ニケアが迫る選択肢

 オレ達は外にでた。


 ところどころ、瓦礫の重なる荒廃したバレンヌシアの町並み。

 その中で、しぜん、アステマと対峙する形となった。


「ダイスケそこをどいて。どかないと、あたしのグラミで焼くよ」


 グラミ。アステマの得意な炎系の中位魔法だ。グラゾーマではないところをみると、まだ本調子ではないようだ。威力が低い順からグラ→グラミ→グラゾーマだったっけ。オレに魔力の大半を渡したから……。


「そうはさせません。……ふふ、グラミていどでニケに通用するとでも? グラゾーマ……いえ、『グラゾーマフェニックス』で、こないんですか?」


「クッ。たしかにね。残念だけど……いまのあたしには、そこまでの魔力はない」


「じゃあ、後日にしたらどうですか? 魔力の回復をまって、そうですね、寝込みを襲うとか」


「あたしをよく解っているじゃない。……でも。いまやらないと、あたしの気持ちが収まらない!!」


「らしくないですよ、アステマさん……」


「そうかもね……」


「どうしても、逃げないんですか?」


「いまさら…………、どこに退くっていうんだ!」


「ダイスケさんをとられたのが、そんなに悔しいんですか? 悔しいですよね?」


「ちょ……ニケア」さすがに止めに入るオレ。


「……わかってます。でも、さがっていてください。これはニケと……アステマさんの、問題なんです」

 何人たりとも、割り込むのはゆるさないといった厳とした様子。


 ボシュ。


 ――キィン。


 隙をみて放たれたアステマのグラミを、すばやく張った片手の氷結晶シールドで弾くエルフ少女。


「でも! ……ニケも悔しいんです!!」


「は? なんのこと!」ボシュ。もう片方の手にあったグラミもニケアに放たれた。



 😈



 ――30分は経っただろう。


 空を飛び、地形を生かしつつ、巧みに炎魔法攻撃を仕掛けるアステマ。

 ときにはかわし。ときには氷結晶シールドでそれを防ぐニケア。全力といったアステマとは対照的に、どこか余力を感じさせる。


 オレは何度も止めようとしているが、そのタイミングが掴めない。


 そして、ついに。ニケアの放った氷魔法がアステマを捉えた。

 飛び回っているアステマの下半身を氷が包み込む。飛びきれなくなり――ドシャ。という音をたて、地面に落ちるアステマ。

 衝撃で氷は砕けたが、よろよろといった様子で立ちあがろうとする、もともと本調子ではなかった、魔力も体力も限界なのだろう。その前に、ニケアが迫る。


「ニケ……あんた。なぜ……魔装化しない」


「……。いまのアステマさんには、不要だからです」そういい、ニケアは完全に間合いに捉えている氷剣の剣先を、アステマに向けた。


「は、なめられたもんだね。完敗か。あたしも……ここまでか。でも、もうどうでもいいや……。いろいろと。つかれた」観念したアステマ。どこかすっきりとした表情で、両手をだらんとさげて恭順の姿勢をとった。


 ……もう、ここしかない! 全力で駆け、オレはアステマを庇うように割り込んだ。


「ニケア! それ以上は、よせ」


 オレは間に入りリボルバーの銃口を、ニケア――愛する者の頭部に向ける。確実に制止するのに、こうするしか思い浮かばなかった。


「ダイスケさん……その行為の意味がわかってますか?」


 深さをたたえる碧い瞳にさらされて、汗が滲む。銃を滑り落としそうになるぐらいに掌にあふれる。


「わかっている……。わかっているさ」情けないほどに、銃口がブルブル震えている。こんなことはしたくはない「もう止そう。な? ニケア」


「止めないといったら?」切っ先をアステマの喉元に近づける。


「――ッ。オレは本気だ、ニケア! 止めろ!」額を伝う汗がぼたりと落ち、地面をぬらした。


「ダイスケさんは、ニケのこと。愛してくれているんじゃないんですか?」


「……愛して。いる」口を動かす度に、ぼたりぼたりと液体が滴る。


「そう。なら…………」


「なら?」


「……どちらかえらんでください」


「どういう意味だ?」


「ニケか……アステマさんか。この場で、どちらかを選択するということです」


「ふ……なにをいまさら、そんなの決まっているじゃない……あたしに止めを刺すまえに、恥をかかせるつもり?」


「アステマさんは黙って!!!!」


 怒声。ニケアのこんな声、オレはきいたことが無い。


「そうですね。ダイスケさん。こうしましょう。その手の武器で……どちらかを……」そういい、手の氷剣を解くニケア。そのままアステマの隣に移動した。


「……!?」

 わかっている。オレにはニケアの言葉の意味が、嫌と言うほど……わかっている。


「やるべきことをやる。そういうことですよ。ダイスケさん自身が、その手で決めるんです」


「キャハハ。あたしより、いい性格しているよあんた。どうせニケ――」


「黙れって、いっている!!」オレを睨みながら、再度の怒声。どうしたのだろう? 感情的なんだけど、どこか哀しそうな……。消え入りそうな……。



 そうして、ニケアとアステマの2人が、オレに向き合う形となった。



「簡単な話ですよダイスケさん。自分の嫁を選ぶだけです。この後の時間を共に過ごしたい相手を選ぶ。不要なものを排除する――それだけです」


「……………………」じぶんの喉がなる。ニケアはどちらかをといっているのだ。


「えらばれなかった方は消える。……そう、文字通り……」

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