強引な誘い

 貴弘に呼び出された場所は、私達の住む街の歓楽街だった。


 既に陽が落ちた後で、ネオンを輝かせる店が立ち並ぶ中にある映画館の前に、貴弘がいた。


 仲の良い幼馴染の関係に戻れた後、二人で一度ここに、映画を観にきたことがある。


 二人の新しい想い出の場所だけど、今の私には、その時のことを思い返すような余裕はなかった。




「瑞貴、来てくれたんだな」


 壁に背を預けて立っていた貴弘が、私の姿を見て、身体を起こした。


「貴弘……藤山さんのこと、ほんとになんとも思ってないの?」


「ああ。俺が好きなのは、瑞貴だけだ。そう言ったろ?」


「……うん」


「分かってくれてよかったよ。それじゃあ、これから仲直りのための儀式をしよう。場所変えるぞ」


「どこに行くつもりなの?」


「いいところだよ。俺が、お前のことを本当に好きだってことを、分からせてやるから」


 貴弘はそう言うと、私の手を握って歩き出した。



 私は、貴弘に手を引かれながら、夜の歓楽街を歩いた。


 立ち寄ったことのないそこには、大人になってからしか入れないお店も、たくさん並んでいた。


 どこか気恥ずかしくって、私が顔を俯かせて歩いていると、貴弘が、突然その足を止めた。


 顔を上げると、そこには、ピンク色のネオンを輝かせたホテルがあった。



 でも、どう見ても普通のホテルとは違う。



 ここって……?



「……貴弘、ここって……もしかして、ラブホテル?」



 貴弘は、何も答えないまま、私の手を引いて、その店内に入ろうとする。



「ちょっと……ヤダ!!」




 私は、貴弘に掴まれている手を必死に振り解いて、その場から走って逃げ出した。


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