第11話

電車が駅に到着し、ドアが開く。降りる人混みに水咲は紛れ込まれそうになる。

その時だった。

「えっ」

突然、大地に力強く肩を抱かれた。そしてそのままドアの外に連れていかれる。

「大地、さ――」

「行くよ」

足がもつれかけたが大地は構わず歩いていく。離れようにも離れられず、水咲は困惑した。

なぜ、いきなり?

駅の改札近くに来てやっと解放され、水咲は驚きを隠さず大地を見た。

「ごめんね。びっくりした?」

笑って言う大地。

でも。

さっきはなんだか。

まるで。

(怒ってた、みたい)

気のせいだろうか。笑っているのに笑っていないみたいな。

そうだ。

大地はいつも笑っている。家に来て兄と喋っている時も、こうやって水咲と喋っている時も。楽しそう、とは違う。

まるで――

自分を守っているような。

逃げている、ような。

「なに?俺の顔、なんか付いてる?」

「……」

「ひょっとしてさっきの気にしてる?」

「いえ……なんでも、ないです」

水咲は表面を取り繕って答えた。大地にはバレているかもしれないが。

「大丈夫です」

「なら良かった」

きっと口に出してはいけないことだ。誰にだって触れられたくない事情がある。

水咲自身がそうなのだから。


改札を出てから大地はどうしよっかなと呟いた。水咲はびっくりして大地を見た。どこかに連れていくつもりではなかったのか。

「水咲ちゃん、どっか行きたいとこある?あ、金の心配ならしなくていーから」

そんなこと言われても困る。

「んー」

大地はまわりをキョロキョロと見渡す。まだ平日の午前中なので駅前周辺は賑わいが少ない。

「このへんも大分変わったなー」

「?」

「俺の知ってる頃と全然違う」

「知ってる、んですか?ここ」

てっきり適当に降りただけと思っていた。

「うん。昔はこの近くに住んでたからね」

その割にはあまり懐かしんでいないような、他人事みたいな言い方に聞こえる。

「ま、いいや。水咲ちゃん、ちょっと付き合ってくれる?行ってみたいとこあるんだけど」

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