女神になりたかった悪魔『太陽の沈まぬアステマ』

「ここいがいの何処かなら……どこでもOKさ!」


 親指にグッと力をこめたサムズアップもキメる。


「なんてキラッキラした笑顔なんだ……。そんな笑顔もできるんだね……ダイスケ」


 暗い表情でアステマ。


「世界は広いぞアステマ。世界に飛び立てアステマ! おまえには立派な翼がある(リアルで)いまこそ、はばたかせろ! その自由の翼を!」


「!? ひびかない! ここまで心にひびかない言葉をもらったの、あたしはじめてだ……」


「だから、どっかいけ」


「!? 直球キタ」


「シッシッ」


「うー。ダイスケのばか……ばか」じぶんのひざに、ふかく顔をうずめるアステマ。


 よしよし……。オレはその様子を確認して、ふたたびニケアの耳に唇を――


「あの…………ダイスケさん……。やっぱり、恥ずかしいです。それに……」


 そういったニケアの耳は、先端まで真っ赤だ。身をよじらせてオレに向き直る。


「アステマさんは、聞いてほしい話があるんじゃ……。ニケは席をはずしますね、また後できます。話がおわったら呼んでください」


「あ、ちょ……待って」オレの制止をきかずに立ちあがり、ニケアが部屋を去る。

 そんなエルフの去った部屋に、すこし間があって――


「ありがと……ニケ」


 と、アステマの声が、ちいさくひびいた。



 😈



「メルル。いえ……いまはガバナーだったね。……あの子に、あんなに嫌われるなんて……ほら、やっぱりあたし、悪魔だからさ……キャハハ」


 静寂をやぶったのはアステマ。乾いた自嘲的な笑いがつづく。


「いつもそうなんだ……仲良くしようとすると、こうなる……いつも……こうだ…………ひとりぼっちだ」


「アステマ……」


「……あたしのパパ。魔王だったんだ」


「……(やっぱりな)」


「意外だった? そうだよね。おもいもよらないよね……」


 ……おもったとおりすぎた。


「おどろいたでしょ? かわいくて純粋で高貴で汚れを知らぬ美しさで気品をもち慈愛にあふれ幸福のシンボル的存在なあたしが」


「自己評価ストップ高ッ!?」


「そんな人呼んで『太陽の沈まぬアステマあたし』が……、魔王の子だったなんて……」


「『太陽の沈まぬアステマ』て……」

 もはや個人を讃える称号じゃねぇよ、それ……。っうか、誰がいっているんだよ、それ。

 ……それにしても、アステマが魔王の子。すんげえ納得した。普通の悪魔じゃないとは思っていた。どうりで無駄なハイスペックぶり。そして、あの高魔力……。中身はアレだけど……、すんごくアレな子だけど……。


「驚いたでしょ……」


「いや……」


「嫌いになった?」


「別に……何故?」


「……だって、ダイスケの世界の人間って女神にそそのかされて、あたし達……悪魔を、魔王を倒しにくるじゃない。……ぜんぜん関係ないのに。あたし達、そっちの人間の世界になにもしていないのに……迷いなんて微塵もなく襲ってくる……だから嫌いなんだろうなーって……」


「……たしかに」


 オレは悪魔アステマに連れられて、いわば邪道ルートで異世界こっちに来たけど……転生女神の正規ルートで来ているやつも多いのかもしれない。いわゆる『異世界転生』というやつだろう。好きとか嫌いとかいうよりも、魔王を倒すというのが定番の目的だろうし……。いわばクエスト目標だからな……。


「……そういうの……なんか怖い」


「まぁ、そうだな……」

 魔王側の立場でものを考えたことがなかったから、そんなアステマの言葉にちょっと考えてしまう。


「あたし達は、ただ好きで生きているだけなのに。なんかしらないけどタゲられて、定期的に無茶な強さの勇者が現れてさ。襲われて退治されるなんて、おかしいよ……。だいたいさ、人間も神も好き勝手やってるじゃん。それなのに勝手な都合であたしたち悪魔ばっかり……。パパの最期だって……独りで戦ったのに……4人がかりで。しかも毎日何連戦もさせられて……だからあたし……女神になって」

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