知らない」


 見ていた彩水が顔を険しくしたが、まだ零翔ぜろかけを教える前のことで未遂事件は知らせてなかったようだ。

 だが、これは希教道の擁護する番組か?

 あまりにも内情が詳しいし、この時期で逆風の番組って、プロデューサーは何と契約……あっ、ははっ、そうか。

 スポンサーは、車椅子の少女だ。

 前にそれっぽいこと言ってたのを思い出す。

 顧客大臣からの資金と高田さん経由で何か仕掛けた? 高田? ……あっ、いかんいかん、少し見入っていて、高田さんへのアプローチを忘れていた。

 そこへ俺に携帯電話が鳴り、取り出し応答すると相手はその本人だった。


『高田だ。要さんの指示で事態が変わったら、広瀬君に連絡するようになっていた』

「はい」

『少し前に佐々木が警察署に入り、十分ほどで黒い手持ちバッグを持ち出して、自家用のセダンで移動を開始した』

「えっ、ショルダーバッグでないんですか?」

『多分だが、中身を入れ替えたと推測される。私は、これから後を追う』

「わかりました」


 すぐ通信が切れて携帯電話を少し眺めてしまう。

 これは状況が変わった?

 バッグを外へ持ち出され予定が狂って焦るが、まずは報告だ。


「聞いてくれ。高田さんから連絡が入った。佐々木がバッグを持って外に出たので追跡するそうだ」


 ソファに座って聞いてた彩水が、突然立ち上がる。


「追うわよ。忍ちんもすぐ佐々木を追って。今村と直人も来てちょうだい」


 彩水の両隣に座っていた付き人は、うなずき二人とも座り直して、「佐々木、佐々木」と唱えだす。

 TV番組を見ていた幹部も信者たちも緊張して、俺と彩水を見やる。

 浅丘結菜が、「私も行っていい?」と言うと、「見るだけなら」と彩水が微笑んで返した。

 それでその場の緊張が少し和らぐ。

 俺も遠隔視オブザーバーで、すぐ佐々木目線で状況を視にいった。

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