キスは浮気にふくまれますか?

 アステマからゲットした銃はリボルバー。

 目に入るシルバーがえらく眩しい。


「へえ……おまえセンスあるな」

 こういうのに疎いオレでも解る。カッコいい銃だ。


「でしょ? だいじな相棒なんだ。グライムズっていうんだよ。あたしを飢えたオトコたちからなんども救ってくれた……そう、なんども……。そうだ! 名前の由来聞きたい? 聞きたいよね? それは……ある雨の降りしきる夜の――」


「そういうのいい」


「!? ちょ、ちょっとは食いつこうよ! せっかくだから、話を掘り下げようよ!」


「いいよ。どうせ長くなるんだろ? おまえのそういうの、いらない」


「……なんか雑くない? あたしの扱い……」


「どうせくっだらない話なんだろ? だからいいよ」


「……ぜったいにおもしろいのに」


「なら……これやる」ゴトッと、壺をアステマの前に差し出す「これにおもう存分語れ。こうみえても彼は、異世界1の聞き上手でしられている……」


「え? そうなの?」


「ただの素焼きの壺だ」


「ただの壺じゃん!!」


「ただの壺と、あなどるなかれ。さんざん語り尽くしたら屋上から捨てろ。そしたら、あら不思議。なんかわりと意外とスッキリしているはずだ」


「ホントに?」


「ホントだ。オレを信じろって。トモダチだろ」


「うー、わかった。……ダイスケを信じる」


 そういって、壺を抱えて独り語りを始めるアステマ。



 😈



 ――ある雨の降りしきる夜のことだった。目覚めると見覚えのない白い天井。病室のベットの上だった。あたしの頬には涙が……そうだった、パパは? 人間の勇者共との最期の戦いはどうなったんだろう? 『この戦いに勝ったら引退する』と言って戦いに望んだパパ。

 ついに戦いは始まった。でも……魔界最強の力を誇るはずのパパが劣勢だった。第三形態になったけど、形勢は変わらなくて……。あたしはたまらなくなって、飛びだしたんだ。そんなあたしに無慈悲な剣を振るう人間の勇者。その冷徹な瞳とバッチリ視線が合った『……あ、これでおしまいだ』と思った瞬間。

 ――最期のちからをふりしぼって、パパがあたしを逃がしてくれたんだ……。

 どうやら、ぜんぜん別の世界に飛ばされたみたいだった。いまだから解るけど、ダイスケの世界だったんだ……。

 あたしは涙を拭って、廊下にでると、だれもいなくて……。

 建物の中はなんか随分と荒れていた。灯りも無いから真っ暗だった。耳に入るのは外の雨音だけ。あたしは夜も平気だから見えたけど……ところどころ争ったような跡があって、血痕や、焦げたような肉片が散らばっていた……。

 そんな中を進むと、突きあたりに鎖で閉じられた両開きの扉があった。何て書かれているのか解らないけど、扉には赤い大きな文字が書かれていた。たぶん『ここに入るな』とか『危険』とか、書かれていたんだと思う……。

 そんなことを考えて扉を眺めていると、中から物音がした。あたしは無防備に近づくと……扉が内側から押され空き間から無数の人の腕が!  あたしは声を上げて飛び退いた。無数の腕がうねうねと、あたしを掴もう引きずり込もうと蠢く。鎖のおかげで助かった。奴らは出てこられないようだ。

 ホッとした瞬間。

 背後でズズッ。ズッ――と、なにかを引きずるような音が……。



 😈



 いや……なにそれちょっと! おもしろそうなんですけど!


 まさかのアステマの過去話。その展開に、ゴクリとオレの喉が鳴った。

 ――って、いかんいかん。ここで話を拾うとアステマの思う壺だ。……壺に向かって話しているだけに。ここは話をスルーすることにする。なんか惜しいけど……。


「……話の途中、すまんアステマ」


「『外法!?アンデッド』あたしはとっさに、拳を突き出し叫んだ『火球!グラ』――」


過去の話グライムズ編は、またこんどだ。現実にもどれ」

 オレはアステマの首を、壺からグイッと逸らしてオレに向ける。


「へ? ちょっと! いいところなんですけど!」


「いいから。で? この拳銃グライムズの弾は?」


「弾? そんなものないよ!」


「はい! だと、思いました!」


「ダイスケ……なんだ急に勝ち誇った顔」


「拳銃ある。オレ喜ぶ。で、実際使う段階になって『アステマ弾は?』『え? もうないよ』とか! うちにはそういうの、マジいらないから! ったく……おまえは、ほんとうに使えない駄――」


「弾はむげんだい


「は? むげんだい?」


「うん∞」


「……マジで∞?」


「マジで。あくまのパワーでね。弾の補充かったるいし、隙だらけになるでしょ? だからそうした」


 そうしたて……。すげえな悪魔のパワー。ざっくりとしたパワー名だけどすげえな。たしかに、リボルバーにあるまじき間隔で連射していたなコイツ。


「よくやったアステマ! オレは君を信じていたよ!」


「あー! あやまってよ! あたしを侮ったこと!」


「じゃあ、キスしてやるよ」


「えー。それって……ダイスケがしたいだけじゃ――ん」


 オレはアステマの唇をふさぐ。


「ま……いいけどさ」照れを帯びたアステマの表情「なーんか最近おおくない? このパターン」


「いいんだよ。トモダチだからな。とうぜんのことだ」


「そうなのかなー、ほんとうに人間のトモダチどうしってキスするのかなー」


「する」湿ったアステマの唇を眺めながら断言するオレ。嘘ではない。そういうトモダチ関係もあるよね。世界は広いから、あるよきっと。


 ……だ、断じて、これは浮気なんかじゃあないからね! だって、オレのニケアを愛する気持ちは微塵も浮ついていないんだからね! だからノーカン。


 そんなやりとりをしていると――



 背後でズズッ。ズッ――と、なにかを引きずるような音が……。

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