第15話

「あいつ遅いな」

顔を洗ってくると言ったまま大地は帰って来ない。店主ーー大地の叔父のつかさが首を傾げる。

「ちょっと見てくるよ」

そう言って司が店の奥に行ったきり司まで帰って来なくなった。

1人ぽつんとカウンターに座ってしばらく待っていたが、心配になっておそるおそる大地たちが消えていった奥に向かうことにした。どうやら店の奥は居住スペースになっているらしい。

扉を開けて中に入ろうか迷っていると、急に開いて水咲は頭をぶつけてしまった。

「きゃっ」

「あ、すまない」

出てきた司が謝る。

「い、いえ、大丈夫です。あの、大地さんは……」

「あの馬鹿なら寝てるよ」

「え?」

水咲はぽかんとした。

寝て、る?

「ソファに倒れてたよ」

呆れた声で司が言った。

「寝不足かなんか知らないが、あいつ、よっぽど疲れてるんだな」

まさか。そんな素振りなんて全然見えなかった。水咲を連れ回してはしゃいでいたのに。

でも、そういえば。水咲の前に現れたのは早朝だった。遊びに来るにしては早すぎる時間だ。

ひょっとして、寝るために家を訪れたのだろうか。

「まあ、そのうち起きてくるだろ」

「はあ……」

「それよりお腹空いただろ。なにか作るよ」


司に美味しいオムライスを作ってもらい、その後は司といろんな話をした。大地の幼い頃の話や、デザイナーになると言って高校卒業と同時に家を飛び出したことなど。

「昔から好き勝手するやつだったけど、中学の頃だったかなあ?なんかすごく落ち込んでた時期があったよ。理由を聞いても言わないし、それから家を出たがるようになったな」

水咲はいつも笑っている大地しか知らない。どんな過去を持っていて、どんな人生を歩んできたのかも。

竜樹は……なにか知っているのだろうか。

胸が少し、チクリとした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る