北海道編2
「何?」
顔を上げると、両手を腰に当てて俺のことを見下ろす幼馴染と目が合う。
「いつまで不貞寝してるの。そんなことしたって何も変わらないってのに」
「別に不貞寝とかじゃないさ。頭がちょっと痛かったんだよ」
思考があっちこっちに行って収拾がつかず、頭がチクリと痛んだというその点に関しては間違っていない。
「ふーん……、それにしては何か不満気な顔してるよね。まあ青はいつも難しそうな顔してるけど」
「ほっとけ」
俺は目を逸らしながら言う。そんなことを言いに来たのならさっさと席に戻ってほしいというその意思を表明する意味もあった。
しかし我が幼馴染は、それに気づかないのか気にしていないのか分からないがなおも言葉を続ける。
「で、何があったの。会長選のことじゃないならそんなに考え込んでるのもおかしいじゃない」
幼馴染は世話焼きだというのは創作の世界だけの話だと思っていたのだが、実際目の前にいるこの少女――
いわゆるお姉さん気質というのか、そういうのが絢星にはある。実際、所属している剣道部でも後輩によく慕われている、という話を聞いたことがある。
端正な顔つきに長い髪を一つに括ってポニーテールにした髪型。俺がもし女なら惚れていたかもしれない。女なら。
現実問題、俺は男なのだ。だとしたらただのお節介だ。この女は。
「関係ないだろ、絢星には」
言うと、キュッ、と口を真一文字に結ばれるのが見える。あ、これはマズイと直感的に思った時には既に遅し。
「……あのさぁ、私は心配してるんだけど。ていうか、関係ないって何よ。やっぱり何かあったってことじゃん。まあ、会長選のこと以外で何か悩んでるってことはそっちのことはもう吹っ切れたってことだし、その点に関しては少し安心してるんだけど」
どっちだよ。安心してるのか心配してるのかはっきりしてほしい。
だがこうやって、怒鳴り倒すわけでも
「……そんなに顔に出てたか」
「うーん? まあ他の人が見ても分からないかもだけど、私には通用しないってこと。
コイツ……、俺の痛い所を何事もないかのように突っついてきやがって……。
しかし、俺にとってはタブーとも言えるこの過去を笑い話としてあっさりぶち込んでくることができるのは、絢星だけだ。そして、そのお陰で俺は救われてきたという点も否めない。
だから、どれだけコイツが俺の禁忌に軽々しく踏み込んできても何も言うつもりはない。むしろ、それをいつか俺自身も笑い話とできるとするのなら、コイツの力を借りずしてはできないのだろう。
「……分かったよ。絶対笑うなよ」
「うん笑わない笑わない」
そう言いつつ、微妙に既に笑いそうな顔をしているのは何故だ。
俺は少し不安に思いつつも、スマホの画面を明るくし、例のメールを開く。
「こんなメールが届いたんだ」
そして俺はそれを絢星の方に向ける。身を
そして
「青……、ごめん、これ笑う、絶対笑っちゃう」
……まあ、そうなるよな。あまりにもくだらなさすぎて、笑いしか込み上げてこない気持ちも分かる。分かるのだが、さっきの自分の言葉を簡単に覆しすぎだろ。
「大体さ、何これ。こんななぞなぞみたいなのに答えたら願い事が叶うって……、今時こんなのに引っ掛かる人、いないでしょ」
「……だけど、よく分からない点もある」
こんなメールで少し頭を使ってしまったのだ。不可解に思った点ぐらいは述べておかないと、俺がただの間抜けみたいになってしまう。
「お前の言う通り、まずこんなのに引っかかる奴なんてそうはいない。だけど逆に、こんなのに引っかかる奴なんていないのにここまで手の込んだメールを送る意味は何だ?」
絢星の言うことはもっともだ。だけど、あまりにも稚拙すぎて逆に不審すぎるのだ。
「まあ、送った人がそこまで考えずに送ったんじゃない?」
絢星があっけらかんとした様子で言う。確かに普通はそれで済ませるような問題だ。
だけど、俺が不可解に思った点はまだある。
「それだけじゃない。もう一つはこのなぞなぞみたいな問題がある点だ。こんなものを付けたら、返信者を減らしてしまうだけだ。なのにどうしてこんなものを付けたのか?」
要するに、チェーンメールのそもそもの目的と異なってしまうのだ。チェーンメールというのは、多数の人間に送信されてこそ意味を成す、というのも変な言い方だが、目的を遂行できるということだ。
おそらく俺の個人情報はどこかから漏れてしまったのだろう。それは逆に言うと、この「アスタリスク」は俺の個人情報をどうにかして手に入れることができたということでもある。その貴重な個人情報を無視されることが濃厚なこんなメールに使ってしまうのは、これも変な言い方だが、
このメールが不特定多数の人物に送られているのならなおさらだ。それだけの個人情報を入手しておいて、その程度のメールを送ってしまうのか?
「受け取った人の興味をそそることはできるけど、数は期待できないってことか。確かにこのなぞなぞ、意味がよく分からないもんね。大体、何曜日にってどういう意味なのやらさっぱり。星くんって言うからには星に関係してるってことくらいは分かるんだけどさ」
意外にも絢星はこのなぞなぞの意味にまで思いを巡らせていたようだった。なんだかんだ言って一応きちんと話は聞いてくれているのだ。
「こんなのパッ、と答えが分かる人間も少ないよね。まあでも」
絢星はそこで言葉を切り、俺の目を見て、ずいっと詰め寄る。
「青、あなたは答え、分かってるんでしょう?」
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