第35話 検分
ファミレスを出て団地まで戻ると、雅治と椎名は用があると言って別々に別れた。
俺は折りたたみ自転車に引っ張りながら、徒歩で麻衣の自宅に戻ることにした。
「自転車あるなら、二人乗りしない?」
「この自転車は重量制限あるんだ」
「失礼ね。重くないわよ」
いきなり憤慨しだし、暴れそうな勢いの麻衣に飲まれて運転を許可した。
だが、後ろがいいのと言われ立ち乗りを了承する。
「後部のリアキャリーも足場のステップもないから車軸に立って乗ることになるが? 危ないぞ」
「うるさい。疲れてるの。少しだけだから」
却下された。
「だいたい中学の時の自転車はどうしたのさ?」
「一年前に壊れてな。この折りたたみを買ったんだよ」
俺の返事に鼻を鳴らして黙る。
麻衣の両手に肩を握られながら、しばらく二人乗りで無言の時間を過ごしていると、中学時代にもこんなことしてたなと、淡い想いが呼び覚まされてくる。
「あのさ」
後ろの彼女は不思議そうな声で話しかけてきた。
「さっきの……私の話したこと、本当に信じてる?」
「そうだよ。信用ねえな、それとも嘘だったのか?」
「嘘なんかじゃないけど、私自身……夢だったような」
「見たんだろ?」
「だってありえないじゃん」
「見た本人が否定してどうする」
「うん、そうよね」
「ミステリークラブ入ってるのにその手の現象を否定したいって。見たのが恐ろしくて、なかったことにしたいとか?」
彼女はしばらく返答しないので、ちょっと冷やかしすぎたかと思い黙る。
「……気になってたの」
「何が?」
「足怪我した頃……多かったのよ。あり得ない体験」
「そっ、それは初めて聞いたな」
やばい。
幽霊になって麻衣のストーカーしてたときのことは混乱すると思って、まだ話してないんだよな。
「ここ最近見なくなってたんだけど、それが何なのか知りたくてミステリークラブに入ったのよ……でも、昨日のは突然でひどすぎた」
見なくなったのが強烈に再発したってことは、昨日何か誘発する引き金でもあったのか?
「私……変じゃないよね?」
「ああ、それは大丈夫」
「麻由姉の墓参りだったから、麻衣に麻由姉がついて来てたりな」
「やっ、止めてよ」とにらまれた。
「冗談だよ。ごめん」
まあ、幽霊の正体が麻衣自身ってのはわかっているんだが、でもなぜ?
結局足の裏が痛いと、麻衣は自転車から降りて歩きだした。
麻衣の家に着くと、玄関へ腰に手を当てた母親が出てきたので軽く挨拶した。
「先に二階に行ってて」
指示されて部屋に上がると、階下から母娘の大きな声で口論するのが聞こえてきた。
一泊した彼女に男がついてきたら……勘ぐられるよな。
少なくとも椎名と一緒でなければいけなかった。
冷や汗が出てくるような気分が体を覆う。
「はははっ」
苦笑いしながら、彼女の勉強机の椅子に座り周りを見渡す。
カーテンも開け放たれた状態で、午後の日差しが中央にある小型テーブルまで照らしている。
麻由姉のハンドバッグを調べに立ち寄ったとき以来だが、少し物が増えた感じがする。
ただファミレスで視た映像と相違点があり、天井の板は閉まっていて、床にシミなどなかった。
ひととおり観察したあと、大きな足音が階段を駆け上がってきた。
部屋に勢いよく入ってくる麻衣は、怒れる顔である。
「内の親って、うるさいったらないわ」
「まあっ、その、突然いなくなって、友人の家で一泊するとかでは、なっ」
「それはそうだけど、忍のこと根掘り葉掘り聞くからさ」
「あちゃ……」
「あん、もーっ!」
仁王立ちする麻衣の目の焦点は、空中の一点に向く。
しばらく周りを見渡し、考え込むしぐさを始めると言葉を漏らした。
「昨日は悪意さえ感じた部屋なのに……」
俺は見てないんだから、ここは質問をしておいた方が無難だろう。
「どこで顔が見えたんだい?」
天井の隅を指差すが、その板は動いた形跡もなく綺麗なもので染み一つない。
「ニューッとおぞましい顔を出して私をにらんでいたの」
両手を胸に折り曲げしゃがみ込む麻衣。
「……まあ、霊はあとを残さないか」
「どこか、濡れてるところがあるかもしれないわ」
「見た限りはないよ。床に落ちた血の染みだってないだろ?」
立ち上がった彼女は、目を見開いて俺を凝視する。
――あっ! 口滑った?
