25 期末テスト


「……ふぅ」


 僕はヘッドホンを外しながら息を吐く。

 ちょうど今、四葉さんの配信が終わったところだが今日の配信もいつも通り面白かったのではないだろうか。

 少なくとも僕はアンチグループの標的にされる前の四葉さんの配信に戻っていたと思う。


 さらに同時閲覧者数も増えているのが嬉しかったのか、今日の四葉さんは妙に明るく嬉しそうだったような気がする。

 今日の同時閲覧者数は平均で大体1200人程度で四桁を超えており、そして総閲覧者数はもう少しで五桁に届きそうなところまでやってきていた。


 ただ四葉さんの配信が始まった瞬間は同時閲覧者数が3000人もいた。

 恐らく『涼-Suzu』とまたコラボするのではないだろうかという考えのリスナーたちがたくさんいたのだろう。

 それでもその半分くらいの人たちが残ってくれていたことを考えると、やはりそれだけ四葉さんの配信が魅力的なのだ。


「コラボ、かぁ」


『涼-Suzu-』が四葉とコラボした。

 それは当事者である僕にとってしてみればそこまで大きいことでは無かった。

 だがどうやら他の人たちからしてみればそんな間単に済まされる話ではないようだ。


 僕自身、エゴサーチなどするタイプではないのだが、それでも耳にその噂が入ってきたり目にしたりすることがある。

 ライッター上でのニュースだったり、他の配信者たちのライブ配信であったり。

 更に言えば、学校でもその噂を耳にした。


 さすがライッターと言うべきか、どうやら僕たちのクラスメイトの数多くがライッターを活用しているらしい。

 ライッターは本来、配信のためにだけのモノではなく、個人チャットや個人通話、グループでのチャットや通話機能などその用途はさまざまだ。


 もちろんその中でライブ配信としてのユーザーは限られてくるが、それでも若い人たちの間でライブ配信はかなりの人気を博している。

 そしてどうやらクラスメイトたちもその中の一人だったらしく、昨日のコラボの一件のことを早速友達同士で盛り上がったりしていた。


 そしてその噂の種は涼だけでなく四葉さんにも向けられていた。

 涼の初めてのコラボ相手として選ばれた四葉さんの配信を知っている人はどうやらクラスの中にはいなかったようだが、恐らく今日の配信やこれからの配信を聞く人が数人は出てくるだろう。


 もちろん四葉さんと司波さんが同一人物であるということなんてバレる可能性はほぼ皆無だろうが、司波さんはこの状況をどう思っているのだろう。

 僕は司波さんが四葉さんであるという事実を知った上で配信を聞いているが、司波さんは恥ずかしいと言っていた。

 もしかしたら四葉としての配信を聞かれる分には大丈夫なのかもしれない。

 それだったらこれからの配信で妙に四葉さんが大人しくなってしまうなんていう悪影響が出なくて済む。


「まぁ、もし仮に悪影響が出てたら、ちゃんと指摘してあげたらいいだけか」


 それが今の僕の仕事で、僕と司波さんを結ぶ関係の一つでもある。

 放課後のあの時間のためなら僕も努力を惜しむつもりはない。

 そしてちゃんと今日の配信の分の改善点もちゃんと一つ見つけておいた。

 これで明日の放課後に、司波さんからどやされることもないだろう。


「……あ、そういえばもうすぐ期末テストだな」


 最近は司波さんや四葉さんのことで頭が一杯で、そのことに気を向けられていなかった。

 まぁそもそも僕は意外と授業を聞いたり予習や復習に少しは時間を割いたりしているので平均点以上の点数は取れるだろうし、ましてや赤点なんてことはあり得ない。


 ぶっちゃけ今の時期はそこまで進路のことなど担任たちも厳しくないし、ある程度でやり過ごせたら良いと思っている。

 高校に入って初めての期末テストでもあるので難しいことは容易に想像できるが、それに関してはこれから勉強していけばいいだろう。

 今のままならば少なくとも配信の方もそのまま休むことなく聞いたり改善点を見つけたり出来るはずだ。


 僕は画面に表示されている配信終了の文字を見ながら何度かまばたきをする。

 こうやって配信をしたり聞いたりする時は普段電気を消しているので目が疲れるのだ。

 しかも電気を点ければ目が慣れるまでに時間がかかるしあまり良いことはない。

 だが僕にとってはその空間は大事なのだ。


 配信も終わったので電気をつけるが、案の定目がチカチカする。

 だから最初気付かなかった。

 ヘッドホンも外していたので音もなく、一瞬見間違いとさえ思ったのだが、どうやら今、『涼-Suzu』のアカウントに個人通話がかかってきていた。

 

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