11 絡

 白い衣装の人にまんまと逃げ果(おお)され、数日後。

 ぼくのスマホにメールが届く。

 Crazy fairyという名の人からのメールで文字はなく、画像のみ添付されている。

 画像を開くと予想通り、ぼくが写した白い衣装の人の写真。

 白い衣装の人はCrazy fairyと名乗っているのか。

 それとも、ぼく宛のメールだけ、そうなっているのか。


 あのときぼくはカシャカシャと十枚以上撮ったはずだが、白い衣装の人が厳選し、送られて来たのは三枚だけ。

 すべてが整った絵だ。

 トリミングや色調整などは施したのだろうが、画像そのものの加工はない。

 つまり太っているのを痩せさせたりとか、目が小さいのを大きくしたりとかはされていない。

 ただ残念なことに白い衣装の人の画面全体に対する割合が少ない。

 それで表情が判別し難い。

 その分、白い衣装の人が背景に馴染み、写真としては良い出来になっている。

 妖精と墓場という組み合わせが異常だが……。


 あのときのぼくは白い衣装の人に渡されたデジタルカメラでズームアップなどをしていない。


 ……というより、する暇がなかったわけだが、そのように写していれば白い衣装の人は、ぼくが撮ったその写真を採用してくれただろうか。


 気になったので訊いてみる。


『前略 Crazy fairy様

 お写真をありがとうございました。とても綺麗に取れていると思います。

 ところで、あの日は余裕がなくてできませんでしたが、もしぼくがあなたのお顔のアップを撮っていたら採用してくれたでしょうか。お返事お待ちします。

 草草

 久世紘一より』


 簡単だが用件のみを記し、送信する。

 当然のようにCrazy fairyさんからの返信はない。

 ぼくの方も返事があるとは思っていない。

 それで翌日になり、返事が来たとき、あっ、と驚く。


『前略 久世紘一様

 ご質問にお答えします。

 綺麗に撮れていたら採用したかもしれませんが、わかりません。

 かしこ

 Crazy fairyより』


 けれども、ぼくが更に吃驚したのは次のメールが届いたとき。


『次の土曜日/朝六時/I中央公園/西見晴台』


 箇条書き過ぎるが、明らかな位置指定。

 ぼくに来いと言っているのだろうか。

 何度見ても、そうとしか思えない。

 メールを送るのをギリギリまで躊躇したのか、届いたのが金曜日の十時。

 前日から夏風邪気味で、明日の散歩はどうしようかと思案中のぼくが、さっと風呂に入り、そのまま寝ようかと考えていた頃合い。

 何故か気になりスマホを見なければ気づかず、明日の朝、寝坊したら水の泡。

 そう思うと、手が震える。

 白い衣装の人からの誘いなのだ。

 目的が何かわからないが、自ら会ってくれるというのだ。


 返事は簡単に『OK』とする。

 送信したが返信はない。

 白い衣装の人は、ぼくの知らない彼女の家の自室で既にぐっすり眠っているのだろうか。

 気は焦るが、PCを立ち上げ、場所を確認。

 地図に『西見晴台』とあるので、白い衣装の人がぼくに与えた情報が必要十分とわかる。

 ついで路線を調べ、出かける時間を決める。

 かなり早く家を出る必要がある。


 ……というか、最寄駅始発。


 実際には特急が一番早いが、乗り代えれば同じ。

 そこまで調べ、目覚まし時計をセット。

 あとは予定通り、さっと風呂に入り、眠るだけだ。


 白い衣装の人からメールが来るというショックが大きかったせいか、鼻風邪が消し飛んでいる。

 子供の頃なら、こんなときは寝付けないものだが、社会人として平日気を張り仕事をしていると、そうでもないらしい。

 すっと眠りに落ちる。

 翌日は目覚まし時計が鳴る前に目覚める。

 頭が少し痛いが、動けば治るだろう。

 そう思いつつ服を着替え、窓の外を見ると曇り。

 もしかしたら一雨来るかもしれないという感じだ。

 

 ……ということで、折り畳み傘を持ち、出発。


 白い衣装の人は、もう家を出ただろうか。

 無駄と知りつつ、スマホで連絡。

 すると着信拒否。

 相変わらず白い衣装の人が何を考えているのか、ぼくにはまるで見当もつかない。

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