第13話
「叔父貴ー。なんか食わしてー」
カフェ?みたいな店に入るなり大地がそう言うと、店の奥からなにかが飛んできた。が、大地は気にせず受け止めた。
「あぶねーじゃん」
「連絡しろって言ってるのに今まで寄越さないのはどこの誰だバカヤロウ」
「俺じゃなくて水咲ちゃんに当たるだろ」
飛んできたおしぼりをぶらぶらさせながら文句を言う大地。
店の奥にのカウンターに立っている男性はしかめっ面をして大地を睨んでいたが、水咲の存在に気付くと今度は驚いているみたいだった。
水咲は恥ずかしくて抱えている人形に顔を隠す。
「なにおまえ彼女いるの?おまえが?」
「かわいいだろ。ねえ、水咲ちゃん」
「あっ」
隠れていた人形を大地に容赦なく取り上げられて、逃げ場がなくなる。顔が真っ赤になった。
「う、あ、は、初めまして……」
彼女になったつもりはないのだが、水咲はしどろもどろに挨拶した。
大地は男性のことを叔父貴、と呼んでいた。だからだろうか。男性と大地の雰囲気がどことなく似ているように思える。顔立ちとかも。
「それよりなんか食わして。腹減った」
「ここはレストランじゃない」
「いーじゃん。どうせ道楽でやってる店なんだから」
明らかに男性の顔に怒りマークが浮かんだ。
「水咲ちゃん、こっちこっち」
大地が手招きしてカウンターを指差す。座れと言ってるらしい。
「叔父貴、なんか作っといて。ついでに水咲ちゃんの相手もよろしく」
「どこ行くんだ」
「ちょっと顔洗ってくる」
そう言って大地は店の奥に消えていった。男性は大きくため息をついた。
「まったく……」
茫然と立ち尽くす水咲に男性は言った。
「あー、悪いね。あいつに付き合わせちゃって。さ、座って」
促されてカウンターに座ると、男性は笑いながら言った。
「どうせ大地に無理矢理連れ回されてるんだろ」
「はあ……」
「でも珍しいな。誰かと一緒なんて」
「そう、なんですか?」
「よっぽど大地に気に入られたんだな」
水咲は……微妙な気持ちになった。素直に喜ぶのは間違っている気がする。かと言って大地が嫌……という、わけでは、ない。たぶん。
確かに今までずっと苦手にしていた。兄の友人という意識でしかなかった。
でも今日の関わりで水咲の中でなにかが変化した。
好き、とは違う。
嫌い、ではない。
けれど。
恋ではない。決して。
叶わない恋なら、もうしているのだから。
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