鬼ヶ島に行く前に 笑い死にそう。
「ただいまー。」
玄関のドアを開け、ローファーを脱ぐ。そのまま リビングの扉を開けると キッチンの前に母の姿。
私の姿を認めると開口一番キラキラした目で
「どうだった???!」 と。
鞄を隣の部屋におろしつつ、ブレザーのポケットにねじ込んでいた携帯を取り出す。
そうしてまたキッチンの方へ向かおうとする。..と、
「うん。まあまあかな。 ....って ぅぉおあ!!」
いつの間にそばに駆け寄ってきていたのか、目の前に母親...。
びっくりした。
母親からお茶を手渡され、
「先生 どんなひと?」
そう問いかけてくる母親の目はなんだろう、何処かで見たわ、都会ではもう見れなくなった、ああ。そう、あれだ、アレ。
中学のスキー合宿の時だ。
真冬の夜中という頭のおかしい時間に先生から生徒全員外に集まるように言われて、凍えながら見上げたあの星空のように母親の目がキラキラと輝いている。
山の星空って綺麗なんだね。
星座ってどれとどれを取って言ってるのってくらい星の数多いね。うん、綺麗だった。
あの後に、何故か片思い、両思い疑惑の奴らの告白大会が生徒達の手によって行われ、極寒の満天の星空の下黄色い声で
担任は「おい、ずるいぞー白澤ー。ったく。
やるだろうなあとは思っていたが..実際に目の当たりにすると若いなあ、なぜか心が痛むよ。ちなみに、白澤の兄ちゃんも去年のこの星空の下、伝説作ったってな。
青春だねー。見たく無いものを見たっていうか、うん、甘酸っぱいというか、青春だねー。
おじさんはすぐ身体冷えるしついてけないわ..」
親友は親友で「えー!!!そうなの?!気になる!!かなちゃんのお兄ちゃんかなりモテるもんねー!!
あ、そだ!かなちゃん戻ったら体育館で一緒にロッククライミングしよー!!!」と言って今にも走り出しそうだ。
「アノ人の事は触れないでー。
てか、せんせーも戻るんじゃんー。
ていうか、せんせーはまだ20代でしょ。
みゃーちゃん元気やな、鬼ごっこもしよーよー」
「
みや、鬼ごっこもやるーっ!!!!」
「そうそう、27だけど、アラサーの体力なめちゃだめだよー。
てかさ、君たち2人で鬼ごっこする気なの?」
と若干ドン引きしている担任新野に向かって、
「「先生もだよ?」」
と、当然のごとく答えると、みゃーちゃんとハモった。流石みゃーちゃん。ほんと好きだ。
後ろを振り返ると意識が戻った担任が鬼の様な
そのまま、告白大会が終わるまで遠い目で見守っていたその他の先生達や、同級生らが戻って来るまで体育館では本気の鬼ごっこ、それから始まるロッククライミングへと3人で汗を流したのは懐かしい思い出だ。
担任新野にまつわる話は色々あるが、
先生というか、やる気がないというか、
うん、個人的に先生として好きだったんだよね。
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「かなでちゃん?!」
母親の声でふっと戻る意識。
あ、意識飛んでた。
担任かあ、
高校の担任。
うん。そうだね。
「眼鏡の、 男」
「ええ、あんた男の先生で大丈夫なのー??新野先生みたいな人?」
「んーわかんないけど..。」
あんまり関わりたくないタイプかな。
という言葉を、お茶で飲み込む。
リビングのソファに座りながら母親が少し心配そうに話し続ける。
「でも、お友達は できたんでしょう?」
「あー....。ハイ 出来ましたね。」
「かなでチャン...??」
やばい。
きれるよこの人
いい笑顔です、お母様。でも めちゃこわいです。
「お友達は?? かなでチャン.....?」
「前の......席の、....子と仲良くなりました....よ」
「ふうん....。あらそうなのね。まあ、その様子じゃお友達っても名前も知らなさそうだから...。はあ、 おかあさんは心配よう。
高校はあのみやちゃんはおろか、中学のお友達、誰も居ない高校に入学したんだもの。
おかあさん、もう心配で心配で。」
なんてこめかみを抑えている目の前の母...。
いろいろばれている..。そして、いろいろ心配してる...。
いや、それよりも、なんとかこの話題をそらしたい...
ん? なんか変な音がする...。
「ねえお母さん、 なにか吹き零れている音するけど....」
そのとたん顔面蒼白になる私たち親子。
我先にと二人してキッチンへ駆け込む。
吹き零れている鍋。
急いで火を止め、蓋をする親子。
顔を見合わせて、
「「お父さんには内緒ね」」
ああ、さすが親子 言う事がいっしょだ。
けちんぼ 頑固な父が知れば大目玉を食らう。
いそいそと支度を再開する母をいったん残し 制服から着替える。
Tシャツ短パン。 うん。楽だ。
「おかーさーん、手伝うよー。」
その言葉待ってました!ばりに母親からこき使われる私はへとへとになりながら夕食の支度を母親と済ませ席に着くと、家族みんなで頂きますをした。
「ねえ リモコンとって。」
「いいけど、音量下げて。」
「ねえ、その唐揚げちょうだい。」
「は?まだそっちの皿にもあるじゃん。」
「ねえ、このナスやるよ。」
「嫌いなだけでしょ。」
「ねえ、ティッシュとって。」
「いいけど、ゴミ自分で捨てて。」
「ねえ、 「うるっさーーーーーーーい!!!お兄ちゃんいい加減にして!!」
そう。さっきから私に対して ”あれ取れ” ”これ取れ” などと構いまくっているのは私の兄だ。
史上最悪な年子の兄だ。白澤 京。(シロサワ キョウ)。
史上最悪と言うのは色々と
まあ、1番のムカつく所は妹になら何しても良い暇潰しするにはうってつけ。という考えだろうと私ですら推測出来るほど最悪な妹への扱いなのだ。
白澤 京。私達は年子だが厳密にいうと、兄が4月5日生まれで私が3月30日の早生まれなので年子なのはほんの数日間だけでほぼ1年間は2歳ばかり違う。
そんな兄は、私が切れるとニヤニヤしながら鼻をかんだティッシュを投げてくる。
「おりゃ...!」
「!!!」
ぶっちーん....。秘儀、末っ子の特権。
「おっかあさああああああああああああああああああああんん!!!!京君がティッシュ投げてきたあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
あまりにも大声なので兄は顔をしかめ、
「うるせ...!!」と一言
騒ぎにいつもの事だという父親には目もくれず、 おかーさーん!という私に
兄は終始ニヤニヤ。それがまた腹立つんだよ!
