第二章

待機中ははっきり言って暇だ。暇以外にあるものがない。

俺のいる執行部は、暗殺を実行する部署。依頼内容と、部署内もしくは情報部から貰った情報の二つを使い、依頼通りに暗殺を実行する。そのため、依頼がなければ暇なのだ。

情報部へ顔を出しても、藤崎の少し長い髪をまとめた一つ結びも、咲の黒い艶のあるツインテールも見えなかった。俺はふと思い、ロッカーから自分の武器を取り出し整備室へ向かった。

自分で使う武器は自己管理になっており、自分で整備もする。整備室には、メンテナンスに加え、清掃、射撃場まで備わっている。

部屋に入ると、大型銃のコーナーへ行きケースを開ける。

中に入っているのは、無論、俺の愛銃である対戦車ライフル。そして、その専用弾。

ライフルを取り出し、整備を始める。

この銃と出会ったのは、入社したとき。自分に合った武器を探していたとき、そのときの上司から狙撃銃を進められたのがきっかけだった。

狙撃手向きだった俺は、何か威力の強い物は無いかと探していた。狙撃は遠くから目標を狙うため、隠密性が高く、敵からもばれにくい。その一方で、近くまで敵が来ると対応がしにくいと言う欠点もある。一番怖いのは、外した為に目標が逃げるのに加え、敵が位置を予測しこちらに向かって手榴弾を投げたり、機関銃を撃ってきたりすることだ。

それを防ぐのは、もちろん命中率を上げること。自分の腕を上げることだ。

しかし俺は保険のために、外しても目標に危害を与えられる物を求めていた。そして、部屋の片隅に置かれていたのが、この対戦車ライフルだった。

なかなか使われないため、埃を被っていたコイツだが、俺はすぐに使えるよう整備した。

威力は想像以上だった。人は簡単に貫け、外しても大砲のように地面を削る。周りへもダメージを与えられる。そして、超遠距離からも、どんな的でも、狙える撃てる、と俺の欲していた全てを持っていた。

それから少ししてから、咲と出会った。整備をしながら当時を思い出す。

会った当初は仲がいい程度に思っていたが、会う度に不思議な感覚が出てきた。何時からか、頭の中に彼女のことばかりが浮かぶようになった。

どうやら俺は分かりやすい性格らしく、彼女のことが好きだと言うことはすぐに知られてしまった。そのまま告白、現在に至るわけだ。

なんだかんだ言って、この銃がいなければ全て始まらなかった。そういう意味でも、コイツには特別に思い入れをしている。

ある程度整備を終えると、そのまま射撃場へ向かう。

このライフルは単発式、一発撃つごとに弾を込める。引き金部分ごとカバーを下におろし、弾を詰めて戻す。

支えの部分を地面につけ、スコープで的を狙う。そのまま引き金を引くと、轟音とともに的が吹き飛んだ。今日も、こいつは好調だ。

「木之元君」

排莢をしているときに、後ろから声をかけられた。振り返ると、部長の柔らかい感覚のするのほほんとした顔があった。

愛銃を台に置き部長のほうへ体を向ける。

「部長、いらしてたんですか」

「ああ、久しぶりに撃ちたくなってね」

そう言うと部長は俺の横で射撃をし始めた。

部長は執行部の出だと前に聞いたことがあるし、たまにこうして射撃場で一緒になることもある。そんな部長の愛銃はミニマシンガン、しかも二挺扱い。

両手に持たれたミニマシンガンは、寸分の狂いもなく的へ当てられる。俺の使っている的の距離の半分程度とはいえ、あれほど命中させるのは至難の業だ。

「さすが部長、お手の物ですね」

弾倉を外しているときに声をかける。同時に思わず拍手が出てしまった。

「いや、鈍ってるなぁ。現役の時は全弾命中だったんだが、四割も行ってないみたいだな」

「僕にはそんな芸当できませんよ、弾倉分連射したら必ず腕がブレてきますもの」

俺だったら三点連射バーストがいいところだろう。にしても完全連射フルオートで全弾命中とは、実力ゆえの昇格もうなずける。

「そういえば、君も中・近距離で撃てるようにしたいんだっけか?」

そういえば前に部長に相談したことがあった。それが、中距離でも撃てるようにしたいというものだ。通常の狙撃銃ならば歩きながらでも構えればいいのだが、対戦車ライフルはそうはいかない。重さや大きさはそうだが、何より反動がとてつもない。拳銃でも変に構えれば脱臼する程、それが戦車の装甲を貫くためのものとなれば脱臼どころの話ではなくなる。ただでさえ鍛えてなければ、体制をしっかりとっていたとしても骨折や脱臼をするといった反動がある。だからこそ、しゃがむないし寝そべった状態で銃を構える。

それでも俺は、あらゆる場面に対応するために中・近距離でも対応できるよう、直立で撃てないかを部長に相談していた。

「はい、ある程度鍛えてはいるのですが、如何せん反動が大きくうまく逃がせないかと模索しているんです」

「そりゃそうだろうなぁ」

それから大きく笑いながらも、部長はこの馬鹿げた俺の真剣な悩みに付き合ってくれた。本当に、この人にはかなわない。

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