35 忠告
「なぁ、ちょっといいか?」
昼休みになり、ちょうどお腹も減ってきたかなという頃、僕は突然見知らぬ男子生徒に声を掛けられた。
いや、見知らぬと言うのはちょっと違う。
目の前の男子生徒は確か僕のクラスメイトだったような気がする。
クラスメイトに対して見知らぬとは随分薄情だと思われるかもしれないが、実際今年初めて同じクラスになった人なんて、それなりの関わりでもない限り覚えるのは案外難しいのだ。
まあコミュ力が高かったり、人の名前を覚えることに長けてる人とかはどうかは知らないが、少なくとも俺は覚えられない。
「……えーっと」
しかしそんな僕の記憶の中で引っかかることが一つだけあった。
それは目の前のクラスメイトが司波さんと話しているのを見たことがあるというものだ。
それも結構な回数。
恐らく司波さんの学校での友達だったりするのかもしれない。
まあやっぱり僕は名前までは知らないんだけど……。
「坂本和樹だよ、知らなかったのか」
「ご、ごめん。あまり人の名前を覚えるのは得意じゃなくて……。あ、僕は倉田亮だよ」
「そんなことはとっくに知ってる」
「そ、そっか」
坂本くんは少しだけ不機嫌そうに呟くと小さくため息を吐く。
それにしても坂本くんは一体僕なんかに何の用だろうか。
坂本くんは僕の目から見ても普通に容姿も整っているし、だからこそ司波さんとも普段話せているのだろう。
何か用でもなければ僕に話しかけてくるようなことはないはずだ。
「お前、最近司波と良く一緒にいるよな?」
「え? ま、まぁそうだね」
僕は坂本くんの言葉に一瞬動揺しつつも頷く。
確かに普通に考えて坂本くんが僕と何か関係していることがあるとするならばそれは司波さんくらいなものだろう。
それに僕が司波さんと一緒にいるということは、ここ数日間ずっと放課後に一緒に勉強している姿を見ているはずだ。
何せ帰りのHRが終わるとほぼ同時に司波さんは容易に取り掛かるので、逆にクラスメイトが知らなかったらそっちのほうがおかしい。
しかし坂本くんはどうしてそんなことを聞いてくるのだろうか。
「そういう関係なのか?」
「そういう、関係?」
僕は首を傾げる。
そういう関係とは一体どんな関係のことを言っているのだろう。
「だから―———付き合ってるのか?」
「…………え?」
僕は坂本くんの言葉に固まる。
付き合ってる?
誰が?
僕と、司波さんが?
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
「……?」
全力で首を振る僕に戸惑ったような表情を浮かべる坂本くん。
「僕と司波さんがそういう関係なわけないから……!!」
しかしさすがにそれはあり得ない。
僕が司波さんと付き合うなんて、どう背伸びしたって無理な話だ。
「そうなのか? あんなに一緒にいるのに?」
「そ、それは単に勉強してるだけだから!」
「あんなに親しげなのに?」
「し、司波さんは他の人に対してもあんな感じだよ」
断じて僕だけに優しいとかそんなんじゃないはずだ。
確かにいろいろと気を許してくれているというのはあるかもしれないが、それで僕たちが付き合う付き合わないの関係になるなんてことは絶対にない。
司波さんが僕と付き合う、というならばまだ可能性はあるのかもしれない。
だって司波さんは可愛いくて、そんな司波さんの告白を断るなんて僕じゃなくてもそういないはずだ。
だけど、僕が司波さんと付き合う、となったら話は別だ。
確かに僕は配信とかそういうことをしていてある程度のところにはいるのかもしれない。
でもそれはあくまでもネット上での話に過ぎず、現実での僕はクラス内カーストでも底辺を彷徨うような奴でしかない。
そんな僕が司波さんと付き合うなんておこがましいにも程がある。
既に一度振られているのが、そのなによりの証拠だ。
僕が司波さんと今こうして関われているのは「配信」という共通の話題があるからで、そしてその話題を知れたのでさえただの偶然で、僕が何かしたというわけじゃ絶対ない。
「…………」
その何かをするだけの力が僕にあったのなら、もっと自分に自信を持てたのだろうか。
そんな思いを馳せてみても、僕に今何の力もないということは紛れもない事実だ。
「司波さんは可愛いよ」
それこそ僕なんかが立場を弁えずに一度勢いで告白してしまうくらいに。
「そして”力”もある」
クラス内カーストでも上位に位置して、友好関係も広そうだ。
その友達も皆凄い人たちばかりで、東雲さんもいれば、坂本くんだっている。
皆が皆、僕とは違う。
無力な僕とは違いすぎる。
そしてそんな人たちに今こうやって気にされている司波さんと僕ではやっぱり、釣り合わない。
「だから僕は司波さんとは付き合ってないよ」
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