第89話 マスコミの報道(二)

 しばらく暗闇が続いたをあと、視界が開けて目に映ったものは、暗がり明るいスタジオセットを眺めているもので、TV局の内部だとすぐわかった。

 スタジオセットの中央に、先ほどまでTVモニターで見ていたニュースキャスターの筑久米ちくくべと助手の女性アナウンサーに番組解説記者がそこにいた。

 目線の主は、希教道へ取材に来ていたTV局の誰かだろう。

 だが、目線の先のライティングがおかしくなっているのを知る。

 近くのスタッフらしき人たちも、しきりに周りを見渡して不審がる。

 目線は顔を上げて天井を眺めだし、空中の照明が揺れているのを確認できた。


 ――風が吹いてる。……室内なのに。


「矢部さん、これはなんでしょう?」

『わからん、誰か大型扇風機でも回したのかな。すぐ調べてくれ』

 TVディレクターらしい目線主が周りに指示を出すと、動揺しているスタッフが慌しく動きだした。

 何かが風でぶつかり、音を立て響いてくる。

 スタジオの張りぼてセットも揺れだして、異常な風が吹き出しているのを筑久米たちも気付いて立ち上がり、状況を見極めようとしていた。

 栞は現れてはいないが、覚えのある展開で焦る。

 幻覚イリュージョンでなく、あの風の能力だろうか?

 遠隔視オブザーバーでも風の能力を実際に使えるなら、最強の能力保持者じゃないか。 

 筑久米の前の司会者MCテーブルから用紙が飛び上がり、棚から何か落ちてくるほどの突風が大きく舞った。

 スタッフが慌てて声を出し始めた。


『CM、CM』

 

 目線主が両手を前に出して言った。


「ばかやろう! 窓を閉めろ!」

「空調が壊れたようだ!」


 軽い機材があちらこちらで倒れて、埃が舞い上がり、スタジオは混乱状態に変わっていった。


 ――栞。俺だ。


 念話をするが応答がない。


 ――栞。聞こえたなら返事くれ。


 やはり返事は返ってこない。

 両親の死を引っ張り出されて、我を失ってるのか?

 番組のセットが倒れると、何かの小道具が空中を舞い、あちこちから、悲鳴や怒号が起きる。

 何か重いものが倒れ、壊れた金属音と悲鳴が何度も上がった。

 空中に持ち上がる人も出てきて、そのまま地面に叩きつけられ痛みに唸る。

 天井からライトのひとつが飛んで、壁にぶつかり破片を撒き散らす。

 黒いロープが天井から落ちてきて、ムチを撃つようにスタジオ空間を暴れる。


 ――栞。返事しろ。戻って来い。


 もう一度、強く念話を試みると、か細い声が意識に入ってきた。


『忍君……どうしよう……風が止まらない』

 ――やはり、この風は幻覚イリュージョンでないんだな?

