怪しげな人物

 私が、貴弘の家の近くまで来た時、道路端の電柱の陰で、誰かが、デジカメを片手に、こそこそと隠れるようにしながら、何か撮影をしているのを見かけた。


 怪しげな人がいると思って、目を合わせないように顔を俯かせながら、素早く横を通り抜けようとしたら、その怪しげな人が履いているジーンズのポケットから、見慣れたVネックギターのストラップがちらりと覗いた。


 盗み見るように横顔を見て、そうだって確信した私は、


「正樹でしょ? こんなところでなにしてるの?」

 

 後ろから近付いた私が、そう声をかけると、ビクッ、と身体を震わせてから、はっと振り向いて、


「……なんだ、瑞貴かよ……驚かせんな」


 とため息を零れさせた。


 ヘアスタイルが乱れるからって、普段は帽子を被ろうとしないはずなのに、薄手のサマーニットを被っている。目元を隠すくらい深く被ってるから、最初に見た時は、正樹って気づかなかった。



「デジカメなんか持って、何撮ってたの?」


 正樹が、デジカメのファインダーを向けていたのは、私がこれから行く貴弘の家みたいに見えた。


「ああ、これか……最近俺、写真に凝っててさ。そのうちブログでも始めて、写真を載っけちゃったりしようかなー、なんて、考えちゃったりしてるわけだよ」


「正樹が写真?」


 意外だった。イメージにまるで合わない。


「……悪いかよ。どうせ、似合わない、って言いたいんだろ?」


 不満げな正樹。


「そうじゃないけど……」


 本音をつかれたけれど、はっきり言うのも申し訳ない。麻衣だったらここで、大爆笑しながら、馬鹿にしたりからかったりするんだろうけれど。


「写真なら、こんな何もない住宅街なんかより、もっと景色が良いところとか、観光スポットの方が、いいんじゃないの?」


「分かってないなぁ。こういう、ありふれた日常ってのが、逆に新鮮でウケるんじゃないか」


 写真通みたいな言い方だけど、それを正樹が言うから、余計可笑しく感じる。


「……お前、もしかして、笑うの堪えてないか? なんかさっきから、口元がぴくぴくしてるぞ?」


「そ、そんなことないよ」


 今にも吹き出しそうでいるのがばれないように、私は、話題を変えようと、


「貴弘の家映してたみたいだけど、貴弘はそのこと知ってるの? ブログに載せるつもりだったら、たくさんの人がそれを見ることになるわけでしょ? 一言断っておいた方がいいと思うけど」


「細かいこと言うなよ。俺と貴弘の仲なんだぜ。そんな必要ないだろ? それに俺は、家の中まで写してたわけじゃないんだからな。プライベートに触れてるわけじゃねーの」


 それ以上追求されるのを避けるように、正樹は会話をそこで切ると、


「それじゃあ、俺この後友達と約束してるから、もう行くぜ」



 そそくさとしながら、その場を立ち去って行った。



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