裏切り
あまり長い間湯船に浸かっていたわけじゃないんだろうけれど、貴弘にあんな言葉をかけられたせいか、身体がとても火照っているみたいだ。
冷たいものが飲みたくなって、私は休憩所に行くことにした。
廊下を歩いていると、先に見える休憩所の入り口から、明かりが漏れているのが見えた。
室内から、男女の話し声も漏れて聞こえてきた。
貴弘と……多分、莉子の声だ。
莉子も途中で目が覚めて、飲み物を買いに休憩所に来て、風呂上がりの貴弘と会ったのかな……?
私は、休憩所の前に来ると、入り口の横で、隠れるようにしながら、室内を覗き見た。
別に、普通に二人の前に現れてもよかったんだけれど、なにか嫌な胸騒ぎみたいなものを感じて、ついそうしてしまった。
休憩所の中を覗き見て、私は、思わず自分の目を疑った。
思いも寄らなかった光景――
莉子が、貴弘の背中に両腕を回して、その顔に、唇を近づけようとしていた。
火照っていた身体から、一気に熱が引いていった。
私は、すぐに目を逸らし、逃げるようにそこを離れると、急いで部屋に戻って、布団に包まった。
貴弘……さっき私に言ったあの言葉は、嘘だったの……?
貴弘って、そんなに軽い人だったの……?
女の子だったら、誰でもよかったの……?
裏切られた……私だけを想ってくれてるわけじゃなかったんだ……
さっきみたいな言葉も、私以外の女の子達にも言ってるんだ……
幸せだった気持ちから一転、辛さに押し潰されそうだった。
胸が締め付けられるような思いをしながら、布団の中に包まっていると、貴弘と莉子が部屋に戻って来た。
二人は、何事もなかったように、それぞれの布団に包まった。
知らないうちに流れ出ていた涙が、枕を濡らしていた。
浮かんでくる色んな感情に、胸を締めつけられながら、もう一度眠ることはできずに、そのまま朝を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます