回想 マムートの戦闘準備『超重戦車E-100Ⅱの戦い 前編 マムートの初陣 第13話』
■5月1日(火曜日)~3日(木曜日) ゲンティン駅 駅前広場
最外側の転輪と誘導輪(ゆうどうりん)をボルトで固定し、起動輪(きどうりん)の外側歯部も取り付けた。それから、狭幅(きょうふく)履帯(りたい)を外(はず)しながら戦闘用履帯を装着して行く。
ダブリスの説明では、転輪の直径は大きいマンホールの蓋(ふた)と同じ90㎝、重さは50㎏は有る。
転輪は両側で8個、誘導輪と起動輪が2個ずつ、200本以上のボルトで取り付けなければならない。
履帯の履板1枚は、鉄道輸送用の狭幅が長さ53㎝で重さ30㎏。
幅(はば)の広い戦闘走行用のは、長さ1mの重さ60㎏で、僕の体重より10㎏近くも重かった。
其(そ)の履板を1枚ずつ、グリスを塗(ぬ)りたくった鋼鉄製のピンをハンマーで叩(たた)き込みながら、90枚以上を連結させて片側分になる。
履板も砲弾と同じで、手足を潰(つぶ)しそうになる其(そ)の重さと数の多さに、頭も、身体もクラクラになってしまう。
戦闘用履帯への交換が済(す)むと、砲塔両側面の合計8箇所の対になった鍵(かぎ)フックへ、2枚で1セットに連結した戦闘用履板を引っ掛けて固定する。
重い戦闘用履板を掛ける作業は、砲塔に取り付けた簡易(かんい)クレーンを使っても、履板を通したピンを固定リブの孔位置と合わせるのに手間取って仕舞(しま)い、四人(よにん)がかりでも、思いの他の重労働になった。
砲塔側面に掛けた予備履板は増加装甲を兼(か)ねるそうだが、其の効果に、乗車したパンターが撃破された経験の有るメルキセデク・ハーゼ軍曹は首を傾(かし)げながら言う。
「まあ、大口径の徹甲弾には意味無しだが、鹵獲(ろかく)されたファストパトローネみたいな兵器や弾頭には、効果を失(うしな)わせて、装甲板まで貫通(かんつう)されないだろう」
(そうですよ、無いよりはマシです。気休(きやす)めになります。軍曹殿。……僕の横に増加装甲板にも付けて貰(もら)い、ありがとうございます)
対空警戒で見上げる空に飛行機の影が見えたり、空襲警報のサイレンや爆音が聞こえたりすると、急(いそ)いで使っていた工具と共にカモフラージュの枝の下へ潜(もぐ)って隠(かく)れる。
戦争の勝敗は既(すで)に決していて、最末期の現在、飛んで来る飛行機は赤い星マークのソ連機ばかりで、鉄十字マークのドイツ空軍は1機も見ていない。
上空に群(むら)がるソ連機は、ドイツ軍の陣地や車輌、それに、ドイツ人しか襲撃しない。
インフラの鉄道、橋梁、道路、発電所、送電の架線、残っている石油やガスのタンクなどの戦略施設は、占領後に使用する為に攻撃目標から外して破壊しないのだろう。
故(ゆえ)に、強力な抵抗戦力のマムートは最優先の攻撃対象になるが、鉄道駅の倉庫脇に隠れていれば、マムートと履帯交換作業はカモフラージュが見抜(みぬ)かれるか、我々搭乗員の動きを発見されない限り、攻撃されない。
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巷(ちまた)では、ドイツの全(すべ)ての物品、家も、田畑も、機械も、道路も、鉄道も、敵の手に渡って使われる前に、全てを破壊して燃(も)やす焦土(しょうど)戦術が、命令だか、奨励(しょうれい)だか、知らないけれど叫(さけ)ばれていた。だけど、もう、誰(だれ)も実行しない。
まだ、抵抗しなければならないけれど、どう足掻(あが)こうとも戦争は、もう直(す)ぐドイツ第3帝国の無条件降伏で終わる。
平和になれば、全ては、衣食住と産業再建に必要だ。
愚劣(ぐれつ)な指導者が実行させようとする愚劣(ぐれつ)で無駄(むだ)な命令よりも、真(しん)に実の有る未来にする為(ため)に行動しなければならない。
遣っ付けて世界の片隅へ追いやるのは、終戦後に自由なドイツになるはずの希望の未来を摘(つ)んで、再び、1党独裁政治で支配しようとするソビエト連邦だけでたくさんだ。
其の重さと量と早期の結果でしか評価しない共産主義に品質や研究への尊(とうと)びは無い。
東の非文明的で思考も習慣も違い過ぎて文盲(もんもう)の多い劣等な蛮族に投降するなんて、有り得ない。
そもそも、ロシアに文明なんて発祥(はっしょう)していないだろう。
ロシアのウクライナやモンゴルやシベリアやクリミアなどに、5000年以上も過去の超古代の遺跡(いせき)は存在しているのだろうか?
(底辺思想の皆(みんな)が平等を掲(かか)げる共産主義の社会で、息が詰(つ)まる生活の人生なんて、真(ま)っ平(ぴら)御免(ごめん)だ!)
全てに自由でチャンスが等(ひと)しく多い世界は不平等になる。
だからこそ、人は努力(どりょく)してチャンスを掴(つか)んで豊(ゆた)かになろうとするんだと思う。
多くの努力する苦しさを超(こ)えなければ、より良いチャンスに遭遇(そうぐう)する事は無いと、僕は考えていた。
(僕達は、リバティーとフリーダムを求(もと)めてエルベ川を西へ渡り、アメリカ軍に投降(とうこう)するんだ!)
何処(どこ)の国でも兵士の質はピンキリだけど、アメリカ軍は人道的な兵士が多いイメージだ。
そんな、アメリカ兵に出(で)逢(あ)える事を祈(いの)ろう。
ドイツの海洋進出を阻(はば)み、未(いま)だに封建(ほうけん)的な王政が続くイギリスや、中世からの確執(かくしつ)だらけのフランスよりも、エコノミックとデモクラシーの国、アメリカは自由民主への解放者の感じがした。
つづく
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