母親は
「 あんたうるさい。
京君もかなでチャンいじめないの。
かなでチャンが騒ぐから京君は面白がるの。
もうっ。」
ぐぅっ......。正論。
でも納得できない.....
「....おとーさん, 京君がいじわるするー...。わたしもういやだぁ...。」
「こらっ。京。お前もいい年だろう。高2にもなって妹に嫌がらせするなんて。まったく..。」
「!!!!!
ほらほら。
ほーら 京君ざまーみろ。」
その後はルンルン気分で食事を済ませ、心弾むままお皿を洗う。
よし!味方してくれたし、おとーさんに 夜食の三色団子を分けてあげよう。
「おかーさん、三色団子たべるー。」
「あれ?お父さんもってっちゃったよ?」
「!!!!!」
なんですと!!!
「おとーさん、だんg.....
「おとーさんじゃありません。
私は桃太郎。」
始まった.....。
お父さんとの団子をかけた桃太郎ごっこ。
そして思わずさっきまで喧嘩していた兄、京君を見る。
京君もどことなく、あちゃあ...。
といった何とも言えない表情だ。
我が白澤家には、串の団子やお饅頭が出たとき、必ずやる桃太郎ごっこというのがある。
「私は桃太郎。 鬼ヶ島に行くために、お供を探している。おい犬。仲間になるか?」
そういって団子を持ちながら問いかける父親。相手は我が家のお犬様。 マロちゃん。
余談だが、ペットショップに行くと【マロちゃん?? マロンからとったのかしら?とっても可愛らしいわねえ】 なんてよく言ってもらって得意げなマロちゃんだが、マロンじゃない。【麿】のほうだ。ある部分の特徴をとらえた名前だしマロにはぴったりだ。
親馬鹿ではないが、うちのマロは結構賢い。
指で合図した分だけ吠えるし、元気がないとひたすら寄ってくる。
それこそ殴り合いのけんかなんて始めればミニチュアダックスフンドの癖に短い足をてちてちと必死に使いながら我ら兄妹の間に入って仲裁をし始める。
まあ。大概その姿にフルフルと震えが出るくらい悶絶して、抱っこするのは僕が、私が。となり、当初の喧嘩はやむが また新たな喧嘩が勃発するというのもあった。
話を戻すが、まあ、お父様の手の合図に合わせワン!!っと吠えるマロちゃん。
ヨシヨシ。とマロの頭をなでながら満足げなお父様。
ここからが問題なのだ。
「京君、君は猿だね。
お供になるか?なるなら団子をあげよう。」
だめだくっそ笑える。
京君は猿。
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
笑う。
いかん。
なんども繰り返されてきたこのやり取り。小学校のときならわかる。
高校二年にもなって、桃太郎ごっこをしないともらえない団子。
しかも猿。
あかん。死にそうだ。
わらって死にそうだ。
小さいころはそりゃあ猿みたいに その辺駆け回っていたけれど、
今でもやっぱり猿は猿なんだねえと。
しみじみ思うと、また ふよふよと笑いがこみあげてくる。
しかも 要らないといえないお父様の圧力。
さすがあの母と結婚しただけあるよ。お父様。
「さあ、鳴け。」
「.......うっきっきー....。」
いかん。いつ聞いても 死にそうwww
だめだ。
「あっひゃっひゃっひゃwwwwww」
ひとりで笑い転げのたうちまわっていたら、お母さまの憐みを含んだ目が刺さる。
団子を分け与えてもらった猿はゲシッと私の足を蹴ると
「次は お前の番だぞ。」
と笑っていた。
満面の笑みで私に近づくお父様...。
「かなでちゃん。君はキジだ。
お供になるなら、団子をあげよう。」
「............ケーン..ケーン...」
「..................。」
「だんご......は....?」
「違うでしょ。かなでちゃん。 キジなんだよ。」
「........ケーンケーーーーン!!」
先程よりも大きな声で 手を羽根に見立て“ぱたぱた”させて言うと満面の笑みで団子をくれる父。
桃太郎ごっこ。
小さいころ団子が嬉しくて、
“鳥さーんぱたぱたー!!”
ってしたのに対し、味をしめたかのように毎回やらされるこのジェスチャー。
わたしだけ若干ハードル高いような..。
まって。今気づいちゃったけど。
お父さん、結構ドSじゃない....?
京くんもニヤニヤしてるし、
お父さんはマロにあげる予定の団子を自分でほおばりにこにこしている。
お母さんはまたか といったように 食後のコーヒーを飲んでいる。
そんな平和な白澤家。
まあ。一応入学式だったんだけどなあ。なんておもいつつ団子をほおばる。
まあ、特別変なこともなく、
いつもの日常に何処か嬉しく、ほっとする。
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