カトラリー・セット

冷たくなったシチュー鍋をナイフが取りに来たのは、それからずいぶんと時間がたってからだった。白い室内の強い光は、少し疲れたナイフの顔に影を落とした。

「フォーク」

「あ、えっと、なに……」

「食事にしよう……腹が減っただろう」

「う、うん」

ナイフはシチューを取り分けフォークへ渡した。場違いに明るい部屋の中、二人は黙ってシチューを食べた。沈黙は重く、冷たいスープはざらついて、フォークは今、自分が何を食べているのかもよくわからなかった。頭をよぎったのは、足元で床と同化しているサクランボのガトーショコラと、ナイフの激昂。先に食べ終わったナイフは匙を置いて、鍋に蓋をした。

「旨いか」

義務的にナイフは問いかけた。しんとした食卓にナイフの声が響き、フォークはびくつく。

「う、うん。美味しいと思う……多分……」

「そう思う理由を聞かせてくれ」

フォークは狼狽えた。理由を問われることなど、今まで一度もなかったからだ。嘘を言えば見抜かれる、あの不透明な黒の目に。フォークはぼんやりしたままの、回りの悪い頭で考えた。

「あなたが……いつも食事をおいしそうに食べるあなたが、作ったものだから……かな……」

「そうか」

ナイフは突然、両目から涙をこぼした。

「あ、あの……」

「本当にフォークなんだな」

「えっ、あの……ええと……?」

ナイフは横に首を振った。

「……何でもない。忘れてくれ。季節の変わり目になるとどうも情緒が不安定で困る」

顔を上げたナイフはいつもと同じ無表情だった。まだ少し中身の残っている鍋を、ナイフは皿と一緒に下げた。



ガラスのコップに光が透け、白い食卓へとプリズムのように虹色を投射していた。

「あ、あの……昨日の、お友達さんは……約束って……」

パンを割りながら、フォークはおどおど尋ねた。

「帰した。俺の客人にちょっかいをかけない。そういう約束だったんだ。なあ、あいつのこと、食べたいと思うか。美味しそうだと感じるか」

フォークは知らずのうちに垂れていた唾液を手の甲で拭った。フォークは首を振る。

「た、食べないよ……友達なんでしょ……」

「俺の友達じゃなかったら食うのか?」

ナイフの呟きに、フォークはぎょっとして顔を上げた。

「そ、そういうことになるのかな。でも、だって、仕方ないよ。良くないっては思うけど、そういう風にできてるみたいだ……」

言い訳のようにフォークは言った。ナイフは虚を突かれたように立ち上がった。カトラリーがテーブルに落ちる。急に立ち上がって身を乗り出すナイフに、フォークは驚き、身を竦ませた。

「えっ、なに……」

「そう思うか。おまえは、そう言うか」

じっと見つめるナイフの真剣な眼差しに、フォークは動けなくなってしまった。しばらく見つめ合った後、ナイフは意を決したように口を開いた。

「チェリーはお前を狙っている。あいつはお前を食べる気だ」

「え……食べるって……」

「言葉通りの意味だ。フォークがケーキを食べるように、チェリーはお前を狙っている。俺はそれを阻止したい」

フォークはぞっとして目を瞬いた。フォークの持つ飢餓感と陶酔が、捕食相手にも同じように備わっている。食べる食べられるの関係の非対称性を否定することは、想像を絶する恐怖だった。

「あいつに近づくな」

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