裏切り

 あまり長い間湯船に浸かっていたわけじゃないんだろうけれど、貴弘にあんな言葉をかけられたせいか、身体がとても火照っているみたいだ。


 冷たいものが飲みたくなって、私は休憩所に行くことにした。


 廊下を歩いていると、先に見える休憩所の入り口から、明かりが漏れているのが見えた。


 室内から、男女の話し声も漏れて聞こえてきた。



 貴弘と……多分、莉子の声だ。


 

 莉子も途中で目が覚めて、飲み物を買いに休憩所に来て、風呂上がりの貴弘と会ったのかな……?



 私は、休憩所の前に来ると、入り口の横で、隠れるようにしながら、室内を覗き見た。


 別に、普通に二人の前に現れてもよかったんだけれど、なにか嫌な胸騒ぎみたいなものを感じて、ついそうしてしまった。



 休憩所の中を覗き見て、私は、思わず自分の目を疑った。



 思いも寄らなかった光景――



 莉子が、貴弘の背中に両腕を回して、その顔に、唇を近づけようとしていた。



 火照っていた身体から、一気に熱が引いていった。



 私は、すぐに目を逸らし、逃げるようにそこを離れると、急いで部屋に戻って、布団に包まった。



 貴弘……さっき私に言ったあの言葉は、嘘だったの……?  


 貴弘って、そんなに軽い人だったの……?


 女の子だったら、誰でもよかったの……?


 裏切られた……私だけを想ってくれてるわけじゃなかったんだ……


 さっきみたいな言葉も、私以外の女の子達にも言ってるんだ……



 幸せだった気持ちから一転、辛さに押し潰されそうだった。



 胸が締め付けられるような思いをしながら、布団の中に包まっていると、貴弘と莉子が部屋に戻って来た。


 二人は、何事もなかったように、それぞれの布団に包まった。



 知らないうちに流れ出ていた涙が、枕を濡らしていた。



 浮かんでくる色んな感情に、胸を締めつけられながら、もう一度眠ることはできずに、そのまま朝を迎えた。


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