『えっと……少し脅かそうと思いましたが……能力は何も飛ばしてないです。それなのに、駐車場のときと同じに……こんなつもりじゃ』

 ――栞、ここにいちゃ駄目だ。怒りの感情のまま飛んで来たから、こっちで発動したんだ。このスタジオから立ち去れば、きっと止まる。

『でも……怪我した人がいるかも』

 ――いい。歪曲情報を流したんだ、自業自得だ。とにかくこの場を収めるためにも戻るんだ。これだと番組も中止だろう。

『そう……ですね』






「んんっ」


 俺は応接室の自分目線に戻ると、麻衣も隣で俺をのぞいていた。


「忍。戻ってきたのね。大丈夫?」

「ああ、それより……」


 栞も戻ってきて、目を開けると、深く深呼吸していた。

 彼女の周りから、光の粒が出始めたのを目の当りにして仰天する。

 麻衣もその事実を知っているので、口に手を当てて息を呑んだ。

 彩水もやばいものと直感したのか、ソファを立って一歩下がる。

 いつのまにかTV画面は、


『しばらくお待ち下さい』


 のテロップに変わっていて、番組を見ていた他のメンバーも光の粒に気付いて、こちらの様子をうかがいはじめた。

 栞も自ら発する光の粒を見て、散らせようと腕を上げたり下げたりして上半身を動かす。

 だが、足元に熱風が何度も通り過ぎだし、周りがその暖かさに不信をいだく。


「誰よ、窓開けたのは!」


 彩水が現実的な意見を言うが、誰も開けてはいない。

 栞が焦って体のバランスをくずし、車椅子から倒れ落ちそうになったので抱きとめる。


「あ、ごめんなさい」

「まだ感情が収まってないんだ」


 俺はそう栞に告げて、有無を言わさず抱き起こすと周りが唖然となる。

 お姫様抱っこのまま、急いでTVの前を通り抜け廊下へ出た。

 道場へ入ると、十名ほどの信者が残っていて瞑想グループと会話しているグループに分かれていた。

 彼女を抱いたまま床に下ろすと、会話していたグループがこちらを興味深く見ているようだがかまわない。

 同時に道場へも緩い風が付き従うように吹いてきた。


「栞、まだ怒りが消えてないんだ。気分を変えよう」

  

 この前は指キッスだったけど……


「そう言われても、どうしたらいい? 意識を別に変え……」


 俺はとにかく、彼女をきつく抱きしめてみる。

 麻衣と比べてきゃしゃで折れそうな気がしたが、しばらく抱擁を続けた。

 栞は震えた吐息を大きく吐くと、両腕を首に巻きつけてきたので、顔を上げて回りを見る。

 周辺に漂っていた光の粒は消えてなくなっているのに気付いてため息が漏らた。


「どう?」

「少し落ち着きました」

「怒りの感情は、なんとか吹っ切れたようだな」

「はあっ……いつも一人に対して幻覚を視せてたのですけど……今回はまるで思い通りに行かなかったです」

「家族のことまで引っ張り出されたんだ。抑えられなかったのはしかたない」

「……よくないことがあると知ってたのに……失敗しました。無関係な人たちまで怪我を負わせてしまって……辛いです」


 そう言って栞は、俺に巻きつけていた腕をきつく力を入れて抱きついてきた。

 栞が俺に、珍しく不安と恐怖にさいなまれた姿を見せて焦る。

 