「そんな口にしたくもないこと、私話してない」
「あっ、あれーっ? 何かと一緒にしたかな? あれーっ」
頭をかきながら目を背ける。
「なんかのホラー映画とごっちゃにしてない? ……って言うか、私の話真面目に聞いてなかったの? 事実だってもっともなこと言ったくせに」
早口で捲くし立て両手を垂らして握り締めた手は、わなわな震えだした。
「おっ、おちつけ、俺が悪かった」
「やっぱり信じてないんだ」
彼女の剣幕に椅子から落ちそうになる。
「いやっ、あの、えっと……信じてるよ」
「あによ、その取ってつけた言い方」
「おっ、おい、俺も真面目に答えたんだって! それに麻由姉の一件もあるし……その観点から言ってるんだ。麻衣はわかってくれただろ?」
思わず暴れ馬を、両手で落ち着かせるような仕草で彼女をなだめる。
「そうだけど、ホントなの?」
握り締めてた手を放して、腕組みに変えて聞く姿勢に変わった。
「ああ、学園祭のときの占いをやった感じで考えてたぞ。今だって考えてたんだ。ここで何かが起こった。じゃあ、次はどうなるかって」
「次?」
「怖いだろ? それってまた見てしまうことだよな」
「うん、そうだよ。もう見たくないわ」
体を震わす麻衣。
「そうしない為には原因の追求だよ。それは何で起きたか? その引き金になることが前にあったとか?」
「どういうこと?」
「霊を呼び込むような何か。それを引いてしまったこと」
「ううん、どうだろう」
「昨日の墓参りで何か奇妙なことなかった? トリガーになることとか」
「んっ……何も変わったことは無かったと思う」
上を向いて考え込む彼女を見ながら、俺はあの後輩の姿を思い出していた。
「あの寺の息子。何か変わったことなかった?」
「今村君? 普通だったし、大して話もしなかったよ。会った人なら白咲さんに会ったし、谷崎さんもいたけど関係あるかな?」
そうだ、意外に人と会っている。
それにあの金髪巨漢もいた。
幽霊が誰かの創作、それも
谷崎さんは関係ないだろう。
巨漢にいたっては白咲の方が心配だ。
あとで連絡してみよう。
やはり寺の息子が何か怪しい気がするが、麻衣を驚かす意味が見出せない。
フラメモっぽい能力を持っているのか気になるところではある。
DVDビデオの入ったパッケージを麻衣に返してたが、俺に渡すはずだったよな。
もそれ前提で返してきたんだ。
あのDVDビデオのパッケージに何か細工をしていたら?
「麻衣。昨日借りる予定だったDVDはある?」
「えっ? あるけど」
麻由姉のバッグを持ち上げて、中から黒いビニール袋を取り出した。
「借りてく?」
麻衣は首を縦に振った俺に手渡す。
帰ったらこれを元に、フラメモで今村の行動を調べてみよう。
「幽霊は情報不足でわからないから、少しこの部屋調べてみたいな」
一瞬気抜けしたような麻衣だが、すぐ思い当たったのか納得した顔を向けてきた。
「あのーっ、何だっけ。お姉ちゃんの過去が見れる能力、そうそう、フラメモ。それを使うってこと?」
「そう。幽霊が出た辺りとか見てみるよ」
「やって見せて」
興味津々の麻衣。
肩をすくめてから、腰を折り血のついてた絨毯に右手を当てて集中する。
額に映像が現れるが大した量はなかった。
いくつか視てみるが、麻衣の目線でこの室内を動き回っている映像ばかりで、手がかりになるのはなかった。
ファミリーレストランでバージョンアップした状態にはならず、今までと同じいくつもの映像群だった。
天井や窓を視ても無駄だろうとあきらめた。
ただ、映像の中に姿見鏡の前に立つ下着姿の麻衣が見れたので、ご褒美をもらった気分になった。
振り返って立ち上がると、麻衣が俺の顔を不審そうに見た。
「幽霊とか、その手の情報はなかったよ」
話しながら麻衣から目を背けると、難しい顔して俺をにらむ。
「学園祭の占いしてたときも、それやってたでしょう。やたらと触りたがっていたものね。……そう言うからくりだったんだ」
「おっ、おい、無実だ。私生活など見れないんだぞ」
俺は赤面しながら嘘をつく。
「そんなんじゃないわよ。お姉ちゃんの能力知ってるから、うらやましいって思ってたの」
「ああっ、そうか」
勘違いに安堵していると、下から麻衣の母親の声が聞こえてきた。
「呼んでる。ちょっと待ってて」
そのまま部屋を出て階下へ降りていくと、母親がら買い物のメモ用紙を持ってきて原因探しは中断することになった。
母親の腰痛で麻衣が代わりにお使いすることになったので、俺は今村の疑惑を黒いビニール袋から解析しようと、いったんマンションに戻ることにした。
だが、原因がわからず心配なので、麻衣とは夕方の五時にもう一度、喫茶店で会う約束をする。
「一人のときはケータイを肌身離さず、何かあったら呼んでくれ」
「うん、もう大丈夫だと思う」
携帯電話を持って笑う麻衣に見送られて家を出る。
今度はDVDビデオのパッケージを忘れずに、手に抱いて折りたたみ自転車に乗る。
麻衣も気がかりだが、俺もフラメモがおかしいんだよな。
今までを超越したあの現象は何だろう……何かのトリガーがあったのだろうか?
白咲は知っているだろうか?
後輪からギシギシと聞こえて考えが霧散した。
止めてのぞいて見ると、横に伸びるパイプの一本にひびが入っていて車輪の軸が緩んでる。
やはり麻衣は重量制限を越えていた。
いやいや、こんなこと話したらあいつ暴れる。
自転車の寿命が来たんだ。
うん。
自宅のマンションに戻ると、まだ三時四十分で約束の五時まで余裕があった。
机に借りてきた黒いビニール袋を置くと、白咲から預かってたビニール製のクリアケースに目が行く。
そのクリアケースを手に持って椅子に腰掛ける。
これ白咲に返せばいいんだよな?
進級もできて落ち着いたから、彼女の家……希教道に行く約束の時期でもあるから、このクリアケース持って行ってみるか。
だがまずは麻衣の問題だ。
怪しい疑惑の黒のビニール袋を手に取り、中のDVDビデオのパッケージを取り出して眺める。
科学的なドキュメンタリーらしいが、スピリチュアル系とも取れる説明文を読む。
内容の方は夜に見ようと思いながら、フラメモを試みようとするとファミリーレストランでの不安体験がよみがえる。
「さっきは大丈夫だった。それに麻衣と会う前にスキャンして情報収集しておかなければ」
そう言葉に出すと彼女の顔が目に浮かぶ。
そのまま集中するとパッケージを持つ手に力が入る。
額あたりに軽いうずきを感じ、その場がスクリーンとなり映像がぼやけていくつか現れる。
いつもの状態だ。
はっきりした画像の一つに焦点を合わせると、映像は拡大した。
そこは……狭い室内。
麻衣の部屋ではない。
ベランダに続くテラス戸のある、見慣れない部屋。
グレー色が目立つ家具。
そこにいくつかの動画が空中を漂っているのが目についた。
俺の視るフラメモの状況と酷似しているが、動画の量が少ない。
今村か?
