起きてしまった悲劇を前に、この場の誰もが心を痛めていた。この場の誰もが?

「『ですっ☆ノート』まだ、もってたんだね……ダイスケ」


「いや、オレも完全に忘れていた……」


 思いだす。ドラゴン追い会場での騒乱のなか、オレが投げ捨てた『ですっ☆ノート』それを拾って届けてくれたのが、そもそものニケアとの出会いだった。


 たしかにうっすらと、オレの記憶にはノートを抱えていたニケアの姿が……。

 可愛かったなぁニケア。その出会いの可愛さの衝撃たるや……いや、いまも全然可愛いんだけどね! そんなニケアの存在に、テンションMAXなオレはノートの存在を完全に忘れていた。


「ダイスケさん『ですっ☆ノート』って、なんですか?」


「そのノートに、なにかあるのか?」


 オレは固まっているアステマを横目に、ニケアとジェラートに説明をする。


『ですっ☆ノート』は、アステマがオレに渡してきた既視感バリッバリの悪魔アイテム。似顔絵で描いた対象を死に至らしめるらしいが、じっいさいに効果をこの目でみたのは初めてだ。だって、オレ似顔絵なんて書けないし……。


 ほんとうに効果があるんだな『ですっ☆ノート』



 😈 



「――と、いうわけなんだ」


「!? そんな……」


「なんたることだ」


 オレの説明に、衝撃をうけるニケアとジェラート。そりゃあそうだろう。間接的にとはいえ――


「『と、いうわけ』ってさーどういう訳? 1からせつめいしてよー。せつめい責任はたしてよー。『と、いうわけ』だけじゃ、なんのことなのか、わからないんですけどー」ニヤニヤするアステマ。


 ……そこに食いつくなよ。スルーするのがお約束だろ。

 って、わかってて言ってやがるなコイツ。


 いや……逆にマジで詳細に説明したろか。

 ぶっちぎりの過去最長セリフで度肝ぬいたろか。そしたら『冥王黒神暴君究極悪魔皇帝龍ヘルエンド・ダークネスオブ・フェルディナントワグナス』なんて、目じゃない惨劇だからな。

 そういう禁断の選択肢もあるってことを世に……



「そんな……しらなかったんです! そのノートがそんな危険なアイテムだったなんて!」


「わたしもしらなかったんだ。ローク……ブッケ、すまない」


 ニケアとジェラートは100点満点のリアクション。優秀な生徒を持って先生はうれしい。きちんと話をすすめようという意欲・姿勢。そんな二人のあるべき姿を前に、我にかえるオレ。


「……アステマ、おまえは反省文な」


「なんでよ!」


「あとでミーティングな、ふたりだけで」


「!? ふたりだけ……あ……うん」瞳を潤ませて、くちびるに手をやるアステマ。


「そういう意味ちゃうわ!!」


「ダイスケさん……命知らずですね」ニッコリとニケア。耳がピンと張っている。


「ちょ、ちがうからニケア! ニケアまでこっちコメディに来ちゃダメ! さ、正規ルートの話すすめよ。ジェラートなんかいって! はい、コメント!」


「異世界の勇者殿……たいへんだな、貴公も」


「そうじゃない!!」



 😈



「……ニケが悪いんです。ジェラートさんにノートを貸してあげたばっかりに……絵を描くのが好きだって聞いたから……ずっと部屋から出てこなくて、元気がなかったから……」


「ニケ殿は悪くない。悪いのはわたしだ。絵を描いたのはわたしなのだから」


「二人とも、悪くないよ。あのノートにそんな危険な効果があるなんて、誰も思わないだろうし、オレがきちんと管理しておくべきだった。だからオレが悪い……」


 偽らざるオレ達の気持ち。起きてしまった悲劇を前に、この場の誰もが心を痛めていた。だが、責任を感じ謝罪を口にしても、ロークもブッケも子ネコのガバナーも返ってはこない……。


「あ、あたしは悪くないからね!『ですっ☆ノート』は、ダイスケにあげたんだから! あたしは無関係なんだからね! あんた達の責任なんだからね!」


「「「(くぉのアマ……)」」」


――ギンと、オレ達の視線がアステマを刺す。


「ビクッ――えっと、あの……。あたしも、すこしだけわるかった……かも、ゴメンナサイ」

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