7 追

 数分後、舗装坂を昇り切る前、ぼくが目当ての女性に追いつく。


「済みません、あの……」


 勢い止まらず声をかけるが、その時点で人違いだとぼくが気づく。

 ぼくの上ずった声に女性が振り返り、胡散臭そうな視線を向ける。


「済みません。間違いでした」


 だからペコリと頭を下げ、ぼくが女性に非礼を詫びる。

 すると女性も胡散臭げな目つきを止める。


「誰か、お探しですか……」


「はい、あなたと似たようなリュックを背負った女性です」


「ああ、さっきまで、わたしの前を歩いていた人ですね」


「たぶん、そうです」


「あれ、って、わたしも思ったんですよ。同じリュックかもしれない、って」


「そうですか」


「ではこれも何かの縁ですから、お付き合いをして差し上げましょうか」


「はあ……」


「約束がチャラになって退屈していたんです」


「そうですか」


「面白そうだから、一緒に彼女の後を追いかけて良いですか」


「それは構いませんが……」


「では、そういたしましょう。そうと決まったからには急がないと……」


 ノリの良い女性がぼくの肩を押し、道を逆方向に向けさせる。


「さっ、走って……」


 ついで、ぼくを勢いづかせようと今度は強く肩を押す。

 それで決心し、ぼくが坂を下り、走り始める。

 初めはゆっくりとだが、ノリの良い女性がちゃんと付いてくるので速度を上げる。


「その昔、陸上部だったんですか」


「ご明察……」


「ぼくより脚が速いでしょうね」


「さあ、どうでしょうか」


 あっという間に公園出入口。


「いませんね」


「いないですね」


 見渡す先に白い衣装の人(三色リュックサックの人)の姿はない。


「駅に向かったと思いますか」


「さあ、どうでしょう」


 他に向かう当てもないので公園最寄駅を二人で目指す。

 その時点で、ぼくの息が上がり始める。

 ノリの良い女性は、まだ平気なようだ。

 三分ほど走り、四車線道路で信号待ち。

 信号を渡れば駅前通り。

 朝だから人通りは多くないが、それでも走れば危ないだろう。

 だから早歩き程度にスピードを落とす。

 やがて駅の改札前に至る。


「いませんね」


「そのようですね」


「電車に乗ったと思いますか」


「さあ。でも取り敢えず乗ってみましょうか」


「いいんですか」


「良いですよ」


「しかし申し訳ない」


「今日はずっと遊ぶ気でいましたから、全然構いません」


 ……ということになり、電車に乗る。


 けれども、上りか、下りか、判断材料がない。


「どちらにしましょうか」


「近い方にしてみましょう」


 ノリの良い女性は悩むことをしない。

 決断が遅いぼくから見ればスーパーウーマンだ。

 それで階段を昇り、下りホームに向かう。

 ホームに降り立ったところで、ぼくが下り側を、ノリの良い女性が昇り側を、それぞれ探る。

 もちろん白い衣装の人(三色リュックサックの人)の姿を確認するため。


「いませんね」


「こちらにも、いません」


 ぼくも、ノリの良い女性も白い衣装の人(三色リュックサックの人)の姿を発見できず。

 ついで上りホームも目視するが、やはりいない。


「これからどうしましょうか」


「電車に乗れば良いんじゃありませんか」


 二人でそんな会話をする。

 まるで十数年来の親友のようだ。

 電車が来るまで間があるので、ぼくとノリの良い女性が並んでベンチに座る。

 真面に顔を見るのは、そのときが初めてとぼくが気づく。

 ノリの良い女性はの顔は可愛らしい。

 美人ではないが、愛嬌があるタイプか。

 それでノリが良いのだから、彼女にするには最適かもしれない。


 ……と不埒にもぼくが思ったとき、白い衣装の人(三色リュックサックの人)の姿を上りホームに発見。

 それまで休憩室の中にいたらしく、見つけられなかったのだ。


「いましたよ」


「そのようですね」


「追いかけますよ」


「お供致しましょう」


 ぼくとノリの良い女性がすっくとベンチから立ち上がり、階段を隔てた上りホームに向かう。

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