第79話 東京出張(七)異変

 久保さんの車に乗って、俺と麻衣は緊急病院に向かった。

 その際に、事情を念話で栞へ話す。


『天羽さんが、連鎖自殺の犯人らしいですか。驚きですね。そうだとしたら私たちには手に負えないです』

 ――それは警察に話すのかい。

『最終的にそうなりますが、まずは高田さんに相談して方針を決めます』

 ――ああ、俺たちだけじゃなくスペシャリストに任せたほうがいいよな。下手すると、こっちが自殺させられることになる。それで今回問題だったのは自己遮断メデューサなんだが、麻衣に能力はつけられないだろうか? 天羽たちに俺と麻衣、栞は目をつけられたと思うから。

『彼女に能力ですか……彩水クラスじゃないと無理です』

 ――自己遮断メデューサだけ特訓すれば? ならないかな。

『こればっかりは、やってみないと……でも期待しないほうが』

 ――麻衣が一番危ないんだ。俺も頭が真っ白になったら、簡単に自己遮断メデューサが破られたし。

『問題ですね。まあ、麻衣さんの能力はある意味未知数なのでやってみる価値はあるかと。忍君は……私もそうですが、心の強化が課題です』

 ――そうか、心の強化か……無理だ。


 大型ビルの緊急病院の玄関口に着くと、久保さんが車を駐車場へ止めるから先へ入るように指示され、栞との念話を切って麻衣とロビーへ入った。

 治療費は保険なしでも久保さんが支払うと言ってもらい、現金の持ち合わせが少ない俺はカードを使わず安心した。

 土曜の午後は来訪の患者がいないため、広い待合室の椅子で麻衣の治療が終えるのを待っていると、緊張がとけたせいか魔邪まやがぶり返してきた。

 まったく厄介な幻痛だ。

 この魔邪まやを受けないためにも自己遮断メデューサの強化、いや、まずは麻衣の自己遮断メデューサだ。

 そう考えていると、いくつもある診察室のひとつが空き、包帯に巻かれた右手を首からたれた三角巾の布でつって支えた麻衣が出てきた。


「どうだった?」


 俺が彼女の顔を見ると額にも絆創膏が張られていた。


「骨にひびが入っているから、しばらく安静だって」

「そっか……ごめんな」

「だから、忍が謝ることじゃないでしょ」

「そうだけど、でもこれで安心した」

「問題は天羽でしょ」

「よし、麻衣」

「何?」

「これから、マンツーマンで特訓だ」

「はあっ?」

自己遮断メデューサの特訓をしよう。この前の恐怖の克服のように俺の部屋で特訓だ」


 特訓後の甘いスイーツを期待できると鼻の下も伸びたら、麻衣は引き気味に嫌そうな顔をした。


「なんか……嫌」

「なぜだ? 能力向上に目をキラキラさせていたのに」

「自己遮断とかよくわからない能力の特訓なんてやだわ。私は幻覚を自分で作ってみたいの。それに忍の今の顔も、悪巧みしているようで嫌」

「ええーっ」


 甘いスイーツは却下された。






 三角巾で腕を支えた麻衣と俺は、久保さんが運転する車で高級和食、特選しゃぶ亭の地下駐車場に戻ってきた。

 麻衣と連れ立って、先ほどの従業員の部屋で大人しく待っていると、三十分ほどして車椅子の栞たちが戻ってきて合流する。

 ワゴン車に乗り込んでいると、ご隠居一行も降りてきていた。

 渋谷さんが運転して地下駐車場を出ると夕方の翳った日差しが車内を明るくする。

 車は目黒の希教道東京支部になるマンション事務所に行き、一息取ることになった。

 栞をお姫様抱っこして車から降ろしても、麻衣は声を上げず顔も崩さなかったので慣れたのかと安心する。

 一室へ入り応接室でそれぞれがくつろいで座ったあと、俺と麻衣は夕食の弁当を食べながら栞に食事会の話を聞いた。


「なんで城野内のじいさんが参加したんだ?」

「それは、ね。次の総理に関しての密談? かな」

「次の総理が朝野大臣ってこと?」


 首をすくめる栞。


「どうかしら。朝野大臣はその方向で調整してるようですが……」

「栞でも、次の総理はわからないか」

「前も言いましたが、時空移フライトはそんなに万能じゃないんです。危険だから、私の部屋の中だけに制限しての移動なんです」

「へー、制限か。意外と面倒かな。それじゃ、大臣とはどんなやり取りしているの?」

「基本は、呼ばれて聞かれたことを調べて報告します。時空移フライトした時に、のぞいてた新聞、ネットのニュース情報、携帯に書きこんである情報の記憶を、自ら残留思念抽出サルベージしてわかる情報を引き出すんです」

