10 確
白い衣装の人を写真撮影していた時間は五分ほど。
人の現れる時間が気になったのか、白い衣装の人から撮影終了の合図がぼくに送られる。
カメラを返すと白い衣装の人が緑白茶のリュックサックからスマホを出し、ぼくにメアドをくれ、という仕種。
それでメアドを交換。
「電話番号はいらないんですか」
ぼくが訊ねると、
(いらない)
と即答。
そこだけは元ノリの良い女性と白い衣装の人の共通点かもしれない、とぼくが思う。
が、その先が違う。
白い衣装の人がすぐさま、ぼくに、去れ……、という仕種を見せたからだ。
元ノリの良い女性だったら、そうはならないだろう。
が、そこは白い衣装の人のこと。
自分の方を振り返らず、静かに……、という注文まで付く。
仕方がないので、ぼくがその通りにする。
くるりと反対側を向き、数十歩を歩き、場所的に白い衣装の人の命令に従えない(進むと墓石に阻まれ、曲がるしかない)位置で振り返る。
当然のように白い衣装の人がいない。
まるで忍者のように消えている。
白い衣装の人は女性にしては大柄だというのに……。
あの場所からさっと隠れるとしたら、見たところ、数本の木しか候補がない。
木の先は白いコンクリート塀で、更にその先は民家。
角度を変えれば、雑草の生えた空地の先に金網があり、その先が道路。
白い衣装の人の脚が異常に速いのか、それとも本当に忍者、いや妖精なのか。
白い衣装の人本人がいないのだから、先ほどの場所に戻っても文句は言われないだろう。
そう考え、引き返す。
その場所に立ち、初めてわかるが、少し横に移動すれば大きな墓の後ろに隠れられる。
ぼくが進んだ方角からは死角となるのだ。
白い衣装の人消失のタネがわかり、ぼくは安心したのか、それともガッカリしたのか。
自分の気持ちが、今一つはっきりとしない。
ただ確実なことがある。
白い衣装の人にもう一度会いたいという、ぼくの心。
会えばまた奴隷のように命令を聞いてしまうかもしれないが、それも一興。
白い衣装の人の姿を追い駆ける決心をぼくがする。
一人のストーカーの誕生だ。
ぼくが自分に呆れつつ、行動を起こす。
が、どこを目指せば良いか見当がつかない。
またトイレを見張るか、それとも最寄駅に向かうか。
一応寺のトイレを探すが、行事がない日には解放されていないようだ。
木の柵で中に入れないように覆われている。
試しに近づいたが、中に人のいる気配がない。
それで、ぼくが引き返す。
入った山門から寺を出、最寄駅に向かう。
寺の周辺は民家が建ち込める住宅街なので隠れ場所がない。
が、一時的に敷地内を利用するならば隠れ場所は幾らでもある。
庭や車の手入れをしている家は選べないが……。
そんなことを考えながら、寺に隣接する民家前の道をぼくが進む。
まだ朝早いから、ぼく以外の通行人はいない。
その道を駆け抜け、広い道路に至る。
辺りを確認すると左手側に路面電車の踏切。
路面電車の線路に沿い、北に進めば、やがて非路面電車の駅に至る。
その駅を左折(正確には北西に移動)すれば路面電車の駅。
非路面電車は高架線路なので構内に入らなければ白い衣装の人がホームにいるかどうかわからない。
一方、路面電車のホームは近づけばすべてが見渡せる。
……ということで、まず路面電車の駅に向かう。
左右に分かたれた上下線両方のホームを確認する。
が、白い衣装の人の姿はない。
けれどもホームの先、道路の方に白茶リュックサックの背が見える。
慌てて向かおうとすると生憎の踏切待ち。
長い時間ではないが、ぼくが苛々しながら踏切を待つ。
やっと開いてみれば、先ほど見えた人の姿がない。
が、歩く道が何本もあるわけではない。
そう思い直し、追いかける。
見通しが良い場所に至ると白茶リュックサックの背が見える。
それで駆け寄るが、声をかける前に人違いだとわかる。
髪は長いが、そもそも女性ではない。
華奢な男性と数メートルの近さならば見て取れる。
それで引き返す。
前に、元ノリの良い女性でしたように、勢いで声をかけなくて良かったと安堵しつつ。
駅前まで戻り、四差路を探るが白い衣装の人の姿はない。
だから観念し、改札を抜ける。
エスカレーターに乗り、ホームまで……。
親戚の家を訪ねた帰りの習慣なのか、無意識に上りホームを選んでいる。
場所を変えつつ上下線のホームを探るが、白い衣装の人の姿はない。
程なく電車が来たので、ぼくが乗る。
電車のドアが閉まり、動き始めると不意に白い衣装の人が現れる。
柱の陰から現れたのだ。
ただし着ている服は白だが地味系。
頭には麦藁帽子。
顔にマスクをしており、また背が高いから白い衣装の人とわかったのだ。
地味系衣装の白い衣装の人が、ぼくにバイバイと両手を振る。
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