結局、一切謎解きについては進んでいないのだ。もはや原点。


 「Sei」の指定する20日の21時まではあと24時間以上あるのだ。別にそれほど慌てる必要もないだろうと考えていた。

 のだが、目の前の少女がそんな考えを許すはずもなく、


「後でいいや、っていうのはダメ人間の典型的な考えだって聞いた」

「誰にだよ……」


 誰だよ、こんな親みたいな説教をこの小学生に吹き込んだのは。


「頭は悪くないんだから、捻くれた事ばっかり言わないでさっさとやればいいのに」

「お前こそ誘拐されてるとか言いつつ、自由に動き回ってるんだから、さっさと帰ればいいのに……」

「何か文句でも?」

「……いえ、別に」


 そもそも、この源の存在にも無理があると思う。

 アスタリスクの知り合いだというこの少女は、毎日どこで飯を食い、どこで寝泊まりしているのだろうか。学校には行っているのだろうか。親はどうしているのだろうか。


 深く考えれば考えるほど、なんとも非現実的な存在なのだ、この少女は。大人びた発言と言い、いっそのことこんな人型ロボットがついに誕生したんです! と言ってくれた方が、現実感がある。


 服装は、ベージュ色のワンピース。これ以外の服装を見たことがない。本当にどういう暮らしをしているのだろうか。

 可能性として考えられるのは、本当にアスタリスクに誘拐されており、衣食住を基本的にはアスタリスクに養ってもらっているパターン。だが、それなら目の前にいる少女はこんな茶番をしないで、さっさと交番にでも行けばいいのだ。


 もしかすると、この状況を近くでアスタリスクが見ており、源が逃げようものならそれを捉えようと待ち構えているのかもしれない。その可能性を考え、辺りを見回したことはあるが、人の気配はない。


 だがそもそもそうだとしたら、アスタリスクはなぜ直接に俺に接触してこないのか。こんな少女を通して俺を唆そうだなんて手の込んだことをする意味は一体何なのか。


 この少女がアスタリスクの手先だとするのなら、アスタリスクは俺のことを知っていて、俺にこんな無駄な謎解きを行なわせたい人物、ということになる。そんな人物に心当たりがあるわけがない。俺のことを知っている人物なんて限られるし。親とかその辺だけだ。


 アスタリスクの正体と目的も分からないが、この少女も少女で分からない。


 本名を名乗らなかったため検索はかけ辛かったが、服装が変わらないので、そんな特徴を持った子供が誘拐されたということがないか、調べてみたことがある。こんな小学生が行方不明になったとなれば、ニュースになっていてもおかしくはないからだ。

 だが、それもヒットはせず、この少女が本当に誘拐されているかどうかは分からない、という結果だった。


 じゃあ、もう一つ考えられることがある。

 この子は、アスタリスクの娘、だという可能性だ。


 アスタリスクが男性なのか、女性なのかということすら分からない。もちろん年齢も分からないので、アスタリスクに子供がいるかどうかなど分かるはずもない。だが、誘拐という線が薄れている中、考えられる可能性のうちの一つであることは間違いない。


 どちらにしても残る疑問は、なぜアスタリスクはこんな手の込んだことをしてまで、俺に接触しようとしたのか、ということだ。


 今の段階では何も分からない。だから、少しずつでも源に探りを入れるのである。


「……さっきから黙ってるけど何? また変なことでも考えてるの? そんなこと考えてるヒマがあるのなら、さっさと謎解きしろ、この役立たず」


 ……まあほとんどが不発に終わってるのだが。この力関係、どうにかならないのかなぁ。


「大体、なんで君はこんな対立を生もうとしてるのさ。それとも、それもアスタリスクの指示なのか?」

「私がやってることの目的を清盛に教える必要はないでしょ。別にそんなに興味はない癖に」


 興味がないことはないのだが、まあ積極的に関わろうとは思わないという点では合ってるいる。


「だけどさ、あまり無意味なことをしたいとも思わないわけで」

「意味はあるでしょ。保身っていう意味が」

「君は本当に難しくて嫌な言葉を知ってるよねぇ……」

「分かったなら謎解き、帰ってさっさと始めるんだね」

「でもさ、この謎ぶっちゃけ難しいんだよね……。今までのやつより難解だからよ。お前、何か知らないのか?」


 駄目元で聞いてみるが、予想通り呆れた目線を俺に向けてくる。


「そのくらい自分で考えてよ。ほら、ちょうど二人に増えたじゃん、人が。よかったね」


 よくねえよ。俺のことを舐めんなよ。人をどう頼ればいいのかよく分かんねえんだよ。だから、まっしろさんのこともどう扱えばいいのか分からん。とりあえずからかっておこうという考えが先行する。


「帰る」

「それがいいよ」


 ……はあ、やっぱり人付き合いなんて余計な気苦労を増やすだけの無駄な取り組みだ。俺はそう思いつつ、重い足取りを家へと向けるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

六等星のトライアングル 西進 @ykp-sugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