ダイスケの死

 屋上に着いた。

 あいかわらず、どんよりとした。血なまぐさくて濁った空気がまとわりつく。

『ドラゴン追い祭り』当初よりも、あきらかに状況が悪化しているのが判る。


 ぱたぱたぱた


 宙に飛んでいるアステマ。


 あ、こいつ羽あったんだよな。飛べるのって便利だな。

 ……考えたな、狭い館内より野外の方が、飛べるアステマには有利だろう。


 それを地上(屋上)から睨んでいるニケア。


 よかった。二人の闘いはまだ始まっていなかった。間に合ったようだ。




             😈




「ニケ・アムステルダム。まずは、逃げずにきたことを褒めてあげる」


「逃げずに……。貴方相手に、その必要がどこにあるというんです? ふふ」


「ふん。……この屋上がニケ。あんたの墓場だ! なぜなら、これからあたしの指1本1本からグラゾーマを放つ。つまりは計10個のグラゾーマの同時魔法攻撃。炎魔法の最上位段階であるグラゾーマ。高位の魔法使いでもやっと習得できるあのグラゾーマを10個も同時に扱うなんて!『まさか!?』『あの超美少女が!』『10個同時に……だと』『キャー! アステマ様!』……グラゾーマ10個が合わさった業火は、そう、それはまるで伝説の炎の鳥・フェニックスのよう――だから、人よんで『グラゾーマ・フェニックス!!』」


「……うっわ、じぶんで必殺技の説明している……カッコ悪。しかも、この場にいないモブの煽り台詞まで……」


「う、うっさいわね、ダイスケ!!」


 アステマの顔は、ここから伺えるほどに、燃えるように真っ赤。

 そう、それはまるで『グラゾーマ・フェニックス(笑)』


「そうですか……ならニケも、指1本1本から《氷剣》をだします。それを全て束ね合わせることで、どんなものも貫く《氷槍》を創りだす……そう、それはまるで北エルフ神話の主神『オーディル』が持つ神槍……名付けて『グルグニル・アイス!!』高位の魔装戦士でもやっと扱うことのできる、あの《氷剣》を10本同時に扱うなんて!『まさか!?』――」


「いや、ニケア! 真似しなくていいから! 影響されてる! アステマに影響されてる!!」


 あ、オレ喋れてツッコめているぞ。

 よかった、ニケアの口封じの魔法は一時的なものだったようだ。


「……こほん。――と、とにかく。その『グラゾーマ・フェニックス』ごと、ニケの『グルグニル・アイス』で貴方を貫いてみせます!!」


 ひかえめに頬を染めながらニケア。


 恥ずかしいならやめればいいのに『グルグニル・アイス』

 ま、かわいいから、いいけどね。




             😈




――カサカサカサ。


目の前を枯れ草玉タンブルウィードが転がる。

西部劇のように緊迫感を醸し出す。

……いや、この演出いらないよね。そもそも風吹いてんの? この魔法ドームの中。



「いくよ!!」


 ――ポッ、ポッポポポ。

 アステマの指に次々と炎球が灯る。



「のぞむところです!!」


 ――パキ、キキキキキ。

 ニケアの指1本1本に氷剣が生えた。



 ――ズサー。


「ふたりとも止すんだ! もうやめるんだ!!」

 オレは力をふりしぼって二人の間に割って入る。


 エルフのニケアと、悪魔っ娘のアステマ。二人が……二人の美少女が。それもとびきりの美少女が、オレを取り合って争うなんて馬鹿げている――


 なんて無益な……


 そして、



 なんて【甘美かんび】なんだ!!!!!!!!!!!!!!!!



 このシチュエーション。こんなことが起こるなんて、やっぱり異世界最高ォ! なんという充足感。まさに主人公だよオレ! 異世界はオレを中心に回っているよ! 



「ふたりとも……オレのために――」



 もうたまんない! ゾクゾクきちゃう! 

 口調も、おネェ言葉に変わっちゃう!



「オレのために争うのは! もう、やめてッ!!!!!!!!!!!!」



 キメ顔で絶叫するオレ。




「グルグニル・アイス!!!!」


 がは。


 ぶっとい氷槍がオレの身体を貫いた。



「グラゾーマ・フェニックス!!!!」


 そして、眼前に迫る業火の鳥。


 じゅっ。









 ――オレは死んだ。

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