「ゴホン」


 うしろから麻衣の咳払いが聞こえて、我に返り声の方へ振り向く。

 そこには麻衣だけでなく、彩水たち数人が道場の入り口に立ってこちらを見ていた。


「麻衣ッチ、忍ちゃんが、失楽園しているぞ」

「森永さん、見ないほうがいいですよ」


 今村がなぜか紳士風に、隣で赤面している向葵里に忠告していた。

 そのグループの足元を柴犬が通り抜け、こちらへ駆け寄って俺の目の前で唸りだす。


「うっ、うるさい」


 俺が手で制すると、なおも唸ってくる。


「しのぶくん……しっ」


 栞の弱々しい一言で柴犬は唸りを止め、その場にしゃがみこみ上目使いでこちらをのぞく。

 相変わらずの忠犬だ。

 ワン公を見ていたら、栞が腕からずり落ちそうになって慌てて体を持ち直す。

 彼女を見ると、目を閉じてぐったりしていたので少し驚いた。

 麻衣もすぐ気付き、そばに寄りしゃがみ込んで栞を見る。


「気を失っているわ。駐車場のときと同じじゃない?」

「あっ……能力使って疲れたんだな」


 俺は生返事をしながら、栞をゆっくり床に下ろした。


「私が部屋に運ぼう」


 彩水たちのうしろから、黒のTシャツを着た大柄な男が現れて、こちらに歩いてきた。


「ああっ、高田さん。……そうですね」

「竹宮女医も呼んだので、すぐ見てもらえると思う」


 床に横になっていた栞を抱き上げて言った。


「お願いします」


 高田さんのあとを、栞を心配したワン公が尻尾を垂らしてついていく。

 それを見送ると彩水が俺に詰め寄ってきた。


「何となく推測できるんだけど、今まであったことを詳しく聞きたいわね」

「そうだな」


 幹部全員が、俺を中心に周りを囲むようにして静かに話を聞く姿勢を取る。

 しかたなく俺は、スタジオに乱入した栞が感情をコントロールできずに騒動を起こしたことを彩水たちへ簡素に伝えた。


「一時の怒りで暴走させるなんて……なぜ早く止めなかったの?」


 麻衣が不満を言ってきたが、俺のミスにもなるので言い訳せずに黙った。


「栞が本当の風を? 忍ちゃんは簡単に言ったけど、それ凄くない?」


 麻衣の不満をよそに、彩水が腕を組んだあと片手をあごに当てて唸る。

 聞いていた他のメンバーは、不審な能力にただ口を空けて呆けていた。

 そりゃあ、驚くだろう、完全な PSIサイ能力だからな。


「何はともあれ、栞はよくやったってところね」


 二度うなずく彩水に、純子と今村が追随するように言う。


「そっ、そうね。溜飲が下がったわ」

「とんでもない言論テロをしたんだ。仕返しされて当然だ」


 そこへ、Bランクの永田が不安そうに尋ねる。


「あんな番組流されたなら、これからどうなるんでしょうか?」

「ううっ」

「かなりまずいことが起きそうな……」

「そうね。もうネットで拡散されていることでしょうし……希教道の掲示板が炎上確定かしら」


 純子が天井を見上げてぼやくように言うと、ツインテールの髪を手で払った彩水が答える。


「ネットの掲示板は封鎖ね。他も今後の対策をどうするか、考えないといけないわ」

「さっきの番組を見ていた信者もいるだろうし、事実関係の統一を俺たちと一緒にしないといけないと思う」


 俺も意見を言うが、具体的な方針は浮かばなかった。


「すぐ信者に召集をかけて、話さないといけないね」


 彩水が俺の言葉を受け取ると直人が答えた。


「僕がメールで呼びかけますよ」

「早急にお願い。それと掲示板の方もよろしくね、直人ちゃん」

「わかった。じゃあ何時に?」


 この二人は相変わらず、良いコンビである。


「明日集まれるかしら?」


 彩水が周りに聞くと純子が話す。


「夏休みに入って動きが取れる人は多いと思う。けど来れない人もいるだろうし……メールと携帯で集会内容を話せばいいんじゃないかしら?」

「そうだね。あと、マスコミや取材には一切応じないように。ツイッターも禁止。これだけは徹底して守らせよう」

「それは大事ですよ」

「ああっ、対話など無意味ですね。都合よい偏向報道は、今日身に染みましたから」

「大事です」


 幹部メンバーがこぞって同意して、彩水を中心に話が進んでいった。

 道場にいた居残り組みも、不穏な空気を感じて幹部の周りに集まり、質問して会話に参加しだした。

 俺も栞の風能力について、情報が欲しくなり行動を取ってみることを麻衣に話す。


「これから行くの?」

「ああっ、ちょっと行ってくる」

「場所は?」


 俺は麻衣を連れて幹部グループから外れ、道場の角に異動して座る。


「城野内緋奈のところへ行く」

「ああ、城野内さんのところへ。でも何で?」

「栞の風能力を知っていたら聞いてみようと思う」


 そう彼女に伝えると、「じゃあ、忍の抜けた体、私が見張っている」と嬉しいことを言ってくれる。


「そうか? 悪いがお願いする」


 俺は意識を前頭葉に集中し暗闇に潜行、城野内緋奈へ遠隔視オブザーバー零感応エアコネクト を試みた。



 ***



 暗闇が開けると、目の前に見覚えのある広い室内が認識できた。

 向かいのテーブルにティーポットとカップが置かれている。

 すぐ目線が下がり白地に文字が現れて、読書中とわかった。


 ――おじゃまして良いかな?

