この女神。目的のためなら平気で人を殺めるぞ
「聞こえた! いま、『しまった』って!」
「くっ……しくじった。まさか人違いだなんて……」
「やっぱ人違いかよ! おかしいとおもったんだよ! 話あわねえし」
「ゴメンナサイ」
ずいぶんと素直じゃないか。
こうしてみると、アステマはそうとうに可愛い。
「……でも、まぁ、べつにいいよ」
「え? 許してくれるの?」
「あれだろ。オレはトラックに撥ねられたから死んだんだろ? そんで転生させてもらったと。それなら、異世界でやりなおせる分、オレはまだツイてい――」
「……あのトラックはあたしが動かした」
「な……、『あたしが動かした』て! それでも女神かよ!」
「だって、死なないと喚べないしー。だからちょっと、ね」
「『ちょっと、ね』じゃねーよ! それ女神の行動じゃねーよ! おまえやっぱ悪魔だろ!」
「は? あくまじゃねーし!」
「どうみても悪魔の所行じゃねえか! その尻尾と羽! ぜってー悪魔だ悪魔!」
「あくまじゃねーよ! 女神だ女神! よし、人違いとわかったら、もうおまえイラネ。もといた世界にもどしてやる。トラックに撥ねられているところスタートな」
「ちょ、おま。なんだそれ!」
😈
「どうしたのかな? アステマ」
オレたちが争っていると人影が近づいてきた。
「あ、ジジ――じゃなかった、大神官ガトー様」
アステマがその人影に、深々と頭をさげる。
現れたのは、賢者といった雰囲気を漂わせたかなり高齢なじいさん。お召し物もえらく立派だ。
「このお方が異世界の勇者どのか。今年の祭りは例年になく、もりあがりそうじゃわい」
そういって目をほそめ、オレの手をとるじいさん。じじいに手をにぎられてもうれしくはない。
「ご協力感謝いたしますぞ。まさか自ら進んで、こちらにお越しいただけるとは」
「へ?」
「あちらの世界では、あらゆる辺境にも足を伸ばし、祭りを盛り上げ民を慰撫して回っていると聞き及んでおります。まさか私達の世界にまで来ていただけるとは……」
「あの……オレ。アステマに殺さ――」
「ちょ、ちょいまち! ダイスケ!!」
すごい勢いでオレの腕をひったくるアステマ。
そのまま、じじいから距離をとる。
「あの……ダイスケお願い。そのことはいわないで」
小声で手をあわせ、懇願するアステマ。
……はーん。そういうことか。
こいつはじじいに頭があがらないらしい。
「あと、ダイスケ違いだってことも、なにとぞ秘密に……」
「じいさん! コイツがオレを殺しま――モゴ」
「ちょ、まって!!」
全力でオレの口をおさえるアステマ。
「しかも人違――」
「ゴメンすいませんもうしませんっ!」
さっきまでの態度とえらい違いだ。
「……なんでも、いうこときく。おねがい」
「なんでも? ほんとうだな」
「うん」こくりとうなずくアステマ。
おっし。女神ゲット。
駄目なやつだから、駄女神というやつだろうか。
いや、そもそも本当に女神なのかも怪しいやつだが……
これはたのしくなってきた。
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