第10話
意外だった。
てっきりまたバイクに乗せられると思っていたのに、大地は移動手段に電車を選んだ。
満員、というほどでもないけど電車は通勤通学の人でそれなりに混んでいた。学生たちがお喋りする横で水咲はドキドキしていた。学校をサボって電車に乗っているから、ちょっとでも指摘されたらアウトだ。
水咲はちらりと大地を見た。電車のドアに寄りかかって立つその姿はまるでモデルみたいだ。
と、
「ねえねえ。あの人」
「うん。いいよね」
そんな囁きが耳に入った。少し離れた所に固まっている女子高生たちが、チラチラと大地の方を見ていた。
よく見ると他にも視線が大地に集まっている。しかし当の本人はまったく気にした様子はない。
なんだか水咲は自分が場違いのような気がしてきた。ここにいていいのだろうか。
「水咲ちゃん?どうかした?」
「えっ」
いきなり声をかけられてぱっと顔を上げる。大地が心配そうに見ていた。
「気分悪い?」
「い、いえ!なんでもないです」
水咲は慌てて首を振った。
ヤバい。ただでさえ注目を浴びてるのに大地に声をかけられたら……
「あの人、連れかな」
「彼女?」
「かな」
「ちょっとかわいいよね」
あれ?なんだか、まわりの反応が……
かわ、いい?
水咲が高校生だと、バレてない?
おそるおそる、大地を見た。水咲に聴こえてるのだから、大地にもあの女子高生たちの会話は聴こえているはずだ。
大地はニヤリと笑っていた。
「!!」
やっぱり聴こえていた。
水咲は恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてうつむいた。
「そんな恥ずかしがらなくてもいーのに」
「でも、私……」
彼女だなんて。
「言ったろ。デートだって」
水咲はますます顔が赤くなった。
「今日1日は俺の彼女なんだから、もっと堂々としてれば大丈夫だよ。せっかくヒロに可愛くしてもらったんだし」
本当にそうなのだろうか。ヒロトが鏡を見せてくれなかったので未だに自分がどんな風になっているか、水咲は知らない。自信など持てない。
持てるはず、ない。そんな資格は……あるはず、ないのに。
「わ、私……」
顔を上げれない。大地が見れない。
大地に振り回されるばかりで忘れていた。
とても、大事なことを。
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