「えっ、誰?」


 目線が、本から室内に向けられたので、名前を名乗って俺はまやかしイミテーションを現出させた。


「あら、広瀬なの? 久しぶり」


 本をテーブルに置いて立ち上がり、けっこうイケメンになっている俺と対峙する。

 映像にも肯定的なバイアスがかかるってことかな? まあいいや。

 そこに突然ヴィヴァルディの「四季」が流れてきて、目線がテーブルに向くとカップの横に置いてあった携帯電話からだと気付く。

 携帯電話を取りながら俺を見るので、腕を伸ばしてお先にどうぞのポーズを現した。

 目線は液晶画面に映した文字を見て相手が――京都の指南役――とわかった。

 ご隠居かよ。と言うより、いやいや、京都の指南役と登録していることに突っ込み入れたくなった。

 城野内がご隠居と通話を始めると、こちらにも話が聞こえてきた。


『今何してたかな?』

「はい、お祖父様。この前頂いた日本の歴史本を読んでいましたわ」

『ほう、そうかそうか。次に会ったときにでも感想を聞かせてもらおうか。……それでだ、今はTVを見てはいなかったようだな」

「はい……TVはつけてませんよ?」

『では希教道から、何か連絡はなかったかな?』

「連絡ですか?」


 城野内は言葉を切って目線を俺に向けるが、すぐ反らして会話に集中する。 


「それは……まだないですけど。何かありましたか?」

『うむっ、それならいい。またマスコミが前みたいに城野内の所に行くかも知れないので、注意しておってくれ。もちろん希教道もだ』

「ええっ、お祖父様」


 簡単に会話は終了した。

 通話を切った城野内は、溜息を吐く。


『広瀬たちは何したのかしら。聞いていい?』


 対面の俺は肩をすくめて、ことのあらましを語ってみせた。

 一通り聞いた城野内は、また溜息を吐いてテーブル上に置いてある、小さな木製土台の呼び出しブザーのボタンを押した。

 数十秒ほどしてうしろのドアが叩かれる音と、「いかがなされましたか?」と声とともにドアが開き三島さんが中へ入ってきた。


『今日放送した事件を斬るって、報道番組だけど。見れないかしら?』

「おや、お嬢様も報道に興味を持つようになりましたか?」 


 彼にはまやかしイミテーションを送ってないので、俺は見えてない。


『内容が希教道って言えば納得かしら?』

「ほうっ。教団の特番とは厄介な。すぐ調達しましょう」


 そう述べると部屋から出て行った。


『……そう、番組途中で彼女は切れちゃったのね。マスコミの餌食になると最悪だから。非常によくわかりますわ。ええっ、そうですとも』


 城野内も、ご隠居の関係なのか、先回のクラスの自殺の件か、かなりマスコミにはうんざりしているようで話しやすい。


『それで、もうわかっているんでしょ? 番組のクライアントは』

「スポンサーはE電広、出資者はまだ特定してないけど、たぶん谷崎製薬……バイアウト・ファンドの指示だろうと見てる」

『あのロイ・バイアウトって言う社長の?」

「いや、まだそこまではわかってないけど、指示出しているだろうな。商売敵の芽を早いうちに摘もうって魂胆だろ」

『そうね。天誅メンバーを囲ったものの、希教道とは決裂したのだから、今回の行動に出ても不思議じゃない。……なんにせよ、悪意のあるメディアが動きだしたのは、教団としては問題ですわ。ここへ来たのはその辺かしら? でも言っておきますが、私に力は無いですよ。お祖父様にも』

「あれ、指南役でも? ちょっとは期待してたんだけど」


俺はおどけて両手を両側に差し出すと、彼女は鼻息荒く話し出す。


『マスコミが日本の第一権力だとして好き勝手やるんで、お祖父様が手に負えんとよく愚痴ってますよ。仮に広瀬君に力を貸してメディア統制をしようものなら、噛み疲れて大問題必至ですわね。文句を言われずにできることは、情報を流したり止めたりすることだけでしょう』

「そっか、気を回させてすまん。希教道絡みは雑用に近いから、動かないだろうと思っているけどな」

「希教道は雑用どころか、重要案件の一つと言ってましたわよ。私からの忠告ですけど、力を貸すんじゃなくて、潰す方に回ることもありますから気を付けてください」

「むっ。肝に銘じておくよ」

 

 俺は両腕を組んで肩をすくめて、了解の意思を視せた。


「……それで、もう一つ聞きたいこともあったんだ。この前駐車場で栞が暴走したとき、指南役が勾玉使いとか言ってたの聞いたんだけど、それについて教えて欲しい」

『ああ、教わりましたよ。あの突風の能力は……本当にじかに見て感じないと信じられないものでした。私も現場に居合わせたのに、今でも嘘じゃないかと思ってしまうほど、信じがたいものですわ。ああ……その能力でしたわね。……お祖父様は神庫ほくらが実体化したものだと言ってました』


 俺は言っている意味がわからず、頭を少し傾げさせた。


「神庫って何だ?」

『私の一族が引き継いでいる話の一つです。神庫ほくらの意味は、私たちの世界からは観測できないエネルギー、またはその場所を示すものです。そのエネルギーの実体化が、今回は突風だったようですね』

「力の源の名称? 気、エーテル、オーラみたいなものってことかな。でも、その場所って別次元ってこと?」


 栞は神庫ほくらの名称としての『零の聖域』から、光のような熱源を出現させたってことになるようだ。


『その場にあるけど、目に見えない別次元でしょうね』

「それで、勾玉使い・・・・そのものってのは?」

『神庫を使うには、勾玉などの媒介する装置が必要とするけど、彼女自身がその役割を担っていることでしょう」


 なるほど。……ってことは勾玉があれば俺も? いやいや、ありえない。と言うより、よそう。栞も持て余している能力なんだから。


『もしかして、欲しくなった?』

「興味はあるけど、厄介なことになりそうだから、今はいらない」

『そう? まあ、その勾玉も長く神棚に祀ってないと使えないらしいから、お土産屋に売っている物じゃ駄目らしいですよ』

「そうだと思った」


 神棚って、勾玉にとって小型のパワースポットになるのか?

 いいこと聞いた。ちょっとやってみようか……いやいや、今はそんなことより PSIサイ能力の情報だ。


「じゃあ、他には何か知っていることは?」

『うーん。……私もこれ以上は知らないですわね』

「そっか。残念だ……いや、聞かせてもらってありがとう」


 そこへまたドアのノックする音が聞こえて、「お嬢様」と三島さんの声が入った。


『どうでした?』


 入ってきた三島さんに城野内は聞いた。


「はい。番組を知人からこちらのサーバーにアップしてもらいましたので、お嬢様のパソコンから視聴できるようになりました。それと……」 

『うん?』

「ちょっと問題になってますね。放送したTV局で事故が起きたと。一部ではテロと言う声も上がっているそうですよ」


 城野内目線が俺に向いたので、肩をすくめると、目線を三島さんへ戻した。


『そう、わかったわ。ご苦労様です』


 三島さんが廊下へ戻りドアを閉めるのを眺めていた城野内緋奈は、壁につけてるテーブルの上に乗っているパソコンのスイッチを入れる。


「番組か?」

『さっそく見させてもらいますわ』

「じゃあ、俺はお暇するわ。途中からだったけど、あの番組をまた見たいと思わないから」

『そう。では、何かあったら連絡くださいな』






 俺は道場の自分の体に意識を向けて目を開くと、前をゆっくり歩いて行きつ戻りつしている麻衣がいた。


「おっ、待っていてくれた?」

「うん? やっと戻ってきたわね」


 周りを見渡すと、道場には誰もいなく寂れていた。


「彩水たちや他の連中は?」

「応接室に残っていた篠ノ井が、報道番組中にテロがあったと同じ局のニュースで流れているって呼んできたから、全員が見に行ってる」

「ああっ、リアルタイムだったから、ニュースにされたんだな。うん? テロって言ってたのか」

「そうらしいわ」


 うーん。本当といいたいが……。


「これは捏造だろ? 栞のあのPSIサイ能力を科学的に実証など、されれてるわけがない」

「そうよね。毎朝TV局の都合の良い歪曲報道だわ」

 

 俺は麻衣の不満な声を聞きながら立ち上がると、微風が顔にかかり空いている窓に目をやる。

 暗くなった窓の外を麻衣も眺めて、「面倒なことになりそう」とつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る