「今現在でも残留思念抽出サルベージで、飛んだときの未来の情報が視れちゃうんだ? 万能じゃなくて危険でも時空移フライトって、十分凄い能力だと思う」


 麻衣は包帯巻きの右腕を摩りながら、しきりに感心する。

 そこへ渋谷さんが、食後のお茶を俺たちに配ってくれたので一口飲んで話を続けた。


「城野内のじいさんは何か言ってきた?」

「同業者としてこれからよろしくって。話してて、希教道やこちらの保持能力を詳しく調べてて、抜け目ないってわかったわ」

「京都の指南役って、何してる人なの?」


 麻衣が俺に振ってきたが、知っていることは同じぐらいだろうと思いながら話す。


「拝み屋として政財界の大物を顧客としたあと、歴代総理の指南役になり、今では政府の影の指導者?」

「自己紹介で、総理の話相手をしてるただの拝み屋って言われたわ」

「-んなわけないだろ。能力保持者だろ? それも時空移フライト級の使い手? 栞と同じで万能ではないだろうが」

「そうよね。じゃなきゃあ、指南役なんて務まらないし、信用ももらえないよね」


 俺の突っ込みに麻衣が続けると、微笑んで頬に手を当てる栞。


「能力クラスまで教えてくれませんよ。向こうも顔見せだったらしく、私は友好が築けてよかったかなって思います」

「まあそうだが、俺は栞に政治に顔を突っ込まないで欲しいと思っている。前も政治家ご用達の拝み屋さんが殺されたって話あるからね」

「うん。私もそう思う」

「二人ともありがとう。私は能力に対しての法整備に口利きできる足場が欲しいから、今の状態はキープして置きたいの」


 うん。うちの教祖様は、いい教祖様だ。

 そう思ったところへ、栞の携帯電話が鳴った。


「高田さんだ。……はい。あっ、はい。えっ? そうですか。わかりました。こちらでも調べてみます」

「うん、なんの連絡?」


 そこで栞が神妙な面持ちで話し出す。


「先ほど、高田さんにTCJコーポレーションと連鎖自殺の関係性を話しました」


 俺と麻衣がうなずいて静かに栞の話を聞く。


「SPの森永さんも加わって捜査対象として、すぐ調べると確約してもらったんです」

「SPが? 警察がよく動く気になったな」


 俺は能力だけの情報なのに、受け入れて行動したと聞いて驚いた。


「ご隠居も聞いていて口添えもしてもらいました。おかげで上層部の一部で信用を得てるようですね。今騒がせている人物ってこともあるんでしょうが」

「それで?」

「TCJコーポレーションはまだ開業していなく、ビルの借りた店舗は閉鎖状態で中に人はいなかったそうです」

「逃げた?」


 天羽たちの野放しは危険だ。


「また、襲われるかも知れない?」


 麻衣が不安な声を出す。


「手を出さなかった方が良かったのかな」


 俺のつぶやきに栞が否定した。


「そんなことはないです。自殺者を出さずに済んでるんですから。今は場所の特定を急ぎましょ」

「そうだな」


 俺と栞で意識を集中して天羽たちを遠隔視オブザーバーでリンクを試みた。

 すぐ、天羽目線は繋がったが、暗闇と寝息で就寝とわかるがどこにいるのか見当がつかない。


「駄目だ、気をうしなっているのか?」

「そうですね。寝ているみたいです。忍君のまやかしイミテーションが効いてるんじゃないですか?」

「どうだろう。まあ、天羽が駄目なら美濃を追ってみようか」

「はい」

「うぐぅぅ……」


 俺と栞のやり取りで、何もできない麻衣が変な声を出して不満を表している。

 彼女を置いといて、俺は集中を再会して美濃を遠隔視オブザーバーすると、すぐマンションの廊下に立っている目線が飛び込んできた。

 だが、迎えによく知った人物が立っていて驚愕する。

 あの巨漢の黒メガネの男が腕を組んでいた。


「バードだ」

「ほ、本当ですね。私も確認しました。面倒ですね」


 海外へ逃亡したと思っていたのに……俺たち、やばくね?

