Reuse planet。

ネロヴィア (Nero Bianco)

Reuse planet。

 広大な宇宙にポツリと何者からも離れるように、艦隊はゆっくりと進み続ける。行先はただ一つ、兵装もただ一つ。クァドランス級超大型輸送艦を旗艦とした護衛・及び随伴艦27隻からなる中規模の部隊だ。イオンエンジンの青い炎がバックノズルから数メートルの尾を引き、真っ白に塗装された船体は0000恒星の光を受けて一層輝いている。しばらくの間の後に旗艦の腹部が大きく開き一基の巨大なミサイルが姿を現した。何重にも仕込まれた大気圏突入用防護素材と対プラズマ装甲とがスチームロッドから吹き上げる蒸気エネルギーを反発力に転換してゆっくりと母艦から引き離されていく。それと時を同じくして護衛空母艦からは円盤のような形状をした幾多のジャミング・ドローンの支援小隊が相次いで発艦し、ミサイルの周囲を大きく円状に囲むと全機が互いに結合し合った。全ての手筈が整うと先ほどの艦隊は一気にエンジンを噴き上げてスイングバイ軌道に乗って帰投フェーズへと移行する。一糸乱れぬ行進は軍事転用型AIシステムだからこそ実現出来た技巧の1つだろう。彼らが十分な距離まで退避の完了させると、ミサイルは目前の惑星へ向かって一直線に飛び込んで行った。


 軌道上に展開するいくつかの迎撃衛星からの砲撃が直撃したようにも見えたが、あまりの重質量に破壊はおろか軌道を変える事すら叶わなかったらしい。断熱圧縮で真っ赤に燃えた状態のミサイルは見事地表へと命中し、周囲を青黒い閃光が瞬く間に包んだ。そこから少しして現地に到着した偵察機から送信された映像には何もかもが完膚なきまでに破壊され、全ての生命が失われた静寂の星の凄惨な姿が克明に映っていた。それはまた一つ、大きな文明がこの宇宙から永久に姿を消した瞬間でもあった。


 同船内の文明研究担当室では、その映像の解析と終了の報告が進んでいる、真っ白に目張りされた壁にレジタイル製の床は乗員の精神的影響に対し最も適正であると判断されたために使用されている。最も、その乗員からの評判はかなり酷いのだが…。


 「室長、星間戦略ミサイルの着弾及び当該文明の消滅を確認…作業完了致しました。はぁ、全くこれだけはいつになっても…。」


 『…あぁ今回も失敗か…。でも、管理課の君の働きぶりにはいつも感謝している。やっぱり異星人とはいえ、罪のない者を木っ端微塵に消し去るのは不快かい?』


「いえ…。彼らに我々の存在を感づかれた以上は、正常な文明の発達の支障になりますから。こればっかりは研究達成の為に仕方がない事かと…。」


『んまぁ、あのミサイルも決して安いものじゃないからねぇ…。できれば僕もこの手段は使いたくはない。けれど、偵察機の透明化技術が未完成なうちはどうにか短距離空間跳躍で乗り切らなきゃならない。それでも見られちゃうのは仕方ないけど。』


 終始しょんぼりとした顔の相方を尻目に、室長は大きく背伸びをして息を吐いた。

この第28研究室は他のどれよりも特異的なもので【他文明の純粋な発展を記録する】のが主目的になっている。本当の事を言ってしまえばこんなものシミュレーターに突っ込んでしまえばある程度の結果は出せてしまう。しかし、それでも現実の偶発性というか、ある種の運命のようなものばっかりは考慮できない。だからこそと言うか、仕方がなくというか、そんななぁなぁの流れで今に至るのだ。


『んーじゃ、そろそろ再々構成の準備進めとくかぁ…。ヤハウェ級開発艦のチームを向かわせといてくれ』


「はい、下位生命体群の投下と惑星再緑化作業を進めておきます。」


『…主生命被験体の到着までには終わるように頼む。あれがつく前までにエデンエリアの整備が済まないと計画に遅れが出るからな』


「ええ、お任せを。事前準備は7日もあれば完了しますよ。「Ad」と「Iv」の到着後は惑星亢進剤を散布し、予定通り発展の加速状態に移行できるかと。」


『わかった。今回はうまくいく事を願おうじゃないか。これじゃあさっぱり研究が進まん。…それと、さっきみたいに干渉の痕跡を残すなよ?決して起こりえないことが起きたって事は何かしらから監視されてるって証明になるんだ」


「えぇ、まさか自分も探査作業機にチップを引っかけたせいでここまでになるとは思ってもいませんでした…あはは…。次からは気を付けます」


 視線の先の何とも不思議な機械的図体をした生物がそこまで会話を進めている途中に突然私は体を何者かに大きく揺さぶられた。白衣の左半身の布が大きく乱れ、ポケットに突っ込んでいた電子ペンシルが地面へ小さな音を立てて落ちる。


 「……おい!ちゃんと起きてんのか?ったく…。ほら、交代の時間だ」


 数時間釘付けになっていた画面の中で、なおもそれらは疑似的な会話を続けている。あのやりとりを疑似的だと言うのは不思議に思われるかもしれないが、厳密にはあれは生物ではない。この研究所で作られた自己学習型AIを適当な宇宙へ放り込んだのだ。そこでそれは大きく進化を遂げた。知っての通りだろうが、この宇宙は1つではない。人工知能の過度な進出を危惧する政治家たちによって新規制法が制定されてから数十年、全面的にそれらの研究と探求は国家転覆の危険思想とされて取り締まりを受けた。もうずっと前から分かり切ってはいたのだ。これからの世界にとって政治家などはもはや不必要なのだと。


 「だいぶ進んだらしいな…。やっぱり、俺の予想通りだ。人間が人間を管理するよりもこっちの方が何倍もうまくいってるじゃねぇか」


 『そっすね…。もう自分たちの文明を完成させて惑星間干渉までし始めました、幸いまだ技術レベルが低いらしくこちらの重力波通信ユニットはバレてませんよ。』


 「しっかし、まさか行った先で見つけた地球型惑星とその文明を丸々実験台にしてしまうったぁ、俺らすげぇモンを作っちまったな。」


 『これが公安に知れたら裁判すっ飛ばして即死刑もあり得ますからねぇ。ま、それで僕ら若手科学者が開発自粛するなんて政府も考えが甘いっす。命なんかより未知の

探求のほうが何倍も、何十倍も大事に決まってますから…へへ』


 その時であった、後方で何か地面に落ちる音が狭い部屋でほんのわずかに響く。ふと彼らが振り向くとそこには薄っぺらいSDカードのような機械が落ちていた。しかしここではメモリーキーでの管理のためにそんなものは誰一人として使用していない。しかし何故か私はそれをどこかでちらりと見た覚えがある。Quadran-28の刻印…いったい何を意味するのだろうか?結局僕らはその答えに届かず終いだった。


 







  


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