島根編2
スクールバスは学校へと到着し、鞄を持った生徒たちがいそいそと自分たちの教室に向かってその歩みを速めている。私はというと、特に急ぐわけでもなくのんびりと教室へと向かっていった。
そんなに慌てたってちょっとした時間変わらないっていうのに。私は
「うっす風間、今日も眠そうじゃの」
と、足早に通りすぎていく方言丸出しの男子高生に声をかけられる。「おーす」なんて言いながら挨拶を返すが聞こえてるか分からない。大体別に眠くないし。ていうか今の奴誰だったんだろ、名前忘れた。
私に親友と呼べるような友達はいない、はず。まあ友達らしき人達なら沢山いるし、そこそこ人付き合いも悪くないつもりだ。だけど何故か私に声を掛けてくるのは男子が多い。女子なんて私から声を掛けないと基本的には話すことなんてない。
そうか、男友達ばっかなのか、私。なんか私の青春、ただれてるな……。
自分自身の境遇にげんなりしながらも教室へと向かっていく。教室に行くまでも、教室に入ってからも朝特有の
教室に入ると、違和感を覚えた。
いつも私は後ろの扉から教室に入るのだが、入った瞬間に今まではなかった机がそこにあって思わずつんのめる。
クラスの人数上、ここには机がなかったはずなのだ。だから後ろの扉から入っても広々とした空間に包まれている。
だが、そこに机はある。これはどういうことか、と思った所で数日前の担任教諭の言葉を思い出した。
そういや、転校生くるとか言ってたな。
自分で思い出しておいて自分で気分を害する。あるじゃん、刺激。あんなクソみたいなメールに心惹かれるよりもっと楽しめそうなイベントがあった。
なーんで忘れてたんだろ。私は記憶を辿り辿って一つの原因に思い当たる。女子だ。女子だから、そこまで興味がなかったんだ。
いや、ちょっと待った。それだけだと私が男子を転がすクソビッチみたいじゃん。違う、それは誤解です。そうじゃなくて、要するにさっき言った通り、話しやすいのはどっちかというと男子なのだ。
それに、転校してきた女子に積極的に絡んでいくなんてガラでもないし、よく考えればこんなド田舎学校に転校してくる子なんてちょっと胡散臭さすら覚える。前の学校に居辛くなって田舎の外れの学校に移ってくるとかいう「訳アリ」かもしれないと邪推してしまう。
そんなこんなで転校生に興味が薄れるのとほぼ同時期にあの謎メールが届いたのだ。まあ自分でもあんなメールに興味を惹かれてしまったのもおかしいとは思うが、転校生のことが頭から薄れてしまっていたのは確かだ。
ま、どっちの出来事も私の日常を決定的に変えるような刺激になるようなことはなさそうだ。
そういう風に思いながら、適当に級友と挨拶を交わして自身の席につく。そうこうしているうちにホームルームが始まる。
担任教師が入ってくるのと同じくして、一人の女子が教室へと入ってきた。例の転校生だろう。
おっ、というざわめきと共に男子が少し色めきだつ。
へぇ、と私は頬杖をつきながら思った。案外、可愛いじゃん。先ほどのように考えていたこともあって、失礼ながらもっと根暗なのをイメージしてたのだが、そうでもなさそうだ。
ほわほわ、とした印象が第一。目もぱっちりくりくりとしていて何というか小動物系とかいうカテゴリーを思い出した。
……てかおい、胸でかいなおい。
頬杖をつきながら、思わず自分の胸元を眺める。容姿、性格共に整っている私において最大かつ致命的な欠陥がこの箇所なのだ。いや、スレンダーっていうキャラだから仕方ないかな! いや、まだ成長の余地はあるしね!
しかし、そんな色んな意味でちっぽけな劣等感を一掃する言葉が担任教師より発せられたのだ。
「おいお前ら、女子だからって騒ぐのは分かるが……、一旦話を聞け。いいか、今日からこのクラスで一緒に過ごすことになる
……って、へ?
東京?
思わず顔を上げる。あの小動物系巨乳がさらに都会っ子という属性を手に入れただと?
いかん、急に
いや、違う。考えろ、考えるのよ、真白。都会の激しい権力闘争に敗れ、仕方なくこの地域に敗走した落武者かもしれない。いや、親の都合って言ってたな。あれか、親がどうしようもない大左遷を食らったのかもしれない。……どうしたってマイナス属性をつけたがっている自分が段々悲しくなってきた。
いや、それでもだ。それでも私の恐れていたことが起こってしまったのだから仕方ない。
そんな私の動揺などいざ知らず、転校生は明るくよく通った声で言い放つ。
「今日からこの学校に通います、藤巻真珠です! えと、分からないことも多いけど、色々教えてください! よろしくお願いします!」
そう言ってペコリとお辞儀をする。うむ、掴みはバッチリだ。クラスから割れんばかりの拍手が鳴り響いた。どこかから指笛も聞こえる。
これ以上ない出だしだ。誰だよ、落武者とか言ったの。
……いや、それじゃ
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