ニケアVSアステマ。カーン!(金属音 バトル1

 ひんやりとした空気が部屋を支配する。


 またたくまに、部屋に冷気が満ちる。


 ……いや、これ気分の問題じゃ無い。フツーに寒いぞ。


 みると、部屋の入り口にたつニケアからは、青いオーラがゆらゆらと出ていた。

 ……ニケア、無意識に氷の魔力でているぞー。魔法が漏れているぞー。


「ダイスケさん……。その娘だれですか? どこかでみたような……」


「んあ? って、あんた誰?」


 アステマがオレの胸から頭をずらし、肩越しにニケアをみる。


「あ……、たしか女神アステマ……さん。お祭り配信でみた人。なんか服装が黒いけど、ダイスケさんと、いつもいっしょにいた人だ……。いつも……いっしょに、いつも……いつもいっしょ」


 パキパキパキ。


「冷たっ!」


 ニケアの足下から、オレの下まで真っ直ぐに氷の道が伸びる。


 パキキ。


 伸びた氷がそのまま伝うように、オレの足へ。そのまま上へと――


「……なにを、していたんですか? 二人で……二人っきりで……」


 これって……このままだと、……ヤバい。


 ――バッ。とアステマを押しのけるオレ。

 氷で足が滑らせながら、そのまますぐに、ニケアの横によりそう。


「しょ、紹介するよ。この人はアステマ、……さん」


 さらりと『さん』付けで、アステマとの距離感をアピールすることを忘れない。


「アステマさん。この娘はニケ。オレの愛するエルフだ」


「……ニケ・アムステルダムです」オレのほうにチラと視線をおくってから、小声で自己紹介をした。その表情は冷たい。

 こんな表情のニケアをみたことがない。いや、すんごい綺麗なんだけどさ。なんか……近寄りがたい系。クール系。リアルに。


「愛するエルフ?」


「そうなんだ……アステマさん。ニケア……オレはそう呼んでいるんだけど、とは結婚の約束をしている。つまり、オレの嫁だ」


「!? え? 嫁」


 驚くアステマ。


「ここから出ることができたら、結婚する」


「出るって? この『ドラゴン追い祭り』会場から?」


「そうだ」


「どうやって? あのジジイの魔法ドーム、めちゃくちゃ頑丈で壊れないよ。隙間もぜんぜんないし……あんのクソジジイ」


「方法はわからない……今は。でも、必ずここから出るんだ。祭りを終わらせるんだ。そしてオレは、この祭りが終わったらニケアと結婚するんだ!」


「……はい、ダイスケさん」


 ふんわりとした笑顔をうかべるニケア。

 そのままオレに頭をあずけてくる。耳のさきが、ちょんとオレの二の腕にあたる感触。よかった……いつものかわいいニケアにもどったようだ。冷気も止んでいる。


「……ふぅん」


 みるとアステマは、メラメラと紅いオーラをだしていた

 何故に!?


「ダイスケの……嫁。ねぇ……この娘が、ねぇ……。へー」


 ニケアに近づき、品定めするように上から下へとジロジロみる。その視線はねちっこくてじつに感じがわるいものだった。

 ……アステマのこういう表情はじめてみた。いつもは脳天気にバカがつく位の軽い、なーんも考えていないような表情なのに。


「……アステマ?」


「なーんか……」


「どうかしましたか? アステマさ――」



「パッとしない娘ねー」



 にぱっとした笑顔で、そんなことをいう悪魔。


 パキッ。


 ニケアの足下が再び凍る。


「まーだ、お子様じゃない……、あ、ごめんなさいねー、ほんとうのこと、いっちゃってー、ニ・ケちゃん」


「ニケは……お子様、じゃ……ない、です……」


「えー? だって、胸なんてぺったんこじゃない。ね? ダイスケ?」


「そうぺったん――ちょ、オレに話をふるな! ……って、オレはぺったんこも好きなんです! だから無問題!」


「そ、そうですよ! ダイスケさんはぺった……。……む、胸がおおきければいいなんて幻想ですよ、いまどき流行りませんよ!」


「そうはいっても、大きいのがすきなのが男なんだから。あたしみたくさあ」


 そういって両手ですくうように持ち上げて、前屈みで胸強調ポーズをするアステマ。


「いや……わるいがアステマ。お前。いうほどぜんぜん大きくないぞ……むしろ小さいほうだと思うけど……。あのさ、気になっていたんだけどさ、おまえ悪魔っ娘コスになってから、なーんか胸大きくないか?」


「――(ギクッ。)」


「あー、その反応! もしかして? おまえ、パットかなにかいれてね?」


「――な、そそそんなこと、ないし!!」


「……怪しいな。だっておまえ、かなりぺったんこ系だったじゃん。おかしいじゃん、こんな短期間で大きく――」


「……そんなの、なんでしっているんだ。ダイスケさん……」小声の低音でニケア。


 ……うわ、墓穴。



「「そ、その話は置いておいて!」」



 オレとアステマがハモる。お互いの利害の一致をみた。

 この話は……マズい。


「……と、とにかく、ニケアちゃんはさ、どうみても子供だってこと。結婚はさー、はやいんじゃない? おとなになってからでも――」


「お、おとなです! こうみえても、ニケは170才ですっ」


 ……あ、170才なんだニケア。いままで聞くのは失礼かなーと、年齢を聞いていなかったけど……さすがはエルフ。それが人間に換算して何才かまったくわからないけど。見た目は、華奢なこともあって、人のJS高学年くらいの幼さを感じさせる。

 ……なんだよ? そんな娘にオレが、いかがわしいことしているだって? いいんです! こうみえてもニケアは170才なんだからねっ! だからセーフ。誰がなんといおうとも、全力でセーフなんだからねっ!


「あーざんねん。あたしなんか680才だから。エルフかなんかしらないけどさあ、相手がわるかったねー」


 680才て。さすがは悪魔アステマ。エルフのさらに上をいっていたか。エルフにまして人間換算で何才か、まったくわからない。ちなみに見た目はJCくらい。ニケアよりは大人っぽいけど、まだまだ子供感はぬぐえない。


「だからー。あたしニケちゃんとちがってさー、おとななんだよねー。超おとな」


「………………………ババァ」


「あ!? なんかいった――」


「それに……その衣装」


「衣装がなにか?」


「あれですか、お年を召された女性が急に露出度が高くなる、あれですか?」


「……ちょ、やめようねニケア」


「……ぐっ」奥歯をかむアステマ。


「焦りすぎですよ………………………ババァ」


「あんだとゴルァ! ガキエルフ! やるか!」


「やってやりますよババァ!!」


 ――チャッ。と銃を構えるアステマ。

 ……あ、やっぱり持っていたか銃。


 ――パキキ。と、手に氷剣を生やすニケア。

 ……そんなこともできるんだニケア。


 って、止めないと。


「ストーップ! ストーップ!!」


 オレは二人の間に入って、ごういんに引き離す。リアルファイトは勘弁してほしい。


「そもそもっ! アステマさんは、ダイスケさんの何なんですか?」


「えっ? あたし……えっと、あれだから……」


「あれってなんですか? ニケはダイスケさんの嫁。妻ですよ。ね? ダイスケさん?」


「…………うん」オレは頷く。


「で、アステマさんは? ダイスケさんの何?」


「あ、あたしは……」


「はっきりと言葉でいってくださいね……ふふ」


 余裕の表情をうかべるニケア。


「あたしは……」


 アステマはオレとの関係性を、なんていうんだろう? 知り合い? 友人? どれもしっくりこない……。そんなんじゃない気がする。言われてみると、オレもよくわかんないんだよな……アステマがどう思っているのか気になる。


「あたしはダイスケの……」


「ふーん。ダイスケさんの?」



「ダイスケの――せ、セフレなんだからねっ!!!!」



「そうそうセフレ……って、うおい! アステマ!」



「!? セフレ!!!!!!?」

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