傷心のままに

 翌日。朝食を摂った私達は、旅館をチェックアウトして、帰路に就いた。


 バスや電車を乗り継いで、自分たちの住む街に着いたのは、正午を少し回った頃だった。




「楽しい旅行だったよね」


 駅前の広場で、麻衣が皆に言った。皆、構内で買ってきた缶ジュースを手にしている。


「満足したか?」


 と正樹。


「大満足!! ……って程じゃないけどね。あんまり正樹を煽てると、調子に乗っちゃうから、やや満足くらいにしておくよ」


「素直に大満足って言っとけよ。貴弘はどうだった?」


「楽しかったよ」


「そうか。そりゃ良かった」


「私は、絶叫マシーンとかがある、遊園地とかの方がよかったかなぁ。でも、まああれはあれで結構楽しめたかな。貴弘とも仲良くなれたしね」


 莉子はそう言うと、貴弘にウインクして見せた。


 正樹は、それを見て苦笑いしながら、


「瑞貴はどうだった?」


「……うん……楽しかった……」


 絞り出すような声しか出なかった。


「なんだ? なんか元気がないな」


「大丈夫? 朝からなんか調子悪いみたいだし、風邪引いたわけじゃないと思う、っては言ってたけど……」


 そんな私を心配する麻衣。


「……ちょっと頭痛がするだけだから、大丈夫」


「丁度お昼時だから、これから皆で、どっかレストランにでも行こうかと思ってたんだけどな。瑞貴が調子悪いんだったら、やめとくか?」


 正樹が尋ねた。


「レストランって、正樹の奢り?」


 と麻衣。


「俺が半額負担してやるのは、旅行中だけの約束だったろ。それは別だ」


「え~、正樹のケチ」


 麻衣が不満そうに口を尖らせる。


「ごめん……悪いけど私、家に帰って休むことにする……」


 そんな気分じゃない。楽しくやれそうにない。断るしかなかった。


「瑞貴が行かないんだったら、俺もやめとくよ」


 と貴弘。


「正樹が奢ってくれるわけでもないし、私もパ~ス」


 麻衣が続く。


「貴弘が行かないんだったら、私もパ~ス」


 莉子が、麻衣の口調を真似るようにして続く。



 結局、そこでお開きということになって、私達は、それぞれ自宅に戻った。



 家路に就く私の足取りは、重かった。



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