部屋いっぱいのエルフ娘をヨコセ!

「いったぁ……ダイスケが腕を強くつかむから、アザができちゃったよ」


 二のうでをさするしぐさをするアステマ。


「いいから、アイテムをよこせ。ドラゴンを倒すアイテムあるんだろ」


「強引ねダイスケ……。でも、そういうのキライじゃない」


「はやく!」


「そんなにガツガツしないでよ、もう……」


「よこせ!」


「うー。……はい、コレ」


 アステマがだしたのは一振りの剣。オレはそれを手にとる。


「えらくみずぼらしいな、この剣。おもいっきり錆びているし、ほんとうにこの剣が――」


「話は聞かせてもらったぞダイスケ」


「!?」


「すまない、その剣。わたしに譲ってはくれないか?」


 いつのまにか、オレたちの近くにきていたのは、ベクトールだった。

 黒ドラゴンに殺されて、いまは亡き皇帝の長男にして帝国騎士。


「ベクトール!? おまえ無事だったか」


「ああ、ダイスケ。なんとかな……。それよりも女神アステマ殿。その、やつを倒せるという剣を、わたしに譲ってはくれないだろうか? 父の、そして部下達の敵をとりたいのだ。わたしたちもずっと攻撃を加えているが、あのドラゴンには効き目が無いようだ。このままでは被害も大きい。そして、帝国の威信にもかかわる……」


「ベクトール。え、でも、この剣はダイスケにあげるって……」


「べつにいいぞ」


 オレはアステマにうながす。


「!? いいのダイスケ?」


「べつにいいよ。ベクトールにその剣を渡しても。ただ、オレに褒美はもらえるなら……だ。な、皇帝陛下?」


 皇帝が死んだ以上、目の前の男。ベクトールが現皇帝なのだ。オレは祭りの褒美さえもらえれば、ぜんぜん構わない。


「ありがとうダイスケ。褒美の件はもちろんだ、約束しよう。わたしもタダで剣を譲ってもらおうとは考えていないよ。ところで褒美とは、なにが望みなのだ?」


「エルフ嫁……、いやエルフハーレムだ。えっと、若いエルフの娘が欲しい!」


「……はは、なんだ、そんなことか」


 軽く答えるベクトール。さすがは皇帝陛下。太っ腹!


「エルフ娘たくさん!」


「大丈夫だ、帝国出入りの奴隷商人達に手配しよう」


 この雰囲気は、まだいける!


「部屋いっぱいのエルフ娘をヨコセ!」


 オレはふっかける。


「……ふふ、よくばりだなダイスケ。承知した。ドラゴンを倒したらすぐに用意させよう」


「よっしゃベクトール! きまりだ。ホラよ!」


 オレは剣を放り投げる。パシッとうけとるベクトール。


「この剣で……やつを倒せるのか」


「ふんっ、ダイスケ。また……エルフ……」


「なんかいったかアステマ? その剣の効果、ほんとうだな?」


「……うん。それは保証するよ。その剣は数万のドラゴンを葬り去ってきた『竜殺し』の魔剣。この世界のやつじゃないから、効果がぜんぜん違うよ。手入れしてなかったからボロいけど。なんかドラゴンに効く毒みたいなものが染みこんでいるらしいから、それはかんけいないはず」


「そうか……ならばコレで」ベクトールの視線は、すぐに黒ドラゴンに注がれた。


「がんばれよベクトール」


 オレは笑顔で送り出す。歩み出したベクトールは、こちらをみず、腕だけをあげてそれに答えた。




                😈




「ほんとうにいいの? 剣をあげちゃって。ダイスケがやったほうがいいんじゃ?」


「いや、これでいい。むしろベストな展開だ。リスクを冒さずに目的を達せられる。だいいち素人のオレだと、ドラゴンに近づく前にやられるかもしれない、それに……」


「……それに?」


 オレは、アステマの顔をのぞきこむ。


「きゅうに顔を近づけて、な、なによ……」


 その紅い瞳には、なんの疑念もやましさも見当たらない。

 が、オレには別の考えもあった……。


「おまえ、かなり可愛いんだけどな……。でもな……。まぁ、いい。……さあ、新皇帝の戦いぶりを見学しようじゃあないか」


「……なんか、気になる言い方だけど、そうだね」

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