4-1

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴るのとほぼ同時に俺は、二つの問題の種を潰す「武器」を整えた。この五十分間は非常にはかどった。

 昼食の時間だ。頭を使ったので余計に腹が減っている。購買にパンでも買いに行くか……、と財布を持って教室を出ようとすると、俺の視界後方から見慣れた顔がひょこっと現れる。


「何か買いに行くの?」


 絢星だった。久しぶりに声を掛けられたような気もする。


「ん、ああ。ちょっと購買にな」

「じゃ、私も行こーっと」


 絶対何かおごらせる気なのだろうことは分かっていたが、今に始まったことではないので言わないでおく。


「何か用か?」


 単刀直入に聞く。回りくどいのは面倒だ。

 だが、絢星は少し不服そうに口を尖らせて言った。


「用がないと声をかけちゃいかんのですか」

「何だよその口調……」


 しかしまあ、俺の聞き方もぶっきらぼう過ぎたか。


「その、まあなんだ……、ごめんって」


 言うとプッ、と小さく吹き出す。


「素直でよろしい」

「……で、用はないんだな?」


 言い方からして、特に用はない(おごりを除く)のかと思ったのだったが、随分とあっけらかんとした口調で絢星は言う。


「いや、あるよー」

「お前……」


 あるならあると言え。無駄に謝っちゃったじゃないか。


「いやいや、さっきの授業の時の青の集中力、すごいなと思って。悪い意味で」


 最後に付け足された一言が気になるのだが。


「あれは……、考え事だ」


 大雑把に言うと、それで合っている。


「だけどそんなに表情に出てたか?」

「出てた出てた。めっちゃくちゃ険しい顔してた。人でも殺しそうな顔。何なら殺人計画でも立ててるのかと思った」


 いやそんなわけあるかい、と関西人ばりにツッコミを入れられたらいいのだが、如何せん俺は生粋の道民である。精々呆れ顔ぐらいしか返すことはできない。


「でまあ、冗談はさておいて……。考えてたのは例の件かな?」


 絢星の言う「例の件」が何を指しているのか、瞬時には分からなかった。実際、あの間に俺が考えていたのは二つのことなのだ。

 だけどまあ、何かワクワクとした目つきで俺のことを見ている感じからすると、どうやら「あちら」の事情について聞きたいのだろう。


「お前の言う例の件が俺の考える例の件と一致しているのなら、それだ」

「ややこしい……」

「お前がややこしくしたんだろうが」

「はいはい、で、分かったの? アスタリスクの謎」


 まあ結果的に俺の考える「例の件」と絢星の言う「例の件」は一致したのだから問題はないだろう。

 二つ目の謎がアスタリスクから届いた際、絢星にもその謎を見せていたのだ。彼女にそれを解く気はないようだったが、どうやら結果は気になるようだ。


「……まあ、今の時間で解けたぞ」

「ほほう?」


 実際、本当に簡単な謎だったのだ。というより最初のものとほぼ同じのなぞなぞみたいな物だった。答えが分かってしまえば本当に単純。


「聞くか?」

「そうだねー、でもその謎解きは」


 そこで言葉を切ると、絢星はたった今目の前に現れた購買に向かって駆け出しながら言う。


「ランチの後で、だね!」


 それはどっかで聞いたことがあるぞ……。

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