やはり異能の持ち主。
状況を眺めていると、映像の一つが大きくなり麻衣の部屋が映し出された。
あのやろう、フラメモでDVDビデオから麻衣を出歯亀してたのか。
許せん。
その今村の部屋の状況から、何か怪しいものはないかと調べてみる。
有名な青空めぐのアダルトビデオのパッケージを数本見つけたぐらいで、他は普通の物ばかりだ。
あえて言うなら物が少ない部屋って印象だ。
他も気になりだして意識を前の動画に移すと、浮かんでた画像は消えていくつかのぼやけた画像が現れる。
そのひとつを意識すると、また画像は大きくなり状況を映し出す。
見覚えのある教室の風景。
そこに麻衣が現れ、黒いビニール袋を差し出してきた。
クラブの時のものだ。
俺の知らないところで、今村と麻衣が話していたと思ったら嫌な気分になってきた。
その後は何事もなく。
他の動画も当たり障りのないものばかりで、麻衣の幽霊との繋がりは見つからない。
これ以上は何も得られそうにないか。
今村は白だろうか?
ちょっと休むためDVDビデオケースを置くと、隣のビニール製のクリアケースに目が行く。
何気なくクリアケースのチャックを開け、緑色のファイルを手に取って眺めてみる。
今さらだが、俺がなぜ預かったのか理解に苦しむ。
あの巨漢からこれを隠すためだったのか?
だけど、持っているところ見られてるし……。
白咲も何かあるようで心配だな。
麻衣と会ったあと、このファイルを返しにいったときに聞いてみるか。
そして、中身も気になる。
白咲ごめん。
頭で謝りながら、緑色のファイルをゆっくり開いてのぞいてみる。
中にワンタッチのレバーがついているZ式ファイルだが、書類らしき物は何も挟まってなく空だった。
「何もないってどういうことだ?」
もしかして、記憶暗号か何かか?
いやいやまさか、そんな面倒なことしないだろう。
そう思いながらもファイルを意識して触ってみる。
額に記憶映像がいくつか浮かび、フラメモが起動し始めるのに気づく。
さすがにのぞくのは駄目だろ。
フラメモから、意識を外してファイルに意識を戻す。
「あっ!」
不意に、何か思い出さないといけない懸案に気付く。
テラス戸の窓から入る夕暮れの弱い光を浴びながら、緑色のファイルの内側に手を置いたまま何か思い出しかけていた。
大事な何か……。
『鍵は私の持ち物から、サルベージできたら忘却は覚醒する。今から家に帰って解除キーが入るまで封印。私のことは忘れること』
記憶にない言葉が湧き出たが、声の主は白咲を幼くしたような感じに聞こえた。
何で白咲?
いや、白咲の持ち物なんだし彼女だろ。
突然、後頭部に数箇所針を刺したような痛みが起きて体が硬直し、額の中央だけ熱が上がる。
瞬間に部屋が別な立体空間に変わり、ファミリーレストランで起こったときの現象が再び訪れた。
***
俺の部屋が別の場所に変わっていた。
そこは張り出し窓のある広い空間。
頭痛が和らぐが、不安なまま情況を見守る。
何かの記憶?
緑色のファイル?
周りは執務をする木製の大きな机と壁沿いに、横に長い六段の本棚があるだけのシンプルな室内だ。
高級そうな紺の絨毯の上に黒のジャケットと黒のスラックス、髪はショートヘアの落ち着いた女性がこちらを向いて立ってる。
谷崎さんだ。
“孫娘の知美”
心のどこかから言葉が湧き上がってきた。
知美とは目の前の谷崎さんのことか?
『だから、お前がなぜそこにいる?』
しわがれているが権威のこもった声が、自分で喋っているように体に伝わってきた。
谷崎さんと会話をしている途中らしい。
「それじゃ、この前の返答を」
空間に響いって聞こえるぶっきら棒な谷崎さんの声。
『なっ、何だと?』
年老いた声質が谷崎さんに対応している。
会話しているのは記憶した者だ。
「中止しますね?」
『お前が何故それを要求する?』
「止めますね?」
念を押してくる谷崎さん。
『できるわけなかろう!!』
老人の低音が唸る。
「もう一度尋ねるけど」
『受け入れることはできん! よけいな口を出すな!!』
「……止めないなら、罰を受けてもらうけど」
『何の世迷言だ』
「それじゃ仕方ない……受けて」
彼女の声に反応するように、机の上の電話やモニターが小さく揺れ音を立てだす。
『何?』
谷崎さんの立っている床から中心に波動が起こり、絨毯が波打ち体が持ち上がり室内が大きく揺れだす。
『地震?』
でかいぞ!
立っていられず、床に這いつくばる。
額縁が落ち、椅子が倒れた。
後方で大きな光が火花のように飛んだかと思うと、電気が消えた。
横壁に亀裂が入り鉄骨が見え、コンクリートがずり落ち、その隙間から外の景色が見え始める。
これはやばい。
外界から突風を吹き入れながら、眼下に大河が流れているのが一望できて、彼方には街並みが広がっていた。
ここは万代島メッセの高層ビルだ。
だが、何十階目だよ?
天井にひびが入りコンクリの一部が剥がれ、床に落ちて埃を立ち上げる。
だが彼女は、巻き上がる埃も揺れも意に返さぬように立ち尽くす。
何で立っていられる?
そう思った瞬間、彼女の足元がすべてがいっせいに崩れだす。
谷崎さんの床が抜けて立ったままの姿勢で先に落下していく。
――あああっ。
俺は手を差し伸べたくなりながら声を上げていた。
『ん!?』
声に反応したのか、見上げながら驚き落ちていく谷崎さん。
そのまま瓦礫と一緒に小さくなって見えなくなった。
机にしがみつきながら見送るが、頭上から黒くて太い蛇が何匹も襲いかかるように落ちてきた。
電気系のコードの塊だ。
同時に衝撃が走り天井がすべて落下。
周りが真っ暗になると同時に巨大な圧力がかかり、目線の主は体全体に万力で締めつけられたような痛みを味わっていると思われた。
老人が痛みで悲鳴を上げ、声が響きわたった。
「会長!? 会長!?」
暗闇が明けると先ほど谷崎さんと会話していた室内で、何も崩れたり壊れた物はなかった。
黒のスーツ姿の男たち数人が、こちらをのぞき込んでいる。
どうやら会長は床に倒れているようだ。
一人が持ち込んだ携帯用ボンベを口に持ってくる。
『はあっ、はあっ』
老人の早い呼吸音が、こもった音に変わる。
体をまさぐられて、注射器を手に持った男が近づき言葉をかける。
「すぐ楽になりますよ」
眼界の一人に体格のいい金髪の大男が見えた。
こいつは、昨日のお寺の帰りに会った黒サングラスの巨漢だ。
携帯電話で外人特有の片言の日本語で会話をしている。
「また同じ症状ダ。……イエス、会ってたようダ」
その内容が耳に入ってくるが、また同じということは今までにも起こっていることなのか。
さすがに緊張した状態にいたたまれなくなり、自ら頭を左右に激しく振ると、金属的な高い音質の耳鳴りとひどい頭痛が起こる。
張り出し窓のある室内が、突然見覚えのあるの室内に変わる。
頭痛と耳鳴りはゆっくり収まってくる。
冷や汗が出ていて、走ってきたように呼吸が荒く息苦しい。
周りを見渡すと、見慣れた狭い空間に目の前に勉強机、その椅子に寄りかかっていた。
俺の部屋だ。
手には緑色の古いZ式ファイル。
部屋の時計は四時二十分を指している。
今のは何だ?
うたた寝して夢を見てたわけじゃないよな。
これで二度目だが、やはりフラメモがバージョンアップしたようだ。
原因や操作がわからないし、後頭部を摩るとまだ痛みが残っている。
今視た映像はファイルからだろうが、会長という人物の記憶か?
そうなるとこの古いZ式ファイルは会長の物か?
今の記憶は普通じゃなかったが、相手は谷崎さんで会長を脅していた?
そして、地震でビルの崩壊。
だが元に戻った……まるで
だが、かなり強力というか広範囲の能力発動だったが、
それを谷崎さんが行使したってことだ。
俺や白咲みたいに刀や人を一人出す
じゃあ広範囲異能者か?
……駄目だ。
問いかけが拡大するだけで回答がでない。
手にした緑色の古いZ式ファイルをクリアケースに戻すと、麻衣と落ち合う時間が近づいていることに思い当たる。
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