 一瞬沈黙が訪れると、麻衣が俺と栞を見てから質問する。


「誰?」

「俺を病院送りにした人物」

「えーっ。ナイフ魔の外国人、捕まってなかったの?」

「バードは高田さんに任せて、天羽が連鎖自殺に関連しているので、美濃に連絡を入れて会ってみませんか?」


 しばらく無言だった栞も、この先を詰めてきた。


「ああ、そうだね。たぶん美濃は、連鎖自殺の前哨戦みたいなことは、グループ・天誅でしているようだが、直接関わっていないと思う」

「来るかしら?」


 麻衣が否定的に言った。


「まずは聞いてみましょう」


 栞はすぐ携帯電話を取り出して、美濃にコールする。


「はい、こんにちは。白咲です。……はい、それで、天羽さんたちのことで相談がありまして……はい。そうですか。ええっ、私はかまいませんけど。じゃあ、ええ、先ほどの? わかりました。そのときまた」


 栞は、俺と麻衣の目線を受けて首を立てに振る。


「落ち合う場所ですが、先ほどの喫茶店が近くでいいと言ってくれました」

「ほう、来るって? 案外簡単に了承したな」

「そうですね。携帯でなく直接話し合おうって、美濃さんから言ってましたよ」

「わわっ、何、何?」


 そこへ唐突に麻衣が立ち上がり、驚いて慌てだした。

 俺と栞が不審に彼女をみると一人で話だした。


「どうしてここへ? あっ、能力使ったんだ。もー、いいな」


 まやかしイミテーションと認識して警戒しながら、 遠隔視オブザーバーで麻衣目線をのぞくと一人の女性が目の前に立っていた。

 俺の自己遮断メデューサは元に戻っていて気がつかなかったらしい。


「おおっ? 城野内?」

「あら、また会いましたわね」


 栞も彼女を確認したようだ。

 城野内は別れたときのスタイルで、してやったりの顔をして挨拶する。


「ふふふっ、こんちは」

まやかしイミテーションか?」

「はい。脳デバイス使ってますが、今お爺様といるのです」


 それを聞いて、何となく現れた理由に察しがついた。


「先ほど栞さんは、お爺様とお会いしていたそうですね」


 まやかしイミテーションの城野内が、栞に向いて話した。


「ええっ、そうですわ。では、聞かれたのですか」

「話聞きました。連鎖自殺とG天が、天羽で繋がっていたんですって? やはり性悪女でしたね。それで今後どう動かれるのですか? 私たちもうっかり自殺してたなんて嫌ですからね」

「最終的には警察に任せますが、天羽たちがどこに行ったのかわからないんで、事実確認が取れていません。それで今、美濃に連絡を入れて、先ほどの喫茶店に会うことになりました。時間は七時です」

「わかりました。私も参りますわ」


 そう言って姿を消す城野内。



 ***



 日が沈みかけた頃、世田谷区の駅前喫茶店ふきのとうの駐車場にワゴン車で到着すると、先客のロールスロイスが駐車していた。

 栞を車椅子に乗せて麻衣と三人で、車から出てきた城野内と三島さんに合流する。

 ロールスロイスの後部座席の窓が開き、ご隠居が顔を出してきたので栞が代表で挨拶した。


「城野内さん、ご足労かけました」

「孫の緋奈も連鎖自殺の対象者になるかもと聞いて出張ってきた。悪いな」

「とんでもないです。力になってもらうのは心強いですよ」

「ふむ。だが、一日で可愛いお嬢さんたちに三回も会うとは思わなかったよ」

「ふふっ、そうなりますね。縁があるようなので、何か新しい情報とかあったら教えていただけませんか」


 ご隠居が笑顔で前の席に話しかけると、助手席の窓が開きSPの森永が顔を出した。


「天羽の情報が少し上がってきてます」

「天羽の? どんなことですか」

「はい、さきほど緋奈さんの指摘で天羽陽菜と言う生徒の高校を何校か当たらせたら、見つかって住所がわかりました。ただ、半年前に死亡届けがでています」


 それを聞いて俺と栞は顔を見合わせる。


「どういうことですか?」

「病死です。不審ですが、今はそこまでしか情報が上がってません」


 麻衣を交えて三人で黙ると、城野内が口を開いた。


「おかしいでしょ? わたしも会ってたんだから、幽霊じゃなかったら、偽名なのかもしれないわ」

「あるいは美濃に対して、成りすましている?」

「それ面白そうですね」


 城野内と三島さんの後ろから、記者の小出さんが顔をのぞかせて言った。


「あれ、小出さんも来てたんですか?」

「えっ、いつのまに」


 俺と麻衣、栞が驚きながら挨拶をかわして、なぜいるのか聞いてみた。

 小出さんは、聞き込みインタビューを終えて喫茶店で夕食にしていたら、城野内のお嬢さんが中に入ってきたので声をかけると出て行ったので、ついて来たそうだ。


「混んでたし、その記者がいて面倒だと思って戻っただけよ」


 城野内が両手を腰に当てて嫌そうに話す。


「能力がらみの話だから、小出さんは記事とか無理だと思いますよ」

「いいんだよ。本当ならば記事にならなくてもね。それでやはり連鎖自殺関係かな?」


 俺たちは肩をすくめて、口外しないと口約束を小出さんと交わすと城野内が聞いてきた。


「わたしから広瀬に聞きたいんだけど、本当に天羽が関わっていたのかしら? 人づてでわからないのよね」

「ああ、天羽の情報を得ようと遠隔視オブザーバーで視てたら、TCJコーポレーションの主任って奴から六番目のターゲットと言って自殺の話をしだしたんだ。そのときニュースで見た自殺した少年の写真も資料で見ていたから確実だよ」


 それを聞いた城野内と小出さんは別々の反応を返した。


遠隔視オブザーバーの情報なら確実ね」

「何、広瀬君? 遠隔視オブザーバーがわからないが、その情報はとんでもないスクープじゃないか?」

「能力使ってますから、スクープにならないですよ」

「ああっ、そうだったな……」


 喜んでいた小出さんは、頭をかいて静かになる。


「そのときの気になったこと、聞かせていただけますか?」

「えっと、そうそう。ラボと言ってた部屋で、特殊なヘルメットを天羽がかぶって遠隔視オブザーバーすると、映像をクリアーにモニターに映していた。今振り返るとと、かなり進んでいる技術が使われていたと思う」

「記憶映像がクリアーなのは、凄いと思いますわ。見てみたかったですね」

「進んだ技術なら、前から進めていた実験技術ですね。気になります」

「城野内が持っていた脳デバイスとその端末、あれに似ているんじゃないか?」


 栞が何かに気が付いたように、顔に手を当てて暗くなりかけた空を見つめる。


「栞? 何か気になる?」

「もしかして、同一人物じゃないかと……その技術者の名前は知りません?」

「えっと、主任だろ? パニッシュメント・パーソンって天羽は言ってただけで、その情報だけだよ」

「そう……ですか」 

「あら、その名前。犯人のペンネームでいことよ。それだけで天羽たちが犯人って、自供しているものじゃないですか」

「えっ、ペンネームは知れ渡ってますから、それで確定は難しいですよ」


 城野内に首を振る栞を見て、俺は話を続けた。


「それで、天羽がヘルメット型を装着しだしたんで、連鎖自殺を続けに行くと思って、その場でかき回してやったよ」

「はっ、かき回す?」


 驚く城野内と栞。


「忍君はもうそんな危ないこと、しないでください。計画なしで一人で先走るからやり返されるんですよ」


 俺は麻衣の三角巾を釣っている腕を見て、頭をかきながら彼女にあやまる。


「さっきの、パニッシュメント・パーソン。ネットの書き込みはあの主任だろうって、俺も思っている」

「その辺も含めて、美濃さんが来たら、なんとか聞き出しましょう」


 栞が言っている側から、一台の車が駐車場に入ってきた。

 喫茶店の客かと思っていると、麻衣が助手席に美濃が乗っていると告げる。

 駐車したグレーの軽自動車に注視すると、美濃が助手席に身じろぎしながらこちらを見ている。

 運転席からは、長身の男が出てきて美濃に声をかけてから、一人だけでこちらに歩いてきた。

 その人物と一瞬目が合って緊張する。


「ソチラニイルノハ、希教道ノ幹部デスカ?」


 片言の日本語で長身の男がこちらへ歩いてくる。

 少し前にタブレット越しに見た、金髪のイケメン顔、TCコーポレーションの社長ロイ・ダルトンだ。


「日本に来てたんだ。って言うか、ちゃんと日本語だし」

「片言だがな」


 驚きながら発言する栞。


「どうしよう。外人さん初めてで緊張するわ」


 場にそぐわない麻衣の発言で、俺の固くなった体の緊張が緩む。


「私ハ、アナタ達ト交渉シニ来マシタ」


 ロイ社長が一歩前に出て、両手を広げて話し出した。


「ん? 交渉? なんの?」

「私たちは、天羽さんのことを聞きたくて、美濃さんに来てもらったのです」

「天羽サンハ、私ハ知ラナイデスネ。私ガ来タノハ、希教道ノ能力者二ゼヒ我々ノ仲間メンバーニナッテ欲シイコトデス」


 知らないって、白を切る気か。


「能力者の仲間って、グループ・天誅に入れってことですか?」

「いやっ、それはないわ」

「そうですわよ」

グループ・天誅ハ、美濃君個人ガ作ラレタサークルミタイナ者デス。モチロン彼ラモ仲間メンバーデスガ、我々ノ団体ニデス。与エラレタ能力、イヤ才能ヲ、世界ニ貢献シテミマセンカ? 一地方デ腐ラセテハ人類ノ損失ニナリマス」

「持ち上げてくれますね」

「私たちは、偏見と差別の中に顔を突っ込む気はないんですけど」

「どんなところがあるというんだ?」


 城野内、栞、俺とで、ロイ社長に返した。


「ソレハ喧嘩ノ仲裁。悩ミノ手助ケ。警察ノ未解決事件ノ早期決着。場合ニヨッテハ、紛争地帯ヲ軟着陸サセルコトモデキル。腰ノ重イ国連ヨリ、立派ニ果セルコト請合イデスヨ。ソウナレバ高給取リデ、何デモ欲シイ物ガ買エル」

「本音が出ましたね。それは能力者を戦争に突っ込ませることじゃないですか」

「もしかして、能力者の傭兵化?」

「私たちは戦争兵器の金の卵ってわけだ。それで取り込みですか?」

「君タチハ、間違ッタ考エ方ヲシテイマス。紛争地帯ハ仲裁デ、能力者ノ一ツノ選択デス。ソレトモ道場ノ中デ細々ト才能ヲ枯ラシテイクツモリデスカ? 神カラ能力ヲ携ワッタ意義ヲ感ジ取レナイデショウカ」


 いや、それは違う。人間から携わった余計な能力だと思う。


「私はノーです」

「俺も同じだ」

「私も嫌です」

「私もですわ」


 全員が即効で否定すると、ロイ社長は頭に手を乗せて首を振る。


「ハアッ、嘆カワシイ。……デモ、マタ考エガ変ワルコトモアルデショウ。今日ハアキラメルトシマショウ」

「じゃあ、美濃と交代できますか?」


 俺は元々の会う約束の名前を出したが、ロイ社長は嫌な顔をする。


仲間メンバー二ナラナイノナラ、モウ会ワセルコトハデキマセンネ。アナタタチノ今ノ考エ方デハ無理デスヨ」

「何言っているの? 天羽の話を聞かないと、大変なことになるのに」

「そうだ、社長なら主任の話を聞きたい。主任はどこです? 本人と話がしたい」


 ロイ社長はいぶかしんで答えた。


「主任? 岡島主任ヲドコデ知ッテ……」


 車椅子から栞が、突然立ち上がるような仕草をしたが留まった。

 俺は驚いて車椅子を押さえる。


「岡島……主任? まさか」


 小声を出した栞はロイ社長を見すえる。


「アア、イヤ、我ガ社ノ社員ニ詰問ナラ、正式ニ アポイントメント・・・・・・・・ヲ取ッテモライマショ。個人デ会ウノハカマイマセンガ、コチラカラ社員ノ情報ヲ教エルコトハアリマセンヨ」


 栞は車椅子を前に出して、ロイ社長に詰め寄るように聞いた。


「……御社の岡島主任は、谷崎製薬に在籍していた研究員でしょうか?」


 栞が、ロイ社長に詰め寄るように前に車椅子を動かして聞いた。


「話セマセン、守秘義務トサセテイタダキマス」


 栞が急いで、車椅子のハンドリムを回転させ俺の前に移動すると、腕を掴みながら念話をしてきた。


 『忍君。主任を見たんですよね。私にも見せて!』

 ――ええっ、ああ。


 そう言いながら、俺の記憶から主任を瞬時に残留思念抽出サルベージして後ろへ下がった。

 その場でしばらく固まった栞は、右手を乱暴に振り上げて下ろした。

 唐突に冷たい風が吹き出してきたことに、周りに立っていた者が顔を見合わせる。

 鳥肌が立つぐらい、冷たい冷気がどんどん下りてくると、今度は足元が暖かくなってきた。

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