泥棒エルフと寝取られ悪魔?

 ――決戦の朝が訪れた。


 闘技場に居座る黒ドラゴン。正式名称『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス』を倒すのだ。


「ふあーよく寝た。おはよダイスケ」


「……ああ、おはようアステマ」


「よく寝られて、よかったですね……」目の下にクマをつくっているニケア。ぴったりとオレの横についている。


 あれからたっぷり、尋問は続いた。なんどもオレは、やってもいない罪を認めてしまいそうになったけど……なんとか耐え抜いた。耐え抜いたというか……なんというか、その。


 そして――


 最悪のコンデションで朝を迎える。


「ふたりとも、どうしたのだ、疲れ切った表情で……。あ、これは。すまぬことを聞いたかな」ニヤッと、わらうジェラート。


「ちがうから! そんなんじゃないから!!」「ち、ちがいます!!」


 前のめりで否定するオレ達。


 そんなんじゃ……ない。……こともない。


「ふーん。……怪しい。匂うね」


 疑念の視線をむけてくるアステマ。居心地がわるいことこのうえない。


「!? な、なんだよアステマ! だいたいおまえのせい――」


「なーんかニケ。ダイスケとの距離ちかくない?」


「あ……」


 ――ササッ。と、オレと距離をとるエルフ。 


「あと……髪がみだれてるけど」


「……ッ」


 言葉にならない反応をして、ながい耳の先まで赤くするニケア。うしろをむき、木櫛をとりだして髪をすきはじめた。そのプラチナブロンドが、ドーム越しの朝の光をかえしてきらめいている。


「も、もしかして……。あんた達…………まさか」顔色をかえて、あとずさる。

 ……鋭いな。アステマのくせに。


 ――ギリッ。と歯がみした音が聞こえた。気がする……。


「そんなの……ゆるせない」


 アステマがない胸ポケットに手をいれた。


 ――スチャッ。


 よどみのない動きで銃口を向ける。目にはいる、ステンレスシルバーの反射。「おい! よせ!」オレはアステマの腕に飛びつく。


 ――タァーン!


 乾いた銃声。すんでのところで、ニケアに向けられた弾はおおきく軌道を逸れた。


「はなせダイスケ! かえせ! 銃をかえして!」


 オレはその声を無視して、拳銃をとりあげる。


「なにもない! なにへんな想像してるんだよ!」


「あたしには恥をかかせておいて!! あんた達。ついに一線をこえたな!!」


「……こ、こえてないし」声がうらがえってしまう。


「ほんとうに?」


「ほ、……………………本当だ」


「……ほ、ほんとうに?」オレの瞳をのぞきこみ、懇願するような表情でアステマ。


 オレは耐えられず、ついじぶんの視線を泳がせてしまう「……な? ニケア?」


「アステマさん。み ぐ る し い、ですよ」ちいさな鼻をツンとあげてニケア。……おいおい。


「!? クッ……。この泥棒エルフ!!」


 ふむ、『泥棒猫』ならぬ『泥棒エルフ』はあたらしいな――って、そもそもおまえのもんじゃないぞオレは! 

 ふたたび、ニケアにつかみかかろうとするので、それを羽交い締めする「そんなことよりも! 準備をして、闘技場に向かおう。な? アステマ。はやくいこう」


「嘘つき! 止めるなダイスケ!! あんたもあんただ!」


 そんなとき――


「ぷっ」せせら笑いが聞こえた。ジェラートだ。

 こういうタイミングでの嗤いは、いちばん頭にくるんだよな。案の定、アステマが反応する――


「……ダイスケ、どいて」


「あ、ああ……」気迫に押されて下がるオレ。


 ゆらゆらと紅いオーラが漂うアステマ。腕をくみジェラートを睨みつけている。ついに魔力が復活か? ……怒りってすごい。猛烈な勢いでタービンとか回して発電できそうなぐらいすごい。


「いま、わらったな……おまえ」


「よくきけ悪魔。わたしは、わらってなどいないぞ」


「は? 言い逃れするつもり?」


「嘲ったのだ」


「てめえからコロス!」


「ははっ、やってみろ『寝取られ悪魔』」


「んだとオラァ! いまなんといった! いまなんといったーーーーーァ! いますぐ父と兄の後おわせてやんよ!!」


「嫉妬って……こわいです」そういってオレの陰に隠れるニケア。

 いや、あの……あなた強いですよね。きっと、ここにいる誰よりも。

 そういいながらオレをいいながら、アステマとジェラートの間にぐいっと押してくる……。 

 ……ちょ、やめて!


「あ、あの。アステマ……」


「ダイスケ。邪魔するつもり?」


「いえ……そんなつもりは……」


 ――バッ。と両腕をたかく広げるアステマ。その両手に紅き火炎。



「なら、ぜんいんまとめて相手してやんよ!! ぜんいん敵だ!!!!」



 😈



「……こうなったら。倒すしかないです」


 真剣な表情をうかべてニケア。


「……そう、アステマを倒すしか――って、うおい!」


 すんごい既視感あるよこの展開。このあとに続くであろうセリフも解るよオレ!


「ダイスケさん……。気持ちはわかります。でも、もうあのアステマさんは、ニケたちの知っているアステマさんじゃ無い……そう――」



「「嫉妬というフューリにとりつかれた狂戦士。バーサーカー!」」


 きれいにハモるニケアとジェラート。



「そういうの……。マジ、いらないからーーーーーー!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る