エルフのうすい胸につまっているもの

「あいつおかしいねー。あめ玉おいしいのにねー。ねーメルル」


「ニャー」


「ニャー?」


「あ、ダイスケ。しょうかいするね。新しい家族『メルル』だよ。ほら挨拶して」


「ニャー」


 アステマがそういって、抱きかかえてみせてきたのは子ネコ。


「カワイイ名前でしょ?」


「そうだな……魔法な少女的なネーミングだな」


「『メルル』の由来ききたい? ききたいよねー? ――メルルは人間のクズだった。あたしすら引くほどにどクズな中年のおっさんだった……」


「いや、おっさんて……。ムリあるだろ。そんな名前のおっさんがいてたまるか」


「『メルル』はいつも独りでいて、浴びるように酒ばかり飲んでいて……誰も寄せ付けない雰囲気のゴロツキだった。他人と関わりをもてないヤツで、すぐに暴力で他人を支配しようとして、全員から嫌われていた……でも、ある日。あたしがいたパーティは外法アンデッドの群れに襲われて――全員が逃げ出す混乱の中。あたしは突き飛ばされて逃げ遅れたんだ。……そんなとき、あたしを助けにもどってくれた人間が1人だけいた。そう、それがメルル。……彼はそのまま、あたしの身代わりになって……クッ」


「いいやつじゃん、メルル……。じゃなくて! そういうのいいから! っうか……おまえ、何処の世界にいってたんだよ」


「え? ダイスケの世界……」


「それはねえよ!」


 オレの世界にアンデッドはいない……。いないよな……え? 似たような世界のどこかにいってたのかな? アステマのいうことだしな……でも、この銃は、どうみてもオレの世界の銃だよな……。銃身に彫られたメーカー名もオレですら知っているやつなんだけど……。

 どういうこと?


「名前の由来はわかった……で? そのネコメルルが、どうしてここにいるんだよ?」オレは再度アステマの話をスルーして、話をすすめる。


「カワイイでしょ? 暇だから外みてたらさー、下をチョロチョロしてたんだ。んで、そのままだとドラゴンにたべられちゃいそうだから、つれてきた。これからは、あたしの使い魔として、がんばってもら――」


「ちょっと、まて! いま外からつれてきたって……あ、おまえまさか! どうやって外へ行った?」


 いまのアステマは、魔力不足で空を飛べない。と、すれば……


「え? そりゃもちろん、正面の扉を開けて」


「……ジェラートすまない。これだけ確認したい? どこから屋敷に入った?」


 オレは気になっていた。オレ達の住んでいる屋敷は大商人の屋敷。盗人を防ぐためだろう、ちょっとした要塞のようなつくりだ。だからフツーには入ってこられない。

 出入りできるのは正面の大きな金属扉だけだ。とうぜん、そこは固く閉ざしている。

 だとしたら疑問が残る……。ジェラートがどうやって侵入したのか? しかも彼は片足……。


「入り口の扉からだが……」


「……ですよね-」オレはアステマを睨みつける「バカアステマ!! もしかしておまえ!? 扉開けっぱなしだろ!」


「!? あ、やば……」


「……やっぱり……か」


「あたし、扉を閉めてくる!」


 アステマが部屋を飛び出した。とうぜんオレも後につづいた。



 😈



 幸いにも、他に侵入者はいなかった。

 ……すぐに気がついたからよかったようなものの……。これ、そのままだったら、確実に大惨事。

 いまは屋敷内の確認を終えて、ジェラート以外の全員が食堂に集まっている。


「ねー? ダイスケ。メルル飼ってもいい?」


 当のアステマは何処吹く風で、そんなことをいう。


「だめだめだめ! ぜったいだめだ!」


「なんでよ! べつにいいじゃない!」


「ふざけんのは、おまえの胸だけにしろ!」


「胸のことをいうな! だいたいニケに失礼でしょうが!」 


「ええっ!? ニケ!?」


 とつぜんの流れ弾に、愛するエルフがリアクション。


「ニケアはそのままでいいの! だってエルフなんだから!」


 エルフのうすい胸にはたくさんのものが詰まっているんです。ファンタジー好き男子の夢とか夢とか夢とか……。そもそもエルフで大きいなんて邪道ですよ。えらい人にはそれがわからんのです。むしろこのばあいは、エロい人。


「……やっぱり……おおきいほうがいいのかな……」


 ニケアがじぶんのむねをさする。そのしぐさにグッときた。だいじょうぶ。あとでオレがさすってあげるからね。


「なんでだ、なんでニケはよくてあたしはダメなのさ!」


「っうか、胸の話はいいんだよ! アステマ……。おまえ、この状況をわかっているのか?」


 ジェラートも増えた。食糧問題はいっそう深刻度を増した。


「ふふん。そうくるとおもったよダイスケ。どうせ食糧のことでしょ? それならだいじょうぶだよ。……あたしに考えがある」


自信満々といった様子でアステマ。


「……って、どうすんだよ?」


「ロークとブーケの分を減らせばいい」


 ……鬼かおまえ。

 いや、悪魔か。


「ヒッ……」「あっしらですかい……」湿度を帯びた視線をおくる哀れな老人2人。


「なんか文句あんの! あんたら老い先みじかいんだから、すこしは遠慮しなさいよ! この居候! 無駄飯食らい!」


 ――バシッ。


「いたっ」


「おまえが遠慮しろ!」くってかかるアステマに、オレはチョップをお見舞いした。

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