ニケアVSアステマ。碧と紅の両雄 バトル2

 ぐらりと揺れるニケア。足下がふらついて、そのまま膝をおる。


「せふれ……」


 みると、ニケアの瞳がぐるんぐるん渦を巻いていた。いきなりのことに大混乱しているようだ。


「そう。あたしとダイスケはセフレの仲だ! どおだ!」


 よしきた、これだ! 最期の一手。といわんばかりのアステマ。腰に手をあて胸を反らしている。……いや、そこで勝ち誇る意味がわからない。


「ぐ……、いちおう確認、します。それって……大人な関係ということですか?」


 呻くような声でニケア。


「そうだよ」


「あらためて……確認しますけど。一線をこえたなか。ということですか?」


「すごい勢いで越えたよ。その線」


「……ねんのためにかくにんします。ふたりは……にくたいかんけい?」


「イエス!」



「…………」断言されて、もはや二の句がでないニケア。 



「むしろいまも。ねーダイスケ? さ、つづきしよっ」


「うおい! まてやアステマ!」


 事実無根にも程がある。よくもここまで嘘を吐けたものだ。嘘に迷いなさすぎ。質のよい嘘すぎ。純粋国産嘘100%。


「さ、そういうことだから、お子様のニケちゃんは部屋からでてねー」


 完全に調子にのるアステマ。なんてことをいいやがる。……この悪魔。


「――ぐッ」


 唇をかむニケア。


「あ、それともそれとも、ニケアちゃん『観る?』 おべんきょうの為にさー。それもいいかもねー。あたしはそれでもかまわないけど。むしろ燃えるかも!? キャハハ」


「ぐ、ぎぎ……」


「さ、はじめよ。ダイスケ♥」


 アステマがぐいっとオレの腕を引く。


「……ま、まて、アステマ――って!?」


 足下に広がっていた氷に滑り、体勢を崩したオレは、アステマにおもいっきり抱きつくかっこうになった。


「……あん♥ ダイスケ、大胆。いつもより……積・極・的?」




 ――プツン。



「……もう、いい」


「え? ニケア!?」


「…………………………………………うそつき」


「ニケア?」 


「ダイスケさんのうそつき!! 嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!」


「ちょ、ちょっと落ちつけ、落ち着くんだニケ――」


「ニケと結婚したら、しようって!! それまで……おたがいはじめてだっえ!!」


 涙を落とすニケア。

 その粒は氷となって、ポロポロと床にちらばる。


「いや、だから嘘! アステマのあれ! 嘘だから! ぜんぶ」


「はじめては、お互いはじめて同士で、ね。ふーん。ダイスケそんな約束してたんだぁ?」


「うるさい! おまえは黙ってろアステマ!」


「信じてたのに……しんじて。ニケはダイスケさんのことを、しんじ――」



 ――ブンッ。



「ダイスケあぶないっ!」


 アステマがオレを突き飛ばす。


 ニケアの右手が振りきられる。氷の刃がおおきく空を斬っていた。

 アステマの髪が――パラとおちた。


「……よけないで」


「!?……まて!」


「ダイスケさんいますぐ死のう。いますぐニケと死のう……。ね? ダイスケさん。それしか救われる道ない、ですよ。……あの世で清い愛を永遠に……ね? そうしよ?」


 ピキキキキ。

 

 右手のみならず、左手にまで《氷剣》を生やすニケア。

 それをクロスさせて十字に構える。


「だいじょうぶ……」


「え……」


「すぐにニケも……あとをおいます。……から。ふふ」


 そんな、声が聞こえる。


 氷の刃は輝きを増した。うす暗い部屋を青白く照らしだす。

ニケアの顔は刃のむこうにある。が、その瞳は暗闇に溶け込んで窪みのようだ。


 そこにたつのは、愛するエルフでは無い。もはや一匹の魔物。


「……ありがとう。ダイスケさん。ニケを愛してくれて」


「すごく……しあわせでした」


「だから……ここで」


「……永遠に」


 ニケアの瞳が碧く輝いた。




         😈




「……こうなったら。倒すしかない」


真剣な表情をうかべてアステマ。


「……そう、ニケアを倒すしか――って、うおい!」


「ダイスケ……。気持ちはわかるよ。でも、もうあのニケは、あなたの知っているニケじゃ無い……。そう、嫉妬というフューリにとりつかれた狂戦士。バーサーカー!!」


「そういう解説いらないから!」


「あたしにはニケの真の声がきこえる……」


「は? 声? 何をいって――」


「『倒してください!』て、あたしには聞こえる。ニケの良心。魂の! さけびが!!」



「きこえねえよ!!!!!!!!!!!!」



「わかったよニケ。あたしも本気を、だすしかない……」


「本気で訂正しろ! まずはニケアに謝れって! これ、おまえの嘘が原因だから!」


あなたニケの魂の叫び。あたしは確かに受け止めた……」 


「いやだから! オレの言葉を、まず受け止めろ!」


「たとえ……あくまの力をつかってでも、あなたニケを倒す!」


「話を聞け!! むしろオレはお前を倒したい!!」


「……さがっていてダイスケ」


 そういうと、紅いオーラをだすアステマ。


「まさか……ふたたびこのチカラをつかうことになるなんて……もう、使わないと誓ったのに……。やはりあくま。か。あたしはあくまなんだ。あたしのなかに流れるこの血……このチカラ」


 顔を手で押さえ、そんなことを呻くアステマ。

 あきらかに自分に酔っているご様子。……なんかうれしそうだな、オイ。


 ――バッ。と両腕を広げるアステマ。

 その両手に紅き火炎を纏った。


 こんな技もってたのなアステマ……。

 オレおまえのこと。やっぱ、よくわからないわ……。


 オレの抗議や逡巡をよそに、対峙するニケアとアステマ。


「……ふんっ、とりみだしちゃって、やっぱりお子様。あんたはお子様なのニケ」


「(――ギロ。)どいてください。ニケはダイスケさんと永遠に愛し合うんですよ。そのために、準備をしなきゃいけないんですよ」


「死ぬなら、ひとりで死になさい。あんたはあたしが倒す!!」


「……そうですか。アステマさんはしようと思っていましたが。……邪魔をするんだったら……。まずは! おまえからだ!!!!」


 

――戦闘開始。



……なんだこの、強制バトルイベント。

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