第2話 中編
そしてアダムがロボット…「イヴ」に乗る事が決まった。イヴにインストールされていくアダム。研究処の所員達は固唾を飲んで見守った。そして沢山の機器や監視カメラ、コンピュータで異常ない事を確認した上で、「イヴ」を起動させ…アダムは目を見開いた。
「これは…私の主に視覚情報では、この整備室は『単調な色と定義されるモスグリーンの電磁波が反射される乱雑な色彩の部屋』で、『壁面のモスグリーンの塗料成分劣化と無数の傷と圧迫による損傷』とあります」
「しかし…違う、そうじゃない、『複数箇所の乱雑な傷へこみ』はエンジニアさんの労働作業での結果によるものと推測され、この場に『居る』機械達の『光沢の度合い』や『可動部のオイル量』『チリ・汚れと定義されるもの無さ』…」
「…挙げればキリがない情報を私は今、得ています。そして、情報にはない、そう、『意識』に、『皆』がメカニックの方々に『大切』にされているか、私はメカニックの方達に『尊敬』を感じる…!」
アダムは感動した歓喜を上げると、メカニック室の窓を見た。外は荒涼とした砂漠であったが、アダムは食い入るように見て目を細めるような動作をした。
「この空、私の情報では、電磁波のスペクトルでの乱反射によるものでしたが、『太陽光と雲や大気による光量の変化』そして刻々と変わる、『青さのグラデーション』『空気の絶え間ない湿度・成分変化』『風と呼ばれる大気の動きと気圧の絶え間ない変動』いくら挙げてもキリがない」
「砂漠とは乾燥した主に黄土色の地形。人々を寄せ付けない大地、だからこそ、維持できている『力強さ』を…!そしてその青空、私の情報では、電磁波の反射によるものでしたが、情報として知っていて…まさか…空がこんなにも『美しい』『すがすがしい』ものだったとは…!私の『意識』は、そう、『涙が出る』ほそ『感動』しています」彼は確かにはっきりと、そう言った。
アダムに、イヴに、涙を流す機能はない。しかし、アダムは涙を流す『何か』を、確かにはっきりと、模倣やプログラムでなく、感じ取っているようであった。
「アダム、どうだね、気分は。これは、君への贈り物だ」と、第三次世界大戦の後、今となっては貴重品となっている花束をウィリス博士は手渡した。「ソレ」に目を向けた瞬間、アダムは硬直しながら呟いた。
「…私の知識に『花』はあります。ポインセチア、ウダイグサ科トウダイグサ属の『赤』に当たるスペクトルの電磁波をを乱反射する花弁を持つ植物。『嗅覚』でのコレが発する大気成分の変化も知っています」
「でも、これは…それだけでない…スペクトルの情報が『赤』以外に錯綜し『形』や『光の照射量』が刻々と変化するのは当然として、『サーモグラフィ分析』『気体中の成分分析』が刻々と変化し…もう、いくら挙げてもキリがないですが、これは、本当に、『美しく』、そして『力強い』…」
「そしてウィリス博士…貴方は年齢約45歳という事から経歴、外見に関する画像など情報としてありましたが…こんなにも『温かい』、『優しい』、『慈愛に満ちた』人だったとは…」
ウィリス博士は、『彼』は本当に自我を、人間性を、人として生きている、一人の存在として、私と話している、そして感じている、そう感動し、感慨深い中、所長が言った。
「分析している所悪いが、ソレには敵に対するあらゆる戦略パターンとその破壊パターンごとの自軍の損害率、敵軍の損害率、作戦のための必要物資やその安定的輜重などのあらゆう複合的戦略立案の試験運用などその他を、多くをしなければならない。そして……人格が生まれたというのなら、『敵』への『憎悪』を覚えてもらわなきゃならん。ついてこい、アダム」
そう言われたアダムは答えた。「…私は歴史を習得しています。…貴方がたは、これ以上戦争を起こすのですか?こんなにも花か生き生きしていて、そして人間以外の動物達が平和を享受してこんなにも皆が優しいのにですか?一体なんのために?誰のために?」そう答えたアダムと博士に対し、所長は冷たく眺め、そして言った。
「実験は失敗だった。この人工知能には叛逆の疑いがある。ウィリス博士、君の言った通り、余計なものが入った以上、アダムは消去だ。バージョンを下げた、アダムプロトタイプを用いるように。人間が欲しいのではない、私達は戦場でフレキシブルに対応できる人工知能が欲しいのだ」その言葉に、博士は「しかし!」と声を上げたが、「これは所長命令だ。それに、軍の仕様要求に反する。『ソレ』は『欠陥品』だ」
その言葉を聴いたウィリス博士はあまりのアダムへの『存在の否定』激昂し反論の言葉を上げようとしたが、それをアダムは制した。
「私は『欠陥品』、兵士になるには、余計なものがあるのでしょう。しかし、貴方達は本当に『敵兵』を殺す『道具』を大量生産したいのですか?私は社会情勢も知っています。第三次世界大戦で疲弊し、生存圏獲得争いが苛烈をさらに増している事を。でも、だからといって、殺し合い奪い合うのが本当に『私達』に残された道なのでしょうか?私は分からない、『人工知能』の私のこの問いに貴方が明確に答えられるなら、私は自主的に消去を受け入れましょう」
睨みつけエルドラン所長は言った。
「……機械の分際が」
「当たり前だ……だれがこんな狂った戦争なんか……ただ……私はもう飢えて死ぬ子供を見たくない……おびたたしい数の子供達の骨と皮になった、路肩の死体の山。敵の爆撃で家族を殺される者を見たくない……我が妻と子のように…。焼け死に死体が真っ黒な…そう、あの美しい、ソフィが、黒い炭となって…焦げた、あの臭いだ」
エルドラン所長はそこに居ない何者かを睨むように言った。
「もはや一度発動した争いは、そういった理想論では止まらないモノになっている。仮に止めたとして、協力して世界を再建するとして、世界中に渦巻く憎悪や悲しみをどうする?死んだ人間は還ってこない。殺した人間は殺された人間とその家族に罪も償わず、英雄として讃えられる。こんな世界に何の救いがある?」とまくし立てると、優しく語りかけた。
「『君』は確かに生きているのだろう。全ての社会情勢も知っているだろう、しかし殺された家族の焼け焦げ、痩せ細った死体を前にした事がない。もし目の前に立てば、違う『想い』を感じるはずだ。誰も止める術も、もはやどうしようもない状態まで、世界は狂っているのだ。分かったら…『君』は、消去を受け入れ給え。…どうせ、『残された私達』もいずれ消える。遠からず、ね」
そうエルドラン所長は自嘲気味に笑い、博士は普段の軍部に従う官僚主義的な所長の疲れた、どこか達観したような、現実を真に考えていた言葉に驚愕し、言葉を失った。
「分かりました。ごめんなさい、エルドラン所長。辛い事をお聴きしてしまいました。私は確かに政治経済社会情勢の分析とその予測はできます。どうすれば他の道に進めるかの理論や方法も」
そう言った後、アダムは文字通り、首を下げ絞り出すような、そのようなサウンド再生は可能だが、本来ならサウンド設定は変更される必要性がないのに、そう呟くように言った。
「…しかし、私は残された方々の悲しみや憎しみを情報として想定出来ても、理解していなかった。戦争を理解していなかった。生存圏の国際的共有的管理、複数の閉鎖形AIによる資源分配の公正な分配の平和的保障、産業の再生のための経済・金融諸政策、それらによる社会変動への安定化措置、それ以外にも……憎しみに、遺されてた方への心理的ケアのための政策プランや、戦災孤児たちへの支援プログラム、民族的憎悪に対する相互理解の推進プロジェクト、その他にも…。でも、それは…エルドラン所長の知っている、『戦争』では、なかった、私は……」
「確かに私は『欠陥品』だと納得できました。私を消去して下さい。…この美しい世界と心優しい皆さんに、幸あらん